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ep.12『追憶』⑦

***


 ヴォルガー達が役所を訪ねると、市長は緊急会議の真っ最中だった。

 魔力の断絶と結界の破損を受けた重要な対策会議ではあるが、人身売買を行った業者が逃走する可能性を考えるとこちらも緊急度は高い。

 ナディが呼び出すと、市長は会議を抜け出してすぐに現れた。


「ナディさん!! まさかこんなに早く来ていただけるとは!! 早速今後の対策のため――」

「悪い、あたしが来たのは魔力の断絶とは無関係なんだ。だけど、こっちも深刻だ。話は聞いてもらうぞ」

「魔力の断絶以外にも深刻な問題が……!? 一体どうしたのですか!!」


 ナディの目に映る市長は思い当たる節こそなさそうだが、真剣に事態を受け止める姿勢であった。

 自分の街で人身売買が行われていると知れば、どれだけ大きなショックを受けるだろうか……。

 想像すると心は痛むが、ナディは真っ直ぐに市長を見据えて事実を告げた。


「恐ろしいことにな……この街で人身売買が行われたらしいんだ」

「えっ……人間って売ったらダメなんですか!!??」

「ハァァァァ!!???」


 予想だにしない市長の返答にナディは語彙を失った!!


「いや、おま、お前ダメに決まってんだろ!!??」

「でも……この街の住民はみんなお金持ちなんですよ!!!」

「なんですよじゃねぇよ馬鹿っ!!!」


 価値観・常識の大きくズレた人間と交わす問答ほど虚しいものも無い。

 ヴォルガーは二人の会話に割って入り、市長の肩をガシっと掴んだ。


「市長……その口振りから察するに、人身売買が行われることも把握していたのか?」

「ひぇっ……なんで裸……?」

「裸の話は後だ!! 知っているのであれば会場に案内してもらおう!!」


 裸の巨漢に肩を掴まれることより恐ろしい状況など、この世には存在しない。

 ガタガタと震え始めた市長は、恐怖で視線をヴォルガーの眼から逸らし、俯く。

 俯くと必然的に、彼の視線はヴォルガーの乳首に吸い込まれた。

 美しく雄々しい二つの桃色乳首は、まるで心の中を見透かす審判者の(まなこ)のようであった。


「ひゃっ、ひゃい……!! 会場はもちろん知っております!! 案内します!!」


 審判の乳首に観念した市長は、ヴォルガー達を徒歩で先導した。

 どうやら人身売買の行われた会場は、車がなくとも行けるような距離にあるらしかった。

街の中心部にある役所……そこからさほど離れていない場所で白昼堂々と重犯罪が行われた という事実。ヴォルガー達は、恐ろしいものを感じずにはいられなかった。


***


「到着しました……ここが闇オークションの行われた会場です」


 そういって市長は、目の前の施設をヴォルガー達に示した。


「ピロメロス公民館です」

「公民館で人身売買をするな!!!」


 ナディは思わず叫んだ。


「ナディさん、公民館じゃなくても人身売買はダメですよ」

「それはそうだけどさぁ!!」


 ラピアに諭されたナディは一旦落ち着きを取り戻し、改めて市長を問いつめる。


「で、業者のいる部屋はどこだよ? っていうか、まだ残ってんのかそいつらは?」

「こちらで確認を……」


 市長は一同を連れて公民館の内側に案内する。

 入り口の近くに掲げられた掲示板に、その文字は確かに刻まれていた。


『地下2階 大ホール 10:00~12:00 闇オークション』


「随分と健康的な闇オークションだなこの野郎!!!」

「そう言っていただけると救われた気持ちです」

「褒めてねぇよタコ!!!」


 しょんぼりした市長が公民館の職員に確認したところ、業者はまだ帰っていないという。地下2階大ホールと繋がる控え室にいるはずだ。

 オークションの出品のために大量の荷物を抱えていた以上、職員達に気づかれないうちに出て行くことも難しい。

 付け加えれば、裕福な街故に警備にも金はかけられており、悟られずに空間魔法で移動するということも考えづらい。


「よかったですね、逃げられる前に解決できそうです!!」


 連絡を入れた憲兵はまだ到着していないが、戦力的には申し分ないメンバーだ。

 取り押さえるのに失敗することはないだろう、とラピアは安堵する。


「……だといいんだけどな」


 しかし、ナディには一抹の不安があった。

 その不安が杞憂であることを祈りながら地下二階の控え室の扉を開くと――そこには、誰一人として存在しなかった。

 ただ、出品した美術品のためのコンテナや梱包材などが乱雑に散らばるばかりであった。


「あれっ、誰もいません……」

「荷物だけを置いて逃げ出したか?」

「だけど、空間魔法で人だけ抜け出しても感知はされるはずですよね……」


 非常事態に戸惑うヴォルガーとラピア。

 一方のルカは、書類と部屋に残された荷物を見比べて戸惑う。


「うーん……やっぱり無さそうッスね」

「ルカさん、何が無いんですか?」

「これ、今回のオークションにあたって公民館への持ち込みを申請したもののリストなんスけど」


 そういってルカは、質問してきたラピアに書類を見せる。


「小型の飛竜が21匹も申請されてたんスよ。でも、これは結局出品されなかったみたいで……」

「梱包材は放置したけど、出品しなかった物は持ち帰ったということでしょうか……。でも、こんなに沢山の飛竜を連れ帰ったなら尚更気づかれずに抜け出すのは難しいはず……」


 小型、とはいうがそれはあくまで飛竜としては小さいという意味であり、一匹一匹が大型犬くらいの大きさはある。

 オークションの業者が魔物の状態にどれだけ気を使っていたか定かではないが、それを閉じこめておける檻となればどれだけ小さくても馬鹿にならないサイズのはずだ。

 ラピア達が考えあぐねている一方で、ナディは壁を撫でて何かを確かめている。


「ナディさん、その壁に何かあるのか?」

「……この街が栄えたのには理由があってな」


 ナディがそういうと、彼女の触れる壁に魔法陣が浮かび上がる。


「これは……!?」

「この街にはな、ダンジョンの入り口があったんだよ。中にあるお宝やらなんやらを目当てに大勢の冒険者が集まった」


 その言葉を証明するように、地下室の壁は『開かれた』

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