6 崖姫・2
山のなかに現れたそれは女の姿をしていた。
出動を命じられた一般職員たちはみんな死んだような顔をしている。崖姫が以前現れたものと同一の性能をしていた場合、自分たちは死んでしまうからである。
そのなかでひときわ死んだような顔をしている隊員がいる。昭治である。崖姫がお化けだからとても怖いのである。
「しかしね君たち、君たちは俺を守るのだからそんなに青い顔をされてしまうととても不安になってしまう。尋常維持機構に入ったからには死を覚悟しなければならないよ」
「お前が言う事か?」
手が震え上手くコーヒーが飲めない。ビッチャビチャにこぼしながら、「ふふふ」と恐怖のあまり笑ってすらいる。
「もうすぐ現場に着くぞ」
「も、もしかしてここから歩きかい?」
「お前、山は得意だろ」
「みんなが疲れて俺を守れなくなる」
「いい加減にしろよお前‥‥‥」
次に、昭治は拓也の頭を押さえ地面に叩きつけるようにしながら、蹴りを放った。その蹴りは遠方から跳んできた小さな岩を砕く。
「魔人か?」
拓也は訊ねた。
「どうだろうな」
「一般職員の君たちはね、私の指示通りに動こうね。じゃあ‥‥‥渡! 民間人の姿はある!?」
「五名ほど」
「では、われわれは民間人の救助を優先します」
「賢いね。死なれては切ないから、死にそうになったら容赦なく我々の名を呼ぶんだよ。渡は必ず聞くから」
「はい!」
木々の間を縫うようにして魔人が現れた。
「魔人の数はわかるか?」
「たっくさん」
「たくさんか。仕方ねぇか」
我白は緑色の剣を作り出すと、それを飛ばし、いくつかの魔人をひとまとめに串刺しにして泥に戻した。
拓也は腰に提げていたカプセル上部のスイッチを押し込み、紫色の棒状武器に変形させると、魔人を払い飛ばしていく。
「耕助、君はここにいないで、彼らについて行ってくれないか」
「構わないけれど、なにか見えたか?」
「一応だよ」
「わかった」
青い閃光を出して耕助が戦線を移動する。
昭治は弾丸を的確に魔人の眉間に撃ち込んでいき、ある程度数を削ると、「俺も先に行く」と言い、空を見上げる。
「崖姫が街におりようとしている」
「はよ行け!!」
崖姫は木々を縫うようにゆらゆらと人里に向かって進んでいた。
捕らえた五人の「食料」だけじゃ現世での姿を保つのは難しいらしく、半分人間のような状態での顕現であった。
もっと多く人間を食わなければならない。
では「食料」の救出のために向かってきた尋常維持機構の連中を食えばいいと思うかもしれないが、それは事情が違う。
彼等の大体は能力を持っていた。怪奇の領域に人間が踏み入れた証明であり、食ってもそれほどの足しにはならない。
それに、怒らせてはならない羊を怒らせる。崖姫は、そう考えていたが、考えるだけ無駄であるとは思っていなかった。
羊は怒らせなくとも既に危険であった。
空から男が落ちてきた。
男は両手に赤い拳銃を持っている。
「血の味はお好きか」
「あンじによるべ」
「きっと気に入るさ」
崖姫の身体がバックリと割れ、無数の触手が現れる。それら全てを突くように放ち出すが、昭治はそれら全てを叩き落とし、顔面を蹴りつける。
「お味はどうか」
「まンずい」
「そりゃ結構」




