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ep.12『追憶』⑨

***


「ナディさんにとって、盤古さんはどんな人だったんですか?」


 明らかに俗っぽい好奇心を含んだラピアの質問に、ナディは呆れのため息を一つ吐いてから答えた。


「……可愛げの無いやつだったよ。人類のためとかいって強引にあたしのところに居座った癖に、何が食べたいとかどこに行きたいとか……そんなワガママは一つも言やしねぇんだ、あいつは」


 どこか寂しげなナディの答えに、ラピアは優しい声色で答えた。


「大切な人、だったんですね」


***


「ふんっ!!」


 ふいに襲いかかってきた魔狼ナベリスをヴォルガーは文字通りに一蹴した。


「きゃいんっ!!」


 ヴォルガーの蹴りには余裕がある。襲いかかってきた魔物を倒すのではなく、遠くに軽く放り投げるような蹴りだ。

 その一発で、魔物はダンジョンの奥へ撤退した。


「強い魔物も粗方狩り尽くされてる……ということでしょうか?」


 道中で襲ってきた魔物のレベルを思い返して、ラピアは呟く。


「まぁ、そうだな。だからこそ、このダンジョンは閉鎖されたわけだ」

「残った魔物は無闇に殺したくはないものだな」


 ナディはヴォルガーの言葉に頷きつつ、ラピアの放つ光で照らされたダンジョンを見回す。

 エルフのナディにとってもいつ・何の目的で作られたかわからない程の時間を送ってきたこの建築物。

 盤古と共に何度も訪れていた一世紀前の当時、ナディは『もうこれ以上古くはなれないほど古い』という印象を抱いていた。

 しかし、久しぶりにやってきたこのダンジョン……その石畳は隙間も見えないほど苔むして、手入れをされることのなくなったランプは使い物にならぬほど錆び果てて、幾人もの冒険者に攻略されていた頃を知るナディからすれば似ても似つかぬほど寂れていた。


「夢の跡……って感じだな」


 ナディの先導で歩き続けた一同は、いつしか最短ルートの中間地点まで来ていた。

 中間地点まで来ていると判断できたのは『←ピロメロス 現在、中間地点 ディオニュシア→』という看板が堂々と掲げられているからだ。

 すっかり錆びた日常感溢れる看板を見て、ナディはしみじみ思い出す。

 当時の冒険者達には『こういう看板が存在しないエリアこそがこのダンジョンの本番』という意識があり、そんな深層に挑む時、ナディにもなんだかんだでワクワクする気持ちがあったということを。

 今となっては、そんなエリアも存在しないのだが。


「はっきり言って、出入り口の複数あるこのダンジョンを虱潰しに探すのは無茶だ」

「結局ここまで来る道中で、痕跡は見つけられませんでしたしね……」

「逃げるための準備は万端だった、ってこったな」


 そう言いながら、ナディは鞄から一粒の種を取り出す。

 指の先にちょこんと乗るサイズの、小さな茶色の種子だ。


「だから、あたしらの代わりにこいつに探してもらおう」

「種、ですか?」

「ラピア、一つ大事なことを教えてやるよ」


 ナディがしゃがみ、その指先が種子を地面に押しつけると、そこからじわじわと光が漏れだしてくる。


「あたしが開発した『治癒魔法』はな、元を辿れば植物を成長させる魔法の副産物だったんだ」


 種子からは瞬く間に無数の細い根が伸びていき、ダンジョンの地面に細い蔦が張り巡らされる。

 ヴォルガー達の確認できる範囲でも、その蔦はダンジョンの分岐した経路に分かれて根を張り続けていた。


「あたしら以外に出入りする人がいたら、こいつが知らせてくれるってわけだ」

「これでダンジョンの出入り口全部を!? ひゃぁ~……」


 ラピアが興味深そうに蔦に触れると、その瞬間枯れてしまった。


「わっ!? もしかして触っちゃまずかったですか!??」

「そりゃ仕様だよ、仕様。ダンジョンの出入り口全部を網羅する蔦なんてそんな長時間維持できないわ。やったらあたしはぶっ倒れるだろうね」


 業者を捜すための仕込みを終え、ナディが立ち上がろうとしたその瞬間だった。

 天井に張り付いていた黒く小さな影が、ナディめがけて猛スピードで迫ってきた。


「ナディさんっ!!」


 ヴォルガーが咄嗟に伸ばした手は、その黒く小さな影に接触した。

 その一瞬の接触で、ヴォルガーの手に痛みが走る。


「つ……ッッ!!」


 ヴォルガーは勢いよく手を振り、黒く小さな影を払いのける。

 影の正体だったコウモリはその勢いに目を回してフラフラとどこかへ飛んでいったが、ヴォルガーの手には確かに噛み跡が残された。


「お、おいあんたっ!!」


 ナディは焦りを隠さずヴォルガーの手を取る。


「あのコウモリには毒が……!!」

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