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観客が消えた映画の世界で、作り物の少女は"本物の心"を探す。  作者: 幸いぶん
シアター1.伝奇時代劇『Samurai wonder』
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チャプター15.観客のいない世界


「ちょっと待ってくれ!

本当の世界だなんだって一体なんの冗談だ!

そもそも映画ってのがよくわかんねえし!!」


「歌舞伎や落語とか言えばわかるかしら。」


広い空間に出た。

あちこちにさっきの精巧な絵がでかでかと貼られ

店のようなものまで見える。

… 寛ぐ為の場所か?


「映画って言うのは本物じゃないわ

"作られた物語"なの。

まあ事実を元にしたなんてのもあるけど。

元にしただけで、それはそれ。」


頭の中にめいっぱい色んなものが入ってくる。


「私達はみーんなその登場人物ってワケ。」


でもそんな混乱を他所に

情報を入れられてくと

おらは妙に納得がいく感覚になっていく。


「此処はその外側の"本物の世界"。

私達の今いるここは映画館って呼ばれてたらしいわ。

その物語を現実(そと)の人々が見る為の場所。」


それはおらが

"えるふ"ってもんだからなのだろうか。


「…本物の世界。」


不思議な形のふかふかな椅子。

食べたことのない食べ物の香り。


薄い本のような物が、棚にずらりと並ぶ。

手にとって見るとよくわからん言葉だらけだ。


どこをみても"知らない"が溢れとる。


「世界にはもう私達を見てくれていた

観客(ニンゲン)はいないわ。」


吹き抜けには透明な壁がある

硝子で窓を作っているんだと言われ、

目を丸くした。

けれどもまだ終わらない。


「これが…外の世界なんか…?」


城よりも遥かに高い建物が所狭しと並んでいる。

今までの映画(せかい)とは違う現実(せかい)がある。


窓の外の景色が

そんな荒唐無稽な話を否定させてくれねえ。


「そうよ、ここが私達を作った世界。」


やっと絞り出した言葉に

シアウは相槌をうち一緒に窓の外に目をやる。


こんなに大きい街なのに人影はひとつもない。


「そして。」


誰もいない世界を前にシアウは呟いた。



「── この世界は、今から終わるの。」


…おらは言葉がでなかった。


ただ寂しさだけが、心と街を流れていた。


─────────────────


「どうして誰も居ねえんだ。

さっきの黒いモヤとなんか関係あるんか?」


窓の外を眺めていた美桜がぽつりと口を開いた。


「ふぅん。」


考えてるだけじゃない地頭も良さそうね。

感心したように声が漏れてしまった。


「話を回しやすくていいわね。

いると助かるタイプのキャラ。

フーディの時はもっとうるさく取り乱してたのに。」


「oh!?取り乱すのが普通デスヨ!?」


「褒めてるんかそれ?」


何処か不服がありそうな二人を無視をして

私は話を続けた。


「次はこの現実世界で起きた事件を話すわね。」


「んだ?事件?」


此処からが本題だ

美桜がちょこんと小首を傾げている。


「この現実世界には元々多くの人間がいたわ。

家族の為に働いたり、勉強したり

たまに遊んだり…映画を見たりね。」


「なんだ神様みてえなもんかと思ったが

おらたちとあんま変わらねえんだな。」


どこか拍子抜けしたという表情の美桜。

自分たちの映画(せかい)を作った存在と聞けば

そう思うのも当然よね。


「そうね

でも平穏な時間を過ごしていた現実の人間たちは

神様みたいな力を手に入れてしまったの。」


そんなコロコロと変わる彼女の表情を見つめ。


「"ドリームシアター"」


淡々と私は説明を続けた。


「人の想いをエネルギーに変えて

"願ったことを現実にしてしまう"機械。」


「現実にする、って

…ね、願いを叶える機械ってことかっ!?」


「そうね簡単に言えばそう言うコト。」


「んだぁ…前言撤回だぁ

やっぱすげえんだなぁ現実の人ってのは。」


「そうでもないわ

みんな映画の登場人物みたいに

意思が強くないからね。」


感心したような彼女の言葉を否定する

そう、そんなに良いものではない。


……そうだ現実の人間なんて。


「しあう?」


いつのまにか眉間に皺がよっていたみたいだ

不思議そうな顔で美桜が覗き込んでくる。


「美桜、貴女はなんでも願いが叶えられたらどうする?」


私はその視線から逃れるように顔を背けた。


今は考えなくてもいいことね。

質問を投げられぬうちに質問を投げる。


「おら?んー

じっちゃんや村のみんなが

元気に長生き出来ますように、とか?」


「業績UP!景気上昇!顧客の笑顔!haha!」


「アンタには聞いてないんだけど。」


あまりに清々しい答えにため息が出た。

人間が皆あんた達みたいだったら

よほど平和な世界だったでしょうね。


「はぁー…何処までも主人公気質ね。

それじゃあ他にも沢山願い叶えたい人がいたら?」


「待つべ。」

「待ちマスネ。」


美桜とフーディの二人の声が合わさる。

迷いが無い、一秒すらも。


「…そうはならなかったのがこの現実。」


もっと葛藤するシーンとか入れてもいいんじゃない?

なんてことを思いながら


「人々は自分の願いを叶えたい。と

我先にこのドリームシアターを求めたわ。

そのせいで争いが起きた。」


悪意が無いであろう眩しい存在たちを見て。


「いつのまにかそれは大きな戦争となった。

その悲惨な光景を見た人々の中に

とある想いが生まれてしまったのよ。」


私は内心に覚えた後ろめたさを、

顔に出さないように勤めた。


「"こんな世界いらない"、ってね。」


「…変になった江戸の人たちも言うてた。」


「ドリームシアターは願いを叶えたわ。

それを"人間と人間のいた痕跡を消す"。

っていうカタチでね。」


「江戸のみんなに取り憑いた、

あの黒いモヤは…もしかして…。」


ビネガーシンドロームは"負の感情の塊"

短くした説明を美桜は覚えていたようだ。


「そう私達の映画(せかい)を壊そうとしている

ビネガーシンドロームの正体は

"人間がいた痕跡を消そうとする残火"。」


私は物語と世界を破壊する現象。

その正体を口にした。



「現実の人間たちが残した、絶望の感情よ。」

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