ep.12『追憶』⑪
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三人がディオニュシアへ出た頃には、すっかり夜も更けていた。
パレードの前日……今日の祭も終わり、屋台も撤収を始めていた。
逃げてきた業者がダンジョンから出てくるとすれば、祭が終わって人々が寝静まった頃だろうという予測が三人にはあった。
その予測は恐らく妥当だったのだろう。
ダンジョンの出入り口にはナディの指示通りに警備を配置したが、今のところ誰かが出てきたという報告は無い……と、先にこの町に戻っていた新聞記者のルカから報告された。
そして、ナディがダンジョンに張り巡らせた蔦にも未だに反応は無し。
ひとまず一同は宿屋にて待機することとなった。
落ち着かない気持ちを抱えたまま、ヴォルガーは廊下でナディと話し合う。
「ともあれ、祭の最中に暴れるようなことがなくてよかった」
ヴォルガーの頭には、現状よりも悪い予測も当然存在した。
人倫にもとる犯罪者達だ。密集した人々に危害を加えないとは断言できなかった。
「逃げるのが目的ならそんなことしないだろうとは思ってたけど……可能性はゼロじゃなかったからね」
「あとは、既に逃げ延びている可能性も考えねばならないか……」
「地上をリラ車で走ったルカより速いってことはまぁ無いと思うけど、誰にも危害を加えず逃げたって話ならそりゃもうしゃあないよ。奪われた荷物のことがあるとはいえ……その後は憲兵達の仕事さ」
「うむ……いずれにせよ、次の被害が出る前に捕まえることができればよいが……」
「……っていうかさぁ」
ナディは、ヴォルガーの出で立ちをじっと見てから叫ぶ。
「お前結局一日中裸だったな!!??」
おはようからおやすみまで、ヴォルガーは今日という日をブーメランパンツ一丁で駆け抜けていた!!!
「仕方がないんだ!! 着替えは闇オークションの業者に奪われたままなんだ!!!」
「でも途中で買え……いやそんな暇無かったか!? ダンジョン出た頃には店なんて開いてなかったし……あー、もう!!」
「落ち着いてくれナディさん!! 俺が裸でも業者を捕まえるのに支障は無いはずだ!!!」
「この際だから言わせてもらうけどな!!! お前の乳首は妙に綺麗なピンク色で女みたいな大きさで気が散るんだよ!!!」
「そんなことを言われても困る!!!」
「こっちだって困るんだよ不埒に乳首を勃起させやがってよ!!!」
「それは最近めっきり肌寒いから!!!」
「だったらなんで服着なくて平気なんだよ!!!」
「ナディさんの方が詳しいと思うが、俺は師匠から魔力循環による体温の調整を学んでおり、どんな環境でも服装を問わず耐えられるような鍛え方を」
「じゃあなんで乳首は勃起してんだよ!!!」
「そこはどうしても敏感なのだ!!!」
「くそぉぉぉ!!! 言っても仕方ないけど気になって仕方ない!!!」
ナディは自らの頭をグシャグシャとかき乱し、その動作で発散した分落ち着きを取り戻していった。
「はぁ……はぁ……。とにかくあれだ、あんまり乳首丸出しでうろつかれるのもなんだし、お前は一旦部屋に入って寝とけ」
「うむ、いつ業者が現れるかは心配だが……」
「そこはあたしの魔法を信じなよ」
「なるほど……それなら安心して眠ることができるな」
ダンジョンでナディの張った植物……あの魔法のことを思い返せば、いつ業者が現れるか、というヴォルガーの懸念は綺麗になくなった。
「ああ、寝れる時に寝とくのも最前線で戦う人間の義務さ。その時が来たら叩き起こしてやっから心配すんな」
「かたじけない。今日のところは日課の乳首開発を終わらせて眠るとしよう」
「……ん? 今なんか変なこと言ったか?」
「いや……? 特には」
「そ、そうか……いや、すまん。聞き間違えならいいんだ」
ナディさんも疲れてるのかな……とヴォルガーは少し心配になったが、とはいえ彼女は師匠のパートナーだった大魔導師だ。
安心して任せよう、とヴォルガーは自分の部屋へと入っていった。
そして、ヴォルガーと入れ違いでラピアがやってきた。
お手洗いに行っていたのが、自分の部屋まで戻ってきたところだ。
「ヴォルガーくん、寝ちゃいましたか?」
「ああ。業者のことはあたしに任せて、あんたも寝たらどうだ?」
「その前に、もう少しお話ししませんか?」
「別に構わんよ」
ラピアはナディの隣で、壁に寄りかかる。
「ナディさんから聞いた盤古さんの話……ヴォルガーくんから聞いたのとちょっと印象が違ったんですよね。ヴォルガーくんの話だと、もっと厳しそうというか」
「ああ、道場を開いてからはそんな感じだった、っていうのはあたしも噂で聞いたかな」
ナディは自分の中の盤古像と噂を交えて、ラピアに語る。
「あいつはクソ真面目で……だからこそ個人個人の自由というのを大切にしていた。そんなあいつも、道場で大勢の人間を教えるってなったらキツいルールで縛らざるを得なくなったんだろうな」
「なるほど……道場を開く前にも、人に指導をすることは多かったと聞きましたが」
「道場の前は少人数だったからね。極僅かの選び抜かれた人間が相手なら、そう難しくはなかったんだろうけど」
そう言いながら、ナディは思い出す。
盤古が初めて自分の技術を伝えた相手は、当時の勇者達だった。
そこから始まった、魔王討伐までの束の間の冒険。
「盤古さんって、偉人中の偉人みたいな印象が強いんですけど、やっぱり色々な苦労と試行錯誤を重ねてた一人の人間なんですね」
「……まぁ、それは間違ってないんだけどさ」
自分の心に盤古が残していった足跡。
もうどんな方法でも埋めることのできないその足跡をなぞって、形を確かめるようにナディは言葉を紡ぐ。
「あたしはさ、あいつは……神様が人類を救うために遣わせた特別な存在なのかなって思うことがあるんだよ。魔族と戦える力を人類に与えるっていう目的にひたすら純粋で、他にはこれといった欲望もなくて、人生全部をその人類のために捧げてさ」
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「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!??? なんだこの馬鹿デカい喘ぎ声は!!???」




