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ep.2 『爆弾』⑤

***


 魔法の杖を灯りにしたラピアに連れられ、ヴォルガーは深いトンネルの奥へと来ていた。

 宿屋の亭主が『鉱山しかないような村』と言っていたが、ここがその鉱山の奥だ。

 本来無断で立ち入るべき場所ではないが、そうも言っていられない緊急事態だとラピアは考えていた。

 ラピアの考えを抜きにしても、ここに魔王軍が隠したい何かがあるに違いないとヴォルガーも得心していた。

 この鉱山に到着するまでに大量の魔物、そして何体かの魔族を倒してきたからだ。


「ヴォルガーくん、これです!!」


 トンネルの奥深くで見つけたものは、黒く大きな金属の塊であった。

 人間としてはかなり長身なヴォルガーの背丈すら超えたサイズの、威圧感がある物体であった。


「なっ……!? これは!?」

「魔力を圧縮した爆弾です!! 魔王軍が隠したかったのはこれに違いありません!!」


 膨大な魔力を持つ爆弾を、人間達に悟られないようここまで運ぶ。

 それが魔王軍のミッションだったということはヴォルガーにも想像がついた。

 そして慎重に進められたこのミッションは、成功まで後一歩というところまで進んでいた。

 近隣に住む人間達はこの危機を『最近、強力な魔物が増えた』というレベルでしか認識できていなかったのだから。


「しかし、何故こんなものを……?」

「この鉱山で採れるのはケラシアナイトです。詳しい用途はわかりませんが、それを狙っているとしか思えません」

「つまり、この爆弾で鉱山を一気に吹き飛ばして……」

「ケラシアナイトを根こそぎ奪う、という作戦だったに違いありません」


 要するに、この爆弾にはここら一帯を吹き飛ばせるほどの威力がある。

 ラピアの見立てであれば間違いないだろう、とヴォルガーも納得できた。


「これが爆発したら、近隣の村は……」

「壊滅します。避難の余裕もありません」

「なるほど、わかった」


 全てを理解したヴォルガーは、黒いタンクトップを脱ぎ捨てた。

 暗い鉱山の中、瑞々しい胸筋にそそり立つ艶やかな桃色の乳首が夜空に浮かぶ星々のように輝いていた。


「つまり……この爆弾に穴を開けて、噴出した魔力を全て俺が受け止めるしか方法が無いというわけだ」

「はい! その通りです!!」


 ラピアはヴォルガーの背中にそっと、支えるように両手をくっつけた。


「!」

「噴出した魔力をヴォルガー君の身体に誘引しながら、同時に治癒魔法で再生します!! ヴォルガー君はひたすら耐えてください!!」

「悪いな、面倒な役を任せてしまって」

「お安いご用です!!」


 ヴォルガーは右手を貫き手に構えて、指の先端に魔力を集中させる。

 貫き手が高い威力を発揮するための、正確無比な筋力と魔力のコントロール。

 魔力をため込んだ分厚い金属の壁をぶち破るための準備は、達人の短い動作で完璧に整った。


「ラピアさん、準備は大丈夫か!?」

「いつでもOKです!!」

「わかった!! いくぞッッ!!」


 金剛力の込められたヴォルガーの貫き手が、爆弾に突き立てられる。


「ハァッッッ!!!」


 果たして、その手は分厚い金属の壁を突き破り、開かれた穴からは膨大な魔力が一気に噴出する。

 それを一身に受け止めるヴォルガーには、視界を覆うほどの眩い光が降り注ぐ。

 深く、暗い夜闇の中、まるでここにだけ夜明けが訪れたかのような輝きだった。


***


(……夜明け、いや、ラピアさんの灯火か)


 目を覚ましたヴォルガーは、当然のことながらまだ鉱山の中だ。

 瑞々しく輝いていたヴォルガーの肉体……その前面、胸から腰にかけての部位は見る影も無いほどに黒く焼け焦げていた。

 仰向けで治療を受けていたヴォルガーの口、その端から一筋の血が滴り落ちる。


「内臓にまでダメージを喰らうとは……俺もまだまだ鍛錬が足りんな」


 魔法による治癒を続けているラピアに向けて、冗談めかした言い方でヴォルガーは呟いた。


「誘引と再生を同時にするのはちょっと難しかったですね! お互い、もっと練習しましょう!」


 寝そべるヴォルガーに向けて、ラピアはにっこりと笑みを向ける。

 そして、ラピアはほとんど炭化しているようなヴォルガーの表皮の治療を進める。

 内臓や骨といった内側の再生はとっくに完了している。

 鍛え上げられた分厚い胸筋、その本体も既に再生済みだ。

 ラピアはその表面を、ゆっくり、優しく、愛するように撫でながら治療する。

 しかしヴォルガーは治療を受けながら、自分の身体を触られているような気がしない妙な気持ちになっていた。

 普通、傷口に触れられれば当然痛い。

 しかし、炭化した表皮を撫でられていると痛みどころかくすぐったさすら感じない。

 これが、限界を超えたダメージを受けるということなのか……。

 ヴォルガーはただ、ラピアの掌――そこから発せられる魔力の温かさを感じていた。


「ふぅ……ちょっと、疲れました」


 そういってラピアは、ヴォルガーの隣に横たわった。


「すみません……続きは、一休みしてからで……」

「ああ……ありがとう」

「でもほら……見てください」


 ラピアの視線の先をヴォルガーも追う。


「お、おぉ……!!」


 そこにあるものを見て、ヴォルガーも思わず感嘆の声を漏らした。


「乳首が……乳首が綺麗に再生されている!!!」


 真っ黒に焦げた表皮の中……桃色の乳首だけが瑞々しくその姿を蘇らせていた!!!


「乳首が無いと生きていけませんからね!!」


 ヴォルガーに向けてにっこりと笑うラピア。

 その笑みを見て、ヴォルガーもふ、と笑みをこぼす。


「結局のところ……俺はラピアさんに頼らなきゃならんようだな」

「当たり前ですよ!! だって私達……」


 ラピアは一呼吸置いて、頬を赤く染める。


「恋人同士じゃないですか♡」

「え゛ぇっっっ!!??」


 身に覚えの無い宣言に、ヴォルガーは思わず飛び上がる!!


「おわっ!! まだ起きない方がいいですよ!!」

「いや待ってくれ待ってくれ!! いつ俺とラピアさんがその、そういう関係だという話になったんだ!!?」

「いつって……出会ったあの日に決まってるじゃないですか!!」

「え゛っ!!??? 出会った日に何か、そんな何かがあったか!!?」

「ヴォルガーくん、言ってくれたじゃないですか……!!」


***


「頼む!! 貴女が必要なのだ!!」


 ヴォルガーはその逞しい両腕でラピアを抱えながら、そう請うた。

 強力な呪術を操る敵との戦いに、SSS級ヒーラーであるラピアの力は不可欠……。そう判断して、勇者ギデオンとリア王女の待つ戦場へと向かう途中のことだった。


「私が……必要……!?」


 赤子の頃から修道女として戒律の厳しい生活を送ってきたラピアにとって、このような情熱的なアプローチは生まれて初めてであった。


***


「……思い返しても一切納得できないが!!??」


 トートロジーになってしまうが、ヴォルガーが『必要なのだ』といったのは『必要なのだ』という意味である。

 決して、恋人になってくれと迫ったものではなかった。


(え゛っ……!? 『必要』といっただけでそう解釈されてしまうものなのか!? 貴女の『力が』必要、とそう言うべきだったのか……? そんな細かい言い回しの違いでこんなことに……!!??)


 ラピアの思い込みがおかしいのか、自分の言い方がまずかったのか。

 ヴォルガーには判断しかねるところだが、とにもかくにもハッキリさせなければならない……それだけは間違いなかった。

 ヴォルガーは改めて腰を下ろし、ラピアに向き合う。


「ラピアさん……俺の言い方がまずくて誤解してしまったなら申し訳ないが、あの時はラピアさんのヒーラーとしての実力を求めていたのであって、決して恋人になってほしいという意味ではないんだ」

「……ヴォルガーくん」


 ラピアはヴォルガーの瞳をじっと見つめて、返した。


「照れ隠ししなくてもいいんですよ!!」

「照れ隠し扱いされたらもう無敵じゃないか……!!」


 ヴォルガーは愕然として、崩れ落ちた。

 様々な強者を打ち破ってきたヴォルガーだったが、ここまで隙の無いガードで身を固める相手は一人としていなかった。

 愕然として崩れ落ちたら、麻痺していた痛みが蘇ってきた。

 彼の逞しい身体、その全面は桃色の乳首を除いて黒焦げなのだ。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!! 痛ぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!」

「あっいけない!! 治療!! 鎮痛!!!」


 とにもかくにも、彼の戦いにはラピアが必要であった。


≪続く≫

何卒!!!!


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