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ep.12『追憶』④

***


 ナディの振る舞う夜食を食べた後、三人はミルクティーを飲みながら談笑していた。


「そういえば私たち、リッケさんにも会ったんですよ」

「へぇ、リッケに! 元気にしてたか?」


 ふれあい不死鳥(フェニックス)牧場の主であるリッケは、盤古以外の(当時の)勇者パーティの面子とも懇意にしていた、というのは以前に会ったとき本人から聞いていた。


「はい! ちょっと喧嘩になりそうな場面もありましたが……」

「ははっ! あいつも結構拘りの強い性質(たち)だからなぁ」


 話しているうちに、ふとナディの目がテーブルの上で止まった。

 先ほどラピアが置いた革袋だ。


「あ、そうだ。あんたさっき、その革袋から地図を出してたろ? 袋のサイズより明らかに長いけど、折り曲がってない……ありゃ一体どうなってんだ?」

「これはリア王女の発明なんですよ。クレイオスのお姫様で、今は勇者のギデオンくんと一緒に戦ってます」

「王女様が最前線で戦ってんの!? でもまぁ、暴食の霊剣グレイヴ・オブ・グラトニーが選んだならそうなるのか? あの国は……」


 多少驚きながら、ナディはラピアに渡された革袋を受け取り、その構造を観察する。


「クレイオスにある倉庫と繋がってるんです、その袋」

「そんな距離で繋がれんのか……流石は魔法大国の王女様だな……」

「その袋は大体クローゼット一つ分くらいの容量があって、それを維持するのに遙かに容量の大きな倉庫と管理する魔法使いが必要になる……と、リア王女は言ってました」


 ラピアの話を聞きながらも、ナディは袋の観察に夢中になっていた。


「内側に魔法陣が書かれてる……。巨大な魔物の皮に新鮮なうちに魔法陣を刻み込んで、一部を切り取って袋にしてるわけだな。で、残りは倉庫に張り付ける……だから距離が離れてても同期は保てるってことか。あの砂漠の国で新鮮な素材を調達できるってことは、魔物はデザートホエールあたりか? 倉庫を省スペース化するとしたら、魔法陣の簡略化……はやれりゃあやってるだろうし、皮を折り畳むのが一番シンプルか。しかし、魔力の混線を防ぐための加工も新鮮なうちにやろうと思うと……あっ」


 夢中で考察していたナディは、ふと我に返って独り言を述べていたことが恥ずかしくなったようだ。


「わ、悪い一人でブツブツと……」

「いえ! 魔王との戦いが終わったら是非リア王女を訪ねてください! ナディさんが協力してくれるなら絶対喜んでくれますよ!」

「ま、まぁそれはおいおい考えるとして……そうだ、ルカ!」

「ひゃいっ!? なんスか!?」


 不意に指名されたルカは、驚いてミルクティーをこぼしそうになる。


「お前、あたしに聞きたいことがあるんだろ? インタビューは面倒だけど、雑談程度なら話してやらんこともないぞ!」

「おお、本当ッスか!! ありがたいッス!!」

「ただし、先に言っておく。あたしの寿命が長いからって過度な期待はするなよ。あんたらが知ってる歴史に関しちゃ、あたしからすりゃほとんどが遠い国の出来事だ。知ってても噂話くらいで正確性はない。そもそも、所詮はブロンズエイジ生まれの第二世代エルフだしな、あたしは。遡れる時代にも限度がある」


 ナディの言葉を受け止めたうえで、ルカは真っ直ぐな瞳で返す。


「自分は歴史の話ではなく、ナディさん個人について聞きたいんス。魔王との戦いで混迷するこの時代……英雄たるナディさんのことを知りたい人は大勢いるッスから」

「そうか……まぁ、あたし個人の話で満足してもらえんなら悪いことでもねぇな」

「それでは……早速最初の質問ッス」

「おう、なんだ」

「ナディさんは、やっぱり盤古さんと付き合ってたんスか?」


 ペシッ!!


 ナディは思わずルカの頭をはたいた!!


「偉そうな御託を並べといて結局ゴシップかお前は!!」

「いやっ、でも実際多くの人が気になっていることに違いないんスよ!!」

「はい!! 私も気になってました!!」


 ラピアは挙手をしてルカに同調した!


「ラピアお前まで……!! こっちはもう聞かれすぎてうんざりしてんだよ!! 断言するがそういう関係ではない!!」

「でもッスよ? 盤古さんが様々な王家や貴族からの縁談を断って生涯独身を貫いたのはナディさんとの種族を超えた愛が」

「でもじゃねぇよ!! お前が盤古の何を知ってるんだ!!」

(照れ隠しッスね……)

(照れ隠しですね……)

「二人揃って『照れ隠しですね……』みたいな顔すんのはやめろ!! あたしと盤古の間にそういうことは無かった!! おしまい!! もう寝ろ!!」

「そ、そんな!! それじゃああの、もっと真面目なことを聞くッス!!」


 ナディはハァ~と長いため息をついた後、改めてルカに向き直る。


「本当に真面目な質問があるんだな? 言ってみろ」

「はい! ナディさんって、治癒魔法の創始者じゃないッスか」

「ああ、そうだな」

「ということは、やっぱり原初玖魔橡に――」


ペシンっ!!


 ナディは再びルカの頭をはたいた!!


「それに答えたら条約違反だろうが!!」

「いや!! 権能について話せないのは重々承知のうえで、話せる範囲のことを答えていただけないかなぁと!!」

「人に綱渡りをさせようとすんな!!」

「正直……私もすごく気になります!! ナディさんの後塵を拝するヒーラーとして!!」

「謙虚なフリをしてもダメなもんはダメだ!!」


 その後も、ルカは隙あらば踏み込んだ質問を試みた。

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