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尋常維持機構  作者: 蟹谷梅次
赤い銃創
13/43

13 憤怒中毒・3

 拓也は昭治の一挙手一投足に喜怒哀楽を揺さぶられるほどお人好しではないと自認していたが、どうやらそれも違うらしい。


 痩せ細って気を病んでいた小林兄弟がぷくぷくと肉をつけてくれば嬉しかったし、兄と別れ気を病んでいた昭治が元気になればとても嬉しかったし、昭治に酒を教えた時は兄のような気持ちになったし、煙草を始めたときはインターネットで煙草のやめさせ方を調べたし。


 じっさいのところ、拓也は昭治の三歳年上で、初顔合わせの時だって職員の養成校の学生と十三歳になるかならないかの現人神だった。


 小林兄弟を里蘇天獄の屋敷から助け出したのは拓也だった。ウクレレの音はその時から昭治にとってヒーローが来た証で、拓也は昭治にとって望遠鏡を預けてもいい人間だった。


「昭治! ‥‥‥昭太郎を殺せるか」

「‥‥‥殺すつもりだよ。何度か考えてみたんだ。本当に殺すべきなのかって。けれど、尋常維持機構は小林昭太郎をイプシロン級の削除対象に認定したんだ。だから、やらなくてはならないことは、やるんだ。ほかの職員が殺すくらいなら、俺が殺すんだ」

「‥‥‥‥‥‥削除は、殺すだけじゃないだろ」

「どうしろと?」

「例えば能力奪うとかさ」

「能力は消してもまた生える」


 輸送車の中、他職員の混ざる中、二人は言葉をかわす。


「それに問題は思想なんだ。昭太郎はどうしょうもないくらい馬鹿なんだ。人を襲ってしまっては、もう‥‥‥」

「殺すならせめて話し合いをしろ」

「‥‥‥‥‥‥宣いなさる‥‥‥」


 耕助は昭治の横顔を「双子なのに目つきが似てないものな」と思い、また視線をそらした。


 新潟県旧基地付近、廃校。

 その空はワインレッドに染まっている。


 湖織は銃を腰に提げながら、「緊張しますね」と言う。


「由良くん、君は我白と行動するんだ。わかるね」

「はい」

「勝次、君は解呪班の班長だったな」

「ああ。お前はどうするんだ?」

「戦闘班の三番隊を率いるよ。では、また」


 耕助は高速移動能力持ちを纏めた戦闘部隊の四番隊に指示を出して、廃校付近に出ていた魔人の一掃を行う。


 ここから人里まではだいぶ近い。いくつかの職員の残像と青い閃光が魔人をはじき飛ばしていくのを見ながら、我白は湖織に向かう。


「たまにでいいからあのバカのこと見てやってね」

「はい」


 我白が手のひらから雲を出す。廊下を埋め尽くす魔人は雲を見上げ、そこから雪のようにふわりと舞い落ちる剣に突き刺される。


「さー行ってまいりましょーう」


『さすが強い‥‥‥師匠‥‥‥』


 異名持ちとそうでない者の違いは単純に強さである。その能力を操れる身体性能は「上」から評価される。


「あのおバカは大丈夫かな」

「いくらでも言えますよ、あの人の強さを知るんだから」

「まぁ、そうとも言えるけど」

「しかし、あの人の怒る顔って」

「いったいなに?」

「いい加減だよ」

「そうとも言えるね」


 赤い粒子が纏わりついた拳を振るう影もある。

 白い粒子が迸る拳ももちろん存在していたりする。


「〝赤い銃創〟とはよく言われるだろうけれど、戦いの場を理解せずにこうして飛び出してしまうクセはお前だね、昭治」

「理解せずにいつまでも人を恨むのはバカだな、昭太郎。鳥のいない里で蝙蝠になったってお前は此処に戻ってくればただの戦闘初心者だ。いまのいままで自分が連れてきた弟子に殺人を阻止されて、弟子が〝青い閃光〟と呼ばれるようになったってお前は〝白い弾丸〟を自称するばかりじゃないか」

「説教のつもりか? 煩わしい」


 互いの粒子がひと粒ずつ飛び出して、互いにぶつかり合う。粒子同士が結合して、光の尾を引く光弾になれば、その激しさは増していく。


「今朝、お前と志津子の夢を見たよ。お前はあの夜、『人間は悪』とひとまとめにしたけど‥‥‥それじゃあ、それじゃあ志津子は悪だったか」

「そんなものは、いまは、どうでも良い!!」

「どうでも良い!? どうでも良いだと!? お前も物部志津子を愛した男だろうに!!」


 殴り合った。


 あとからやって来た拓也はそれを見て、叫ぶ。


「バッキャロゥ‥‥‥昭治ィ、昭太郎ォ‥‥‥遠距離選手が殴り合ってどうすんだ!!」

「こうする!!」


 昭太郎は昭治の腹を蹴り、吹っ飛ばすと眉間に弾丸を撃ち込む。昭治は伸身を引き絞りその弾丸を躱すと、昭太郎の胸と首に一発ずつ撃ち込んだ。


「兄ちゃん! 僕のこの赤い拳銃はウォーラブ・クイーンって名前なんだぜ‥‥‥両方さ! わかってんの!? ウォーラブ・クイーンは王様級の女王なんだから連射性能はなまじじゃない!」


 とんできた昭治を受け止めながら拓也は棒状武器を投げ飛ばした。昭太郎はそれを蹴り弾くが、脚に付着する。


「昔の仲間の能力を忘れたか」

「粘着力の付与‥‥‥!」

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