5 崖姫・1
司令室に集まった四人はそれぞれ「組織よりも上の存在」からあだ名つけられた実力者であった。
「久しぶり、鈍感児」
「我白、君が連れてきた由良湖織からの詮索が鬱陶しいよ」
「あの子君のこと好きだからさ」
「宣いなさる。俺のような男の何処を好くっていうんだ」
「やめとけよ我白、赤い銃創はご立腹だ」
「拓也」
耕助は咥えていた煙草を潰し、姿勢を正した。
それを合図にしてほかの三人も背筋を伸ばす。
「集まったな、四馬鹿」
「今回はいったいどういうんです?」
司令官・柴木龍二はモニターにひとつ過去の報告書を表示させた。それは「崖姫」と呼ばれる神のものである。
「過去に職員百五十名あまりと民間人三人の死者を出した神、崖姫がまたこの世界にやってきた。人為的なものを感じる。もしかしたら〝白い弾丸〟‥‥‥小林昭太郎が絡んでいるかもしれない」
「君のお兄ちゃんだ」
「ンン‥‥‥殺しても構わないので?」
「できることならばぜひそうしていただきたいが、無理はするな。君たちのうちの一人でも失えば我々はとても切ない」
「了解。渡、大丈夫?」
「なにが?」
「すんごい震えてるから」
「大丈夫な訳がないだろう」
昭治はすっと椅子に腰を下ろした。立っていられなくなったからだった。我白は「ずっとそれ治んないなあ」と笑った。
「治るわけないだろ、‥‥‥怖いものは怖いんだ。なんで君たちは‥‥‥慣れているんだい? そのほうがおかしくないか?」
「いやあでも、なんやかんや俺たち生きているし」
「心配する必要もなさそうでは?」
「それは君たちの慢心だ。いけないな。そうだ、君たち俺が死んだら骨は雪の山に埋めておいてくれ。俺はきっと地獄の炎で焼かれるだろうけれど、骸だけはキンキンに冷やしていたいんだ」
「もう死んだあとの話なんてしてるよ」
「呆れた男だ‥‥‥」
昭治は懐から風呂敷を出すと、司令室勤務の職員がすってんころりんと転んでコーヒーをぶちまける。昭治は手のなかの風呂敷を即座に広げて我白にかかりかけていたのを遮る。
「ありがとう」
「どういたしまして。恩だ。ほら、君。我白、君は俺を守らないといけない。俺は死になくない。こわいのだ。わかるかい?」
「こ、こいつ‥‥‥!」
「なんでこいつこんな情けねぇんだ?」
「相棒がアレになっちゃったから‥‥‥」
「可哀想に」
哀れまれている。それがわかっていながらも、昭治は「怖いのだから仕方がない」と開き直った。
「それで、司令官。我々は何処へ向かえばいいので?」
「神奈川にある山に。おい、渡? 大丈夫か?」
「もう駄目そうだ」
「なんなんだよこいつ」
うだうだやってる暇はねぇんだぞ、と拓也は昭治を抱えあげた。駐車場に停めてある人員輸送用車に向かう最中、ずっと震えているので、職員連中は「またやってる」と慣れた態度を取った。
「師匠」
湖織は我白に声をかける。
「あの人、いつもより鬱陶しくないですか」
「これから出向く任務で、小林昭太郎が関わっているかもしれないから頭が変なふうになってしまってるんだ。君は小林昭太郎のことを知っていたかな?」
「はい、あの、午前のうちに知りました」
「おっ、タイムリー」
「止まんないんですか、あの人」
「言葉で止まったら私の喉は枯れてないよ」
我白はそう言って、昭治のケツを引っ叩いた。
昭治は「いたい」と鳴いた。




