チャプター16.バッドエンドの先へ
合点がいってしまった。
どれも信じられんような話だったはずなのに、全ての辻褄が合っていた。
おらが何者かを知りたくて、はじめた旅は。
「さっき言うてた、この世界が終わるってのは」
「そう、ビネガーシンドロームは人の痕跡を例外なく消し去る、遅かれ早かれ全部消えてバッドエンドってコトよ」
世界の真実と言う、予想もしてなかった場所へ辿り着いた。
「……全部、消えちまう」
頭に最初に浮かんだのは、故郷の村のじっちゃんやみんなの顔だった
そんなの嫌だと、胸がきゅっと締め付けられる
けれども、落ち着けてしまっていたんだ。
……こんな時でも設定だからか。
顔が少しずつ下を向いていく。
「hey!!!!」
「んだぁ!?」
パーンッ!!乾いた音が辺りに響く。
おらが驚いて音のなる方を見上げると、フーディが両手を合わせてニッと笑っていた。
「ミオサン顔あげて!暗い顔をしているとビジネスチャンスが逃げてしまいマース!」
「い、いきなりデカい音だすんじゃないわよっ!?」
シアウは耳を抑えてポカンとしている、それを気にせず、フーディは笑ったままおらを見ている。
「人間たちも消えてしまい、このままボクたちも路頭に迷い倒産、そんなコトにならない為に!!ボクたちは、映画の世界を救うのデース!!」
「んだ?……なんかまだ方法があるんかっ!?」
映画世界を救う。
全部消えるはずなのに、そんな事をする意味が何かあったりするのだろうか。
「映画を救っても直接的な解決にはならない」
「なら、やっぱり……」
「でも映画にはね、詰まってるのよ」
「詰まってる?」
「観た人々の明るい感情、主人公をみてああなりたい、いい物語をみて明日も頑張ろう、そんな想いがギュッとね」
小首を傾げたおらにシアウは説明を続ける。
その感情はおらも知っていた。
あの映画で、村の皆から貰っていたものだ。
「そしてそれは、映画のフィルムに蓄積されてるの」
「ふぃるむ?」
「ボクたちの世界がはいってるモノデース!!」
さっきの薄暗い部屋にあるもので。
カタチを含めて平べったい円形の物だと。フーディが補足してくれる。
「美桜、ビネガーシンドロームは?」
「人間の負の感情だべ?」
「じゃあフィルムに詰まってるものは?」
「それとは反対の物だな」
唐突に始まったシアウの問答に、おらは迷いもなくすらすらと答えていく。
「よくできました、じゃあ答えあわせね、ドリームシアターは何をする機械?」
「!! 想いを使って、願いを叶える……!!」
最後の問答にはっとした。
そうか、真逆の想いがあるのであれば。
「正解!私達の目的は、映画を救ってフィルムを集める事!そこに溜まったポジティブな想いを、ドリームシアターに吸わせてこう願うの」
じっちゃんたちが消えないで済む。
助ける事も出来るかもしれねえ……!
「世界を元に戻して、ってね」
──────────────
「おめえたちすげーことしてたんだなぁ!」
「そりゃもう!失敗出来ないビッグプロジェクトデース!」
美桜が目を輝かせている。
真実を知ってもこの落ち着き様なら、大抵は聞いても大丈夫そうかしら。
「これで大体わかったわよね?」
「んだ!なんか色々まだ夢見たいな話だな思うこともあっけど、目の前でこうも見せられちゃあなぁ」
今度はこっちの番ね。
この子の正体を探らないと。
「なら私も貴女に聞きたいコトあるんだけど」
「んだ?ええぞ、なんでも聞いてくれ!」
「私、この世界に来てから色々な映画を観たのよ、それだからわかるんだけど……貴女〈Samurai wonder〉の登場人物じゃないわ」
「……そっか、やっぱりかぁ」
驚くでもなく、私の質問に納得するように美桜は呟いた。
疑問は薄々感じていたのでしょうね。
あの世界にいるには、ジャンルが違いすぎる姿だし。
「貴女いったい何処から来たの?」
「わかんねえんだ、記憶喪失で覚えてるんはじっちゃんに拾われた後のことだけでな」
「……なるほど、記憶喪失で拾われるのはあの映画の本来の主人公とおんなじね、原因はわからないけれど、その筋書きが迷い込んだ貴女に適応されたって感じかしら」
「……おらは」
嘘をつけるほど、器用では無いでしょう。
困った顔をしている美桜をみて、私は思いついた。
フィルム集めに利用できるのでは、と。
「まあいいわ、美桜、貴女にひとつ提案があるの」
「提案?おらにか?」
「そう貴女の能力と頭の回転の速さ、さっき見せて貰ったけど、あれは映画の世界を救うのに役立つ」
能力も性格もこの子は扱いやすくて、丁度いい。
「だから私達と旅をしましょう」
「旅を?」
「そう!人々が情熱を込めて作った聖地!アクション、推理、ラブロマンスにホラー!色とりどりの物語が待っている映画の世界を!!私達は巡るの……ふふ、ふふっ」
「な、なんか気味悪い顔してっぞ」
「観ていたうちにハマったらしくてデスネ……映画に想いを馳せるとテンションがゲットアップ!する時がアリマシテ……haha……」
「ま、正体がわからないのは不安要素だけど、ここまでの貴女を見る限りは危険性はなさそうだからね」
なんか不服な扱いを受けた気がするけど、まあいいわ。
今優先すべきは。
「貴女にとっても悪い話じゃないはずよ、旅をしていれば、貴女がいるべき本来の映画も見つかるかもしれない」
「本来の映画、かぁ」
この子のメリットを提示すること。
食いつきたくなるような餌を与えるのが先決だ。
「本当の家族に会えるかもしれないわ」
「……ほんとうの、かぞく……?」
そうすれば、自然とついてくるでしょう。
「!!……hey!シアウサン!stop!!」
いきなりフーディが声をあげる。
振り向くと珍しく険しい顔で私をみている。
「なによフーディ、いま美桜と話してるんだから邪魔しないでよ、どう?美桜?」
「……おらは、おらは」
観た事はないキャラクターだけど、典型的善人タイプだ。
困った人を放っておけないはず。
本物の家族だって、あいたいでしょ。
なら、引き込むならこれが最適解なハズ……。
「……わりい、ちょっと考えさせてくれ、少しまとめる時間が欲しいべ」
「え?」
美桜の答えは私の予想から少し外れていた、思わず動揺した声がもれる。
「いいわよ、今日は待つわ、明日になったら教えてちょうだい」
「少しこの中を歩いてきてもええか?」
「えぇ、もちろん」
「あんがとな、少し一人になるべ」
冷静を装って言葉を返す、美桜の笑顔は今までのものと比べると何処か力がなくみえた。
ゆっくりと廊下のほうへ消えていく小さな背中。
「……シアウさん、あの誘い方はbadデスヨ」
「な、なによ、ただ提案しただけでしょう、私は」
サングラスの下から刺してくる鋭い視線に。
私は居心地の悪さを感じて、顔を逸らしていた。




