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ep.11『競売』⑧

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!!!」


 ヴォルガーは近場の住宅の屋根に飛び乗り、そこから更に飛び上がって飛竜に接近する。

 こうして近づいてみれば、やはりその体躯は人間よりも遙かに巨大であった。

 負傷を抱えながらも、決死の思いで戦いを挑むヴォルガー……その覚悟が放つ凄まじい殺気は、やはり飛竜の警戒心を一気に高めた。


「!!!」


 街に炎を放とうと首を下げていた飛竜は、急激にその角度を変えてヴォルガーただ一人に狙いを定める。

 本能が暴れることよりも、自らを守ることを優先したのだ。

 果たして、飛竜が咆哮と共に吐き出した灼熱の炎はヴォルガーを包み込んだ。

 ヴォルガーは肌に焼けるような熱さを感じる。攻撃を受けたことで、自分が思った以上にダメージを受けていることも実感した。

 しかし、街に攻撃は届かなかった。その時点でヴォルガーの行動は正解であった。

 そして、炎をかいくぐって接近したヴォルガーはその勢いのままに飛竜を撃墜せんと攻撃を繰り出す!!


「ハァッッ!!!」


 火炎放射で隙のできた飛竜はヴォルガーの蹴りを避けることもできず、その逆鱗に強烈な蹴りを食らう!!


「ギャァァッッ!!!」


 その衝撃は骨をヒビ割り、脳を揺らす……が、それでも墜落には至らなかった。

 万全のヴォルガーであれば一撃で屠れるだけの実力差はあるはずだが、やはり弱体化の影響は著しかった。


「くっ!!」


 そのまま地上へと落ちていくヴォルガー。幸い、その落下地点に人はいなかった。

 しかし、ヴォルガーが地上へ降り立つその前に飛竜は痛みを堪え、追撃を仕掛けてくる。


「!!!」


 墜ちていくヴォルガーに、矢のような勢いで突撃する飛竜。

 ヴォルガーは対処しきれず、突撃による衝撃をモロに喰らう。


「ぐぐ……っ!!」


 その巨体、そのスピードによる突撃はヴォルガーの巨体であっても突き飛ばすには十分の威力があった。

 しかし、ヴォルガーの懸念は自分が突き飛ばされることではない。

 この攻撃によって、逃げ遅れた市民に被害が及ぶことであった。残念なことだが、この戦いをなるべく近くで見物しようとする警戒心の薄い人間も何人かいた。

 ヴォルガーは飛竜の突撃を止めるべく、その足で石畳の道路を削り、土煙をあげながら必死に踏ん張る。

 そして狙い通り、飛竜の突撃は被害を出す前に止まった。

 図らずも、ヴォルガーは飛竜の頭をガッチリと掴む形になっている。

 この機を活かし、飛竜に技をかけて一気に止めを……とヴォルガーが動く前に、先んじて行動に出たのは飛竜の方であった。


「グァァァァァァァッッッ!!!」


 ヴォルガーに首を掴まれた状態で、再び火炎放射を放ったのだ!!


「ぐっっ!!!」


 たまらず手を放したヴォルガー。そして飛竜は火炎放射の勢いを利用し、素早くヴォルガーから距離を取った。

 再び空高くへと舞い上がる飛竜。

 ――その翼が、パキパキと割れるような音を発したのを、ヴォルガーは聞き逃さなかった。


「!!!」


 ヴォルガーは再び跳躍し、屋根の上へと登る。

 自らを狙った飛竜の攻撃が、他の人間を巻き込まぬように。

 そしてヴォルガーが周囲で最も高い屋根に登ったタイミングで、飛竜の追撃が襲いかかる。

 飛竜がその大きな翼を羽ばたかせると……割れた鱗が散弾銃のようにヴォルガーに降り注ぐ!!


「ぐっっ!!!」


 鋼のように硬い鱗を飛ばす、飛竜自身にもダメージのある捨て身の攻撃だ。

 その弾丸はヴォルガーの身体に、そして屋根に穴を開けていく。

 急所にダメージを受けないよう、腕で自らを庇いながら攻撃を受け止めるヴォルガー。

 しかし、攻撃を受け止めながらも、その(まなこ)は確かに見極めていた。

 この戦況を一気に覆す、決定的なチャンスを。

 飛来する無数の鱗から、ヴォルガーは自らのチャンスとなる弾丸を探る。

 そして、一瞬のうちに好機の弾丸を見つけだすと……手を伸ばし、指で弾いた。


「ッ!!??」


 ヴォルガーに弾かれた鱗は、弾丸のようなスピードで飛竜の元へと撃ち出された。

 一方的な攻撃の中で、突如襲いかかる予期せぬ反撃。

 避けることも能わず、その弾丸は正確に飛竜の片目を狙撃した。


「グワァァァァァァァッッッッッ!!!」


 飛竜の動きを止める、決定的なダメージ。

 ヴォルガーは掴んだチャンスを逃すまいと飛翔する!!


「ハァッッ!!!」


 空を舞う飛竜よりも高く跳んだヴォルガー、その足が斧のように飛竜の頭蓋へと振り下ろされる!!


「竜骨破砕脚ッッッ!!!!」

「ガァァッッッッ!!!」


 今度こそ確実に頭内を粉砕され、断末魔の悲鳴をあげる飛竜!!

 その巨体は力を失い、静かに地上へと墜落していく!!

 その頭に乗り、共に墜ちていくに任せるヴォルガー。

 しかし、彼はまだ体を休めることができなかった。


「!!」


 落下予測地点に、まだ人がいた。

 逃げ遅れたのか、危機感を欠いて見物していたのか、事情はわからないが被害を防ぐ必要があった。

 ヴォルガーは墜ちていく飛竜の巨体を『逆に』踏み台にした。

 その下側に潜り込み、飛竜の腹を思い切り蹴りつけた!

 重力に従っているのか、逆らっているのかわからぬこの逆噴射!

 ヴォルガーは飛竜の墜落よりも先に地上に降り立つ。

 そして……飛竜の巨体を両腕で受け止めた!


「ぬん……ッッ!!」


 ずっしりとのしかかる、ヴォルガーを遙かに超える巨体の重量。

 しかし、人間としてはかなりの巨躯であるヴォルガーはこの重量を確かに受け止め、地上にも、地上で惑う人々にも届かせることはなかった。

 かくして、ヴォルガーは一切の死傷者を出すことなく飛竜による危機を退けた。

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