7 崖姫・3
木々を薙ぎ倒すような攻防の音が聞こえる。拓也は魔人を薙ぎ飛ばし、一区切りつけると溜め息を漏らした。
「あいつもう戦ってるよ」
「見つけたんだね」
「俺たちはどうする?」
「私たちは民間人の救助に向かうよ」
次の瞬間、赤い粒子が一瞬空を埋め尽くした。
「あいつの能力?」
「そ。彼の能力」
「俺まだあいつの能力知らないんだよな、非能力者だと思ってたけど、ちゃんとあったのか」
「あるよ。普段は使わなくても問題ないから使わないらしいけど」
一方その頃、耕助のほうでは民間人をかばいながら魔人を倒していくのは幾ら強くてもさすがに無茶苦茶だったらしく、腕を負傷してしまっていた。
耕助の能力は〈高速移動〉で、速度を乗せたキックやパンチは人などというのを一瞬で破裂させてしまえるくらいの力を持つが、だからといって、一瞬ですべてを片付けることができるというわけではない。
『彼らは大丈夫だろうか‥‥‥いや、だめそうだな‥‥‥』
耕助も昭治ほどではないが、ジ感を持つ感知能力者である一般職員のほうを向き、ある程度の状態を見てみれば負傷者が多い。消耗が早い。
いや、それだけではない。崖姫は神である。削除対象としてのランクはゼータ。神である以上、それが生み出す魔人も相当無茶苦茶な強さを持っていてもおかしくない。
『どうする‥‥‥? 昭治を待つか‥‥‥? しかし‥‥‥』
魔人を泥に戻しながら考え事をしていると、ひとり男が近づいてきた。圧で言えば昭治と同じくらいだが、しかし生命に危機を覚える。昭治のような強者が普段怪異に向けているぶんの殺意が一気に自分に向いているようだった。
「‥‥‥小林昭太郎‥‥‥」
男は微笑を浮かべながら、白い拳銃を手のなかで弄んでいる。
「活動は順調か、耕助」
「‥‥‥昭治があんたを探してるよ」
「とすると、奴はまだ組織にいるのか。実家に帰って寿司でも握ってりゃいいものを、奴はいま何処に?」
「教えなくてもわかるだろ」
「‥‥‥反抗的だな」
「言わなくてもわかるだろ」
「まぁな」
「会いに行けよ、弟に‥‥‥」
「冗談じゃない。殺されたら敵わん」
「殺されてこいって言ってんだよ‥‥‥この‥‥‥」
「君は殺しにこないのか、耕助。私の可愛いMamacita」
下衆。青い閃光が走る。男・小林昭太郎に蹴りを入れればそれは見事に白い粒子に遮られ、結果的には跳ね返る。
「崖姫をおろして何を企んでるんだ‥‥‥小林昭太郎!」
「崖姫は神になるために人を食うんだ。神になれば子を生むために人を殺す。それだよ。私は人類の再構築をしようってんだから、人をなるべく多く消してしまえるなら、それに限るとは思わないか」
「言わなくても」
「わかるけどさ‥‥‥バカみたいなやり方でおままごと的に人類の粛清をするから、いまのあんたバカみたいなんだ!」
「細工は流々、仕上げを御覧じろ」
魔人に腹を刺されれば耕助は地面を転がった。
「バカみたいな方法でも人が消えるなら私はそれが愛おしいよ」
「この‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥一般職員が一体倒すのに五分以上をかけるのに対して、君は一秒未満で全部済ませてしまうね。『上』に異名を貰うだけはある」
「あんたが欠けたせいで‥‥‥組織は大変だったんだ、俺を島家に置いたから大丈夫だと思ったんだろうけどやっぱりあんたは脳の少ない馬鹿野郎なんだ、昭治より知能が低いよ!」
「それはないだろ」
「そうだけど‥‥‥罵倒として!!」
その時、赤い粒子が昭太郎を襲った。白い粒子でそれを跳ね返す。
木々の奥から崖姫の頭を持った昭治が現れる。
「挨拶はなしか?」
「クソを流す時に一々『さようなら』って言う奴がいるか?」
「ハハ‥‥‥宣いなさる」
能力エネルギーのぶつかり合い。
周囲に湧いていた魔人は全てその余波に呑まれ泥に戻り、一般職員も耕助もそれに視線を奪われる。
手を合わせる必要もないくらいわかる。
『この人たち、すごく強い‥‥‥』
「お前、弱くなったか?」
「貴様こそ」
「具体的に言えば、十八歳のころを百とすると、今のお前は三くらいか。訓練を怠っているな」
「貴様こそ。飯食わねぇ奴はこれだから弱くなる」
「ハハハ」
不気味なほどに白い弾丸が放たれた。それを真正面から潰すように赤い拳銃が火を吹き鉛色の弾丸を放つ。
これは怒り。これは憎しみ。これは悲しみ。
弾丸。三つ分の攻防の末に、昭太郎は地面に倒れた。
「限りなく本物に近い精巧な人造人間だ」
「人造人間‥‥‥? そんなもの、ありえるのか?」
耕助の問いの最中に、崖姫の頭が握り潰された。
「人類粛清派は人間を作る技術を手に入れたってことだ」




