12 憤怒中毒・2
目を覚ますと、昭治は職員寮の自室だった。
部屋の隅の望遠鏡を久しぶりに外に出す。
廊下を歩いていると、其処に我白と湖織がやってきた。
「あっ、なにしようとしてんですか」
「今の季節に空見たって何もわかんないよ」
「‥‥‥それじゃあ、鎹は何処にあるんだ」
「はぁ? あんた何言ってんです」
「昔の夢を見たんだ。久しぶりに空なんて弄りたくなった。いけないことか。そんなに、俺は‥‥‥俺はただ‥‥‥」
「あっ、病んでる。ちょっと、鈍感児ぃ〜」
勝次が呼び出された。それについてくるようにして耕助もやってくる。なにをしても望遠鏡を手放さないだろうから、耕助は昭治を抱えあげて談話室に向かった。
昭治はその間ずっと望遠鏡を抱きしめていた。
「深い傷なんだよ、彼にとって‥‥‥だから、そういうところはたぶんずっと治らないし、治そうともしない方がいい」
我白は困惑している湖織に向かって言った。
「わかります。僕も昔のことをよく夢に見るので。その度に、彼が頭のなかに語りかけてきてくれて、落ち着くんです」
「プライバシーの欠片もないね」
「でも、誰よりも優しい声色で、誰よりも頼もしい言葉なんです。それなのに、そんな言葉をかけられる人間が彼しかいないから、彼が苦しんでいる時、誰も本質的な解決をできないなんて、そんなの辛いって」
ジ感者は共感能力が高い。現世最強のジ感を持つ渡昭治はその能力のせいでたいへん気が弱くなってしまっている。
ほとんど病気のようなものだと我白は思う。
『自分がモノ感だからだろうか‥‥‥』
談話室にはいると拓也がおり、「なんだなんだ」と困惑していた。
「お疲れ状態」
「またか。お前も懲りずによくやるよ」
「やりたくてやってるわけじゃないもの‥‥‥昭太郎は、どうして一人で突っ走るんだ。ずっと隣に俺がいたのに、相談するわけでもなく、一人で穢し屋なんかになったんだ」
「積もる話はあると思いますが。望遠鏡貸して。ココアを持て。お前甘いの好きだろ」
望遠鏡とココアを交換され、昭治は「心安いは不和の基ってよく言うぜ」と泣きながらココアを飲んだ。
「あのことわざ豆知識なんなんですか。この期に及んで」
「物部の真似かなあ‥‥‥私たちと同期なんだ。いっつも状況をことわざで例えててね。私たちはいつも『うるせぇなこいつ』って思ってたけど、昭治だけは『物知りだなあ、志津子!』って目をキラキラさせてた」
やっと心も落ち着いた来たところで、館内アナウンスが走る。
「〝四弦児〟〝雪雲〟〝赤い銃創〟〝青い閃光〟四人に告ぐ! どうせ談話室だな! そのテレビに物を映すので見て頂きたい」
テレビの画面が日曜朝のアニメからある映像に変わった。
それはどうやら新潟のある廃校。
数年前まで使われていた尋常維持機構基地および職員寮のあった新潟某市の田舎町にある廃校だった。ドローンの映像だろうか。
「ここ‥‥‥僕たちが天体観測したところ‥‥‥ここから星空観測すると、とても綺麗なんだ。ここは、僕たちにとって聖地なんだ」
「後で二人で生きましょうよ」
「いいよ」
アナウンス奥の司令官は言う。
「小林昭太郎がそこで邪神を召喚しようとしている」
憤怒。
司令官は「いけるか、渡」と聞かずとも分かるようなことを聞いた。湖織は昭治の顔に赤いラインが走り始めているのを見た。
「言われなくとも向かうさ」




