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観客が消えた映画の世界で、作り物の少女は"本物の心"を探す。  作者: 幸いぶん
シアター1.伝奇時代劇『Samurai wonder』
12/17

チャプター11.ビネガーシンドローム


『貴様は一体、なんだ?』


「おらの力は、別物…?」


あたまのなかがぐちゃぐちゃだ

いつもなら もっとかんがえられるのに。



「だったら、"おら"は ──」



ひのもと の にんげんじゃない。

とつくに の にんげんじゃない。


なぜ?


ならどうしてこんなちからが?

だれともちがう?


どこからきたの?

だったら、"わたし"は…。



── また、ひとり…?



『隠したいのか?』


「………。」


ごちゃごちゃと散らばった言葉が

頭の中をぐるぐるとかき混ぜていた。


まるで、おらが"おらじゃない"ような感覚。


低い声が問い掛けてくると

はっと我に帰る。


けれども、返せる言葉は出てこない。



『違うようだな

どうやら自分でもわからないらしい。』


「…まあな、

記憶喪失で拾われてじっちゃんに育てられたから。

おめえたちの国の人間じゃねえかなって…思ってた。」


『そうか、期待に添えないようで悪かったな。』


「ほんとに思ってるんかそれ。」


ぱちんと自分の頬を叩いた。

鉄扇をしっかりと握り、構え直す。



「まあいいや、やることはかわらねぇ。」


『雑念を振り払えないなら、見逃してもいいぞ

"故郷"へ逃げ帰るなりすれば良いではないか?』


「……おめえ、友達いねぇだろ?」


鎧兜も構え直す。


おらの周りに

風がまたゆらりと集まり流れていく



『不要だ。情愛など。』


「いいもんなのにな、もったいねえ。」


鎧兜の全身が、槌が

すうっと、蒼く光を帯びていく


そのまま同時に走り出すと

お互いに武器を振り抜き、衝突────



【そうだ…。】


『何ッ…!?』


「ん、んだぁ…!?」



──── しなかった。



正確に言えば

おらたちの鉄扇と槌は、受け止められていた。




【こんな世界、

消えてしまええぇーーーッッ!!!!!!!】




先程まで逃げ惑っていたはずの町の人に。



「なっ!?なにしてんだおめえ!!」


『どう言う事だ。』


右手で鎧兜の蒼槌を

左手でおらの鉄扇を


引こうとしても掴まれてぴくりとも動かない。


いやそもそも

受け止めてピンピンしてるのはおかしくないか?



「おめえ、腕大丈夫なんか…?」


【ヒノ本も、トツ国もッッ!!!!

ゼンブ、ゼンブッッッ!!!!】


身体が少しずつ、地面から離れていく



「な、なんか頭のほうがやばそ

───んだあああああっ!?」


次の瞬間、掴まれた武器ごと

めちゃくちゃな力で身体をぶぉん!とぶん投げられた。


おらだけじゃない

鎧兜の巨体ですら同じように宙を浮いている。


なにがどうなってっ!?



『日ノ本の人間は、力を隠していたのか。』


地面に槌を突き刺して

ガガガ!と勢いを殺しながら着地をする鎧兜。



「あぶなぁ!」


おらは風でふわっと身体を減速させながら


鎧兜の額の三日月の装飾をがしりと掴み

肩車のような体勢で止まった。



『それとも、貴様の仕業か。』


「だったらなんで

おらまでぶん投げられられてんだよっ!」


火事場の馬鹿力ってやつか?

二人で町人を見据える。



『……。』


「……。」


おらたちの攻撃を受け止めた腕に傷は無く

ぐるぐると回る瞳、焦点がさだまっていない。


まともなところを探すほうが難しい。

そんな中でも、"ソレ"は、一際異様だった。



「黒い…もや…?」


町人から溢れている

いや、べっとりとまとわりついている黒い"ナニカ"



『あれもワンダーではない。』


おらの力とも違う。

モヤのようなそれは、不気味に揺らめいている。


…違う。



「おらたちの力とは。」


全身を襲う重圧は

鎧兜との戦いで感じていた。


それとも違う

強者としての威圧感はそこにはない。



【…シニタクナイ…ナンデ、コンナメニ…。

コエエヨォ…ヤダヨォ…。】


「根本から、何かがちげえっ…。」


あるのは嘆き歪む顔と


全身にまとわりつくのは

なんともいえない、気持ち悪さだった。


────────────


大きく息を吸って吐き出す。



「一度落ち着いて、状況を確認しましょう。」


(一番取り乱していたのはシアウさんデハ?)


何か言いたげな顔を他所に

周りをみまわしてみる。


江戸の街の壊れ具合…よし。

上官の武器は破壊され、膝をついている…よし。


何度も観た

映画の光景と擦り合わせていく。


主人公がわけのわからない存在にすり替わっているが

おおよそ筋書き通りかしら…?


いつもの"異変"とは、やっぱ何かが違うわね


物語を壊す、大きな破綻が見えないもの。



『嬢ちゃーーん!!頑張れーーーーっ!!!』


「……なんか生きてるゥーーー!!!!!」


『うおっ!?な、なんだい姐さんいきなり!?』


「アアアアアアアアアアアアッ!!!!!」


瓦版の気がいいお兄さん、上官に殺される役。

主人公の怒りのトリガーになるモブの死亡…無し。



「もうっ!意味っ!わかんなーい!!!」


「hahaha!確かに、いつもだったらこう

黒いのがワーッ!ってなっててわかりやすいデスもんね!!」


『あ、アンタら大丈夫かぁ?』


「駄目に決まってるでしょ!!!」


頭を抱えて叫んでしまう

いつもの異変と違いすぎるのよ!


これはどこを"直せば"正解なの!?



『不安に思うのはわかっけど…。

きっと大丈夫だ、江戸の街は!!』


「そういうことじゃなくてねぇ。」


『あの嬢ちゃん、よくわからねぇけど

俺の傷を治してくれた

今も、江戸の為に踏ん張ってくれてる。』


瓦版のお兄さんが、

あのエルフっぽいのを遠目から見ている。



『だったら俺たちは信じねぇとな!!

勝ったら蕎麦奢るぞーーーっ!!!!』


その目に、"世界への絶望"は無い。


あのエルフが助けられたと言っている。

物語の細部は確かに変わっている、けれど。



「……やっぱり、あの小さな子、

"ビネガーシンドローム"とは別物みたいね。」


話を聞いてひとつだけ確信したわ。

あのエルフは"世界を壊す異変"じゃない。



【江戸は、終わりだ…。】



ひとつ迷いが晴れたところで

別のモブが何かを呟くのが聞こえた。



『あん?てめぇ、いまなんていった!!』


【全員、殺されるんだ…トツ国に…。】


『どいつもこいつも情けねぇ

身体はって踏ん張ってるやつがいるのに、

それでもてめぇ江戸っ子かい!!』


「!! stop!その人に近づかないでクダサイ!!」


【やだ…シニタクナイ…。】


それを幕切りに

次から次へと伝播していく、"絶望の言葉"


ここまで知らない異変ばかりだったけど。

ようやく始まったわ。



【怖いことも…イタイ、コトも…。】


「hey!コレはいつもの、デスよね!?

シアウさんッ!!」


【ゼンブ、ぜんブ…消えて、しまエ…。】


黒いモヤが

江戸の街の人々に染みつくように絡みついていく。


瓦版のお兄さんだけは

それを慌てふためきながらみている。



映画の正常な部分を食い荒らし

"世界を消滅させようとする現象"。



「えぇ、間違い無いわ。」



映画のフィルムの一部が腐り発酵した香りを放ち

そこから全てが崩壊してしまう。


言うなれば、"映画の死"だ。


実際にある、その現象の名前に重ねて



私たちは、それをこう呼んでいた。



「【映画の癌(ビネガーシンドローム)】よ。」

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