ep.12『追憶』⑥
「いや、待ってほしい!! 俺としても不本意なんだこの格好は!!」
「不本意で裸になって墓参りするやつなんて聞いたことねぇよ!!! なんでよりにもよって墓場で裸なんだお前は!!!」
「それなんだが、お世話になった人の奥さんの墓参りに来ていてな……」
「お世話になった人の奥さんを裸で参るな!!!」
激しい口論の最中、自分に向けて叫ぶ女性の姿をしっかり認識したヴォルガーは思わず驚愕する。
「あっ、貴女はもしや、師匠のパートナーだったナディさんでは!!?」
「そうだ、裸にビックリして自己紹介を忘れてた!!」
裸は一旦置いといて、ナディは改めてヴォルガーに挨拶をする。
「あんたの言う通り、盤古と一緒に活動してたナディだ。挨拶が遅れて悪かったね」
「開天盤古に師事していたヴォルガー・フィルヴォルグと申す者だ。面識が無かったとはいえ、貴女は俺にとっても恩人同然……お会いできて光栄だ」
ヴォルガーはナディに向け、深々と頭を下げる。
裸で墓地をうろついているのを見つけた時はキチガイじゃないかと疑ったナディも、挨拶を交わしてヴォルガーを幾分か信用できるようになった。
墓地を裸でうろつくことの是非はともかく、その逞しい肉体を見ればヴォルガーがどれだけ真面目な格闘家なのかはすぐにわかる。
ナディにとって、盤古の残した最後の弟子が己を律して鍛え、戦っているというのはそれだけで嬉しいことでもあった。
(……乳首がやたらと綺麗なのは気になるが)
艶やかで美しいヴォルガーの乳首は、嫌が応にも目を引いた。
引いたが、ナディはあえて触れなかった。
人の乳首にツッコミを入れるのは流石に失礼だからだ。
一方、桃色の乳首を自由奔放に勃たせるヴォルガー。彼はふと、ナディを訪ねようとしていた理由を思い出した。
そして、その大事な用件をナディに伝える。
「そうだ! 師匠から貴女に渡してほしいと、大事なものを預かっている」
「渡してほしいもの……?」
思い当たる節がなく、疑問符を浮かべるナディ。
ヴォルガーは、師匠の頼みを果たすべく腰につけた袋を手に取ろうとする……が、そこにあるのは漆黒のブーメランパンツばかりであった。
「あっ、そうか!! 袋も業者に取られたままだったか!!」
「えっ、それ大丈夫なのかよ!?」
心配するナディに向け、ヴォルガーは言う。
「すまない、とにかくまずは街へ向かおう」
宣言通り、ヴォルガー達は街へ向けて歩き始める。
その道中でラピアは自分達の事情をざっと説明した。
パレードの町・ディオニュシアで偶然ルカに会い、ナディの住所を教えてもらったこと。
そして、ナディの協力を得てこの街まで来たこと。
「そうか……面倒をかけてしまい、本当にすまなかった」
ヴォルガーは改めて三人に頭を下げると、次は自分の事情を話し始める。
「実はラピアさんの元から逃げ出した後、108人の刺客に囲まれてな……誘拐された俺は、闇オークションに出品されていたんだ。俺が裸なのもそれが原因だ。そして100億という大金で競り落とされたんだが、落札者が案外いい人でな。街に魔物が侵入したのをきっかけに解放されることになったんだ。さっきまで一緒にその人の奥さんの墓参りをしていたのだが、実は落札に使った100億のうち50億は銀行に嘘をついて融資を受けていたらしくてな……その人は返済のために頑張ると言っていたよ」
「さっきから何言ってんだおめぇ一つも納得いかねぇよ」
ありのままに伝えられた事実は、ナディにとって受け入れがたいものであった。
「よくわかんないッスけど、後で詳しく聞かせてもらっていいッスか!?」
「まさかヴォルガーくんが闇オークションに出品されていただなんて……無事で本当によかったです」
ゴシップの匂いに色めき立つルカと、純粋にヴォルガーを気遣うラピア。
そんな中、ナディはふと一つの重大な事実に思い当たる。
「……いや、ちょっと待て。この街で人身売買が行われてるってことか!?」
「「「!!??」」」
その事実を明文化されたことで、一同は事態の深刻さにようやく思い至った。
「そう言われてみればそうだ……これはいかん!! 俺以外にも被害者はいるかもしれん!!」
「この大スクープは流石に笑えないッスよ……!!」
「と、とにかく街に戻りましょう!!」
「おい、ヴォルガー!! そのオークションがどこであったかわかるか!?」
場所さえわかれば人身売買を行った業者を捕らえることも可能かもしれない。
そんな期待はあったが、ヴォルガーは静かに首を横に振った。
「すまない、会場から出る時は目隠しをされていて、俺にはどこだったか……」
「くっ……とりあえず市長のとこに行くぞ!! あたしが案内するからついてこい!!」
今なら業者を捕らえ、被害の拡大を防ぐことも可能かもしれない。
一同は待たせていたリラ車に乗り込み、市長の元へ猛然と駆けていった。




