ep.12『追憶』⑤
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翌日、ラピア・ナディ・ルカの三人はリラ車に乗って富豪の集まる都市・ピロメロスに向かった。
その道中、ナディはラピアに、昨日から気になっていたことを尋ねた。
「そもそも、そのヴォルガーってやつは一体どうしてお前とはぐれたんだ?」
「実は昨日、ヴォルガーくんに手作りの防具をプレゼントしたんです」
「ふむ」
「そしたらヴォルガーくん、照れ隠しで走り出しちゃって……」
「なんだそれ馬鹿じゃねぇのか」
ナディは思わず辛辣な感想をぶつけた。
「すみません、私が年上としてしっかりしていれば……」
「しかしまぁ、話を聞くにお前らは付き合ってんだな」
「はい! もちろんです!」
「自分もジャーナリストとして保証するッス!!」
そう聞いたナディは、ふっと優しく微笑んだ。
「そうか……そりゃめでたいことだな」
雑談しているうちに、目的地が見えてきた。
その土地を囲む城塞のように高く厚い壁は、建設されてからまだ20年も経っていないという。
「そういえば、入るのに許可が必要って話だったッスけど、ナディさんは手形みたいなものを持ってるんスか?」
「ああ。あの街の壁……というか、結界を設計したのはあたしだからな」
「えっ、そうなんスか!?」
「その報酬があればしばらく働かずに済むから、バイト感覚でね。金持ち以外お断りの街なんて趣味は悪いけど、潤沢な資産で研究できるのは願ったりだった、っていうのもあるかな」
「それで技術が発展すれば、結果的には沢山の人が助かりますしね」
「まぁな」
証明書を見せて街に入ろう……という時、門番は妙に慌てたような様子でナディに話し始めた。
「丁度よかった!! 街は今、パニック状態で……市長もナディさんに会いたがってると思います!!」
「は? 一体何があったんだよ」
「実は街への魔力供給が途切れて、結界も破れて……それで、街中で魔物が暴れたんです!!」
「なっ、大丈夫だったのか!?」
「はい、魔物はあのヴォルガーさんが退治してくれたので事なきを得ましたが、やはり今後の対策は必要で……」
唐突に聞かされた話の中で、探していた名前が突然出てきた。
急展開に、ラピアとルカは思わず顔を見合わせる。
「あたしらはそのヴォルガーに会いに来たんだ! とりあえず、市長にはあとで会いに行くって伝えといてくれ!!」
一同は、ラピアの魔力探知に従ってヴォルガーの元へ急行した。
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街の中はざわめきに包まれていた。
魔力の供給は復旧し、結界も修復され、本来の機能を取り戻している。
しかし、街の絶対的な安全性に対する住民達の信頼が元に戻ることはない。
「魔力の供給が途切れるなんて、魔王軍の影響は思ったよりも深刻かもしれねぇな……」
人間よりも長い寿命で、別の魔王とは直接戦ったことのあるナディにとってもこれはショッキングな出来事であった。
根本的な解決のためには、魔王を討伐する他ない。
どちらにせよ、今の最優先事項はヴォルガーと合流することであった。
幸いなことに、街の中に入った後は特に障害もない。
魔力の探知に従って、ヴォルガーの元に向かうだけであった。
ただ、ヴォルガーのいる場所が墓地であることはラピア達にとって意外だった。
彼がどのような事情で墓地まで来たのかはわからないが、墓地に到着したラピア達はリラ車を降りてヴォルガーの元へと向かう。
ヴォルガーの方も、墓地での用事は終わった後なのであろうか。彼の魔力は街の方へと向かっており、必然的にラピア達に近づいてくる。
墓標の並ぶ土地は視界を遮るものもなく、ラピアは真っ直ぐにヴォルガーの元へ向かう。
ヴォルガーの姿が目に見えるほど近づいたとき、ラピアは思わず走り出した。
「ヴォルガーくんっ!!!」
「らっ、ラピアさん!?」
突然現れたラピアにヴォルガーは驚くが、ふと昨日つけられた首輪を思い出す。
「そうか、魔力の探知で……」
「もう!! 急にいなくなるんですから!! 心配したんですよ!!」
「それは……すまなかった」
理由がなんであれ、唐突に姿を消してしまったことをヴォルガーは一旦謝った。
「っていうか、体の中がボロボロじゃないですか!! 早く回復しないと!!!」
外見だけ見れば健在なヴォルガーも、内側の傷はまだ癒えていない。
一目でダメージを察したラピアは、ヴォルガーの厚い胸板――その境目にある鳩尾あたりにそっと掌で触れ、治癒を開始する。
「ありがとう、助かった……」
「それにしても、一体どうしてこの街まで来たんですか? 許可が無いと入れないはずなのに」
「ああ、それなんだが――」
ヴォルガーが事情を話そうとするタイミングで、ナディとルカもヴォルガーの元に辿り着いた。
そして、ヴォルガーの姿を一目見たナディは衝撃のあまり思わず叫んだ。
「なんで裸なんだよお前ッッッ!!!!」
そう、ヴォルガーはオークションで出品されてから今に至るまで、ずっと黒いブーメランパンツ一丁という出で立ちであった!!!
鍛え上げられた肉体美を露骨にしたそのファッションは極めてSEXYであり、ヴォルガーの持つ美術品としての価値を最大限に高めていた!!!
しかし、浜辺であれば視線を一身に集めるであろうそのSEXYも、墓地という静寂の求められる場所においては場違いという他なかった……。




