チャプター12.意識に絡みつくもの
正直わからんことだらけだ。
おら何者なのかも
目の前に起きてる妙な事だって
── だけど。
【 ユルサなイ ドウシて。】
『何が起きているかは不明か。
錯乱しているのだけは確かか。』
「…助けねえと。」
絶望に歪んでいるような顔が
"おらなんかいなければ"と思ってしまった、
あの頃の自分と何故か重なってみえたんだ。
「ひとまず押さえ込まねえと。」
しがみついていた物を握りしめる力が
ぎゅっと強くなってった。
(これがどういうもんなのかも
よくわからねえな、とりあえず牽制から…。)
狂った町人と周りにも目を向けてみる
遠目にも黒いモヤが見える、人集りのほうだ。
…まさか広がってるんかこれ?
『考えてソレか、甘いな。』
「んだぁ!?」
考えていた途中に
いきなり鎧兜がおらを頭に乗せたまま
狂った町人へと走り出しちまう。
『興味深い力だが
放っておくと後々面倒になりそうだ。』
「ちょっとまて!おめえまさかっ!!」
再び槌が蒼く光を帯びていく、ワンダーだ。
『面倒になる前に殺す。』
「まだよくわかんねえんだ!早まるな!!」
【くんじゃねえェええ!!キエロオオ!!!!】
そもそも鎧兜はトツ国だ。
町人に手心なんて加えるわけがない…!
『消えるのは貴様だ。』
「バッキャローーッ!!!!」
鎧兜が一気に距離を詰めて
既に町人に槌を振りあげている。
おらはそれが振り下ろされる前に飛びあがると
空中で一回転しながら鎧兜へ向き直る
直接あてるのでは止められない、
なら、根元に…!!
「── 野分ッ!!!」
ぶぉん!鉄扇から大砲のように風が飛ぶ。
槌の根本にぶちあたり
鎧兜の手を離れて槌は後方へ飛んでいく。
『…愚かな…!』
おらの身体が落ちていくなかで
悪態をつく声が聞こえる。
それと同時に
【テヤンデエエエィィ!!!!】
落ちていく先から狂った町人の拳が迫る。
即座に反撃しようとしたが
おらの瞳に町人の顔が
── さっき衝撃波から助けた顔が、見える。
「────ッ。」
鉄扇の動きが、鈍った。
(駄目だ、防御も間に合わね──)
どすんと鈍い打撃音が辺りに響き渡った。
……?
だけど"痛くねえ"。
「……んだ?」
なにもなかった。
殴られた痛みも地面に落ちた感覚も。
【てやん…で…ぃ…。】
目の前で町人がばたりと倒れるのを
いつもよりも高い目線で見下ろしている。
… おらは誰かに"抱えられている"?
ぽかんとしたままゆっくりと顔をあげてみた。
「愚か?トンデモナイデース!!」
高い身の丈に、金色の髪。
全身黒の奇妙な着物。
顔には真っ黒な眼鏡を掛けている。
「自らを犠牲にしてでも市民を助ける。
ヒーローの仕事としては100点デース!!」
「ひいろお…?…びじねす…??」
その男は丁寧におらを地面へとおろしてくれた。
言っていることはよくわかんねえけど
助けてくれたことは確実だ。
「誰だか知らんけどあんがとな!助かったべ!」
「haha!これもボクの仕事なので、
お気になさらないでクダサーイ!
…ってトコトコ何処へ?」
お礼を言うと、
おらは倒れた町人のほうへと駆け寄った。
息はあるどうやら気絶してるだけみてえだ。
あの黒いモヤも…不思議と消えている。
「生きとるかぁ、えかったぁ〜…。」
「! haha!ますます好感が持てマスネ!!」
ふにゃりと力がぬけているおらを見て
金髪の兄ちゃんは陽気な笑っていた。
おらを助けて町の人を気絶させたのか。
あのほんのちょっとの時間で…。
「なあ、おめえさんはいったい何者──」
『貴様一体何者だ。』
おらの質問を奪う様に声が重なる。
槌を拾ってきた鎧兜が帰って来たみてえだ。
こんにゃろう、
よくもノコノコと入ってこれたな…!
「おめえ質問ばっかだなぁ、
自分で考えらんねえのかよ。」
『……。』
鎧兜が無言で此方を睨んでくるのに対して
舌をべーっと出して答える。
「stop!stop!
緊急事態なので喧嘩は後でオネガイシマース!!」
おらたちの様子を見て
金髪の兄ちゃんが慌てて間に滑り込んだ。
「緊急事態…?
おめえさん黒いもやの事なんか知ってるんか?」
「of course!バッチリネ!
デスケド、その前にまず自己紹介デース!!
ボクの名前はグラ──」
「ヒーロー名"グラスホッパー"
本名はフーディ・アーツ
アメコミヒーロー黎明期から代々続いている名作
"グラスホッパー"シリーズの主人公よ。」
自己紹介に被る声に
金髪の兄ちゃん、フーディは頭を抱えて
のー!!と意味のわからない叫びをあげている。
「シアウさん!!!!
本名はやめてクダサーイ!!!
隠れてヒーローしてるのに!!!!!」
「やかましいわよっ!
私たちを置いて勝手に先に行くんだからっ!!
ビネガーに囲まれて死ぬかと思ったわよっ!?」
「貴方も映画の主人公なら何とか出来るデショ!?」
……びねがー?えいが?
聞いたこともねえような言葉がぽんぽん出てくる。
小首を傾げるのが終わらない。
そんな中でフーディの背後から現れる、ふたつの影
『よお桜色の嬢ちゃんっ!!』
ひとつには見覚えがあった
あの瓦版の売り子の兄ちゃんだ。
さっき人集りの方にも
黒いモヤが見えた気がしたが…。
よかった無事だったんだな。
(!! さっき街で見失った…。)
もうひとつは瓦版の兄ちゃんの手を引いていた
シアウとよばれている女。
真っ白で動き難そうな着物と
それとおんなじ色で揺れる長い髪。
その真っ白な髪が目に入り
騒ぎが起こる前の事を思い出した。
日ノ本では珍しい髪の色。
自分のことを知れる手掛かりになるかもと
それを追いかけていたことを。
「なぁおめえら、
話してるとこ少しわりいけど───」
聞きてえことは正直山ほどあるが、
まずは"緊急事態"とやらを聞かねえとな。
そう思って声をかけた所で
シアウの耳がちらりと視界に入った。
おらとおんなじように"尖っていた"。
──────────────────
し、死ぬかと思った…!
肩を揺らして息を整える。
フーディが先にいっちゃうから
私一人でこの人を連れて
逃げなきゃいけなくなったし!
何を考えてんのよ本当にっ!!
「── 耳ーーーーーーッ!!!!!」
怒りに震える私に
指を刺し桜色のエルフが叫ぶ。
その声に驚いて
あわてて自分の耳を触って確認した
…なによ、取れてないじゃない。
「な、なんなのよ。いきなり人を指差して。」
「あっ、す、すまねぇ!
おらとおんなじ耳のカタチした人間みたの
はじめてでさぁ…!」
「… そう。まあ別にいいわよ。」
まるで宝物でもみつけたかのような
キラキラとした目が私に向けられている
トーツ・サマーと戦っていた時とは
まるで別人みたいね。
『無駄話はそこまでにしろ。』
その相手が苛立ったように
ドゴン、とハンマーの柄を地面に叩きつけてる。
地面が少し揺れて、体が少し浮かびあがった。
「はいはい、わかったわよ。」
冷や汗がぶわっと流れ出るのがわかる
間近でみるとおっかなさが違うわね。
これ以上機嫌をそこねる前に…。
「それじゃあ私の自己紹介と
さっきの現象についての説明…の前に。」
と思ったけれど。
そうだったと思いながら私は後ろを指差す。
「んだ?なんか足音が──。」
恐る恐る全員が背後をみると
「アレなんとかして貰えない?」
【キ エロ】
【キ エロ】【きエ ロ】【 キ エろ】
【イラナ イイラナい イラナ イイラナい】
黒いもやをまとったビネガーたちが
──波のように押し寄せてきていた。




