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ep.11『競売』⑥

***


 ヴォルガーが拘束され、何時間が経っただろう。

 具体的な時刻こそわからないが、既に夜が明けて太陽が高くまで昇っていることは間違いなかった。

 リラ車の振動は既になく、ヴォルガーは目も耳も使えない闇の中を運ばれた。

 デバフによる体への負担はほとんど消えていたが、相変わらず拘束具を力ずくで破壊することはできなかった。

 金属の頑強さではなく、魔力による拘束……ただし、ヴォルガーほどの実力者にこれを使用するためにはデバフを徹底的に重ねがけする必要があった。

 その事情は、ヴォルガーにも容易に推測ができる。

 しかし、それを実行するに至った背景は全くわからなかった。

 ヴォルガーに襲いかかった刺客達は、いつから作戦を始めていたかはわからないが、ラピアから離れるまでひたすら待機していた。

 だが、今回ヴォルガーがラピアから離れたのは全く予期せぬ出来事が原因だった。そもそも、どこかでラピアから離れる予定があったわけでもない。

 つまり刺客達は、決められたタイミングのために集まったのではなく、来るかどうかもわからない機会のため延々と待機していたのだ。

 S級相当の実力者108人、その時間を無期限に拘束する……どれだけの予算があれば可能な作戦なのか、ヴォルガーには皆目検討もつかなかった。

 果たして、それを実現できる財力を持った黒幕とは、一体何者なのか……。


 答えのでない闇の中でひたすら思考を巡らせていたヴォルガーの姿勢は、棒立ちであった。

 柱のようなものに、上半身裸でくくりつけられて拘束されている……それが、触覚以外を奪われたヴォルガーの理解であった。

 しかし、自分の状態がわかる以外は相変わらず何もわからぬ深い闇……。

 その闇が、突然取り払われた。

 数時間ぶりにヴォルガーを包んだ光は、妙に弱いものであった。

 周囲を確認できるだけの明るさは一応あるが、逆にいえばギリギリ確認できるだけの明るさしかない。

 ヴォルガーが明るさの次に認識したのは、目の前に広がる『赤い幕』であった。

 この幕が、自分を明るい場所から遮断している。その事実も理解できた。

 では、具体的にこれは一体どのような状況なのか……

 その考察を始める前に、ヴォルガーの聴覚に響いたのは――万雷の拍手であった。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 まったく予想外の事態に、思わずびくっと跳ねるヴォルガーの体。

 しかし、拍手のおかげで状況の理解は進んだ。

 赤い幕の向こうには大勢の人間がおり、幕は人々と自分を隔てるために閉じられているのだ。

 理解は進んだが、困惑はむしろ一層深まった。

 自分が今立たされているのは、この赤い幕の向こうの人達は、一体――


「さぁ、古今東西様々な美術品を出品した本会も残り一品となりました! 続いては、本日最後にして最大の目玉となる美術品です!! 魔王軍と戦う元勇者パーティの英雄――『格闘家ヴォルガー・フィルヴォルグ』!!!」


(美術品!? 今、美術品と言ったか!!??)


 ヴォルガーの困惑が解消される暇もなく、赤い幕は勢いよく開かれる!!!


 シャアアアァァァァァァァァッッッッ!!!!


「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!


 ステージに飾られたヴォルガーの肉体(からだ)を目の当たりにした人々、そのボルテージは急激に高まっていく!!!

 ヴォルガーの見立てでは、客席から自分を見つめる人数は1000人以上!!!

 その全員が一様にバタフライマスクで身元を隠し、番号の書かれた丸い札を胸に飾っており、そしてヴォルガーに食い入るような視線を送っていた!!!


 そう、ヴォルガーは闇オークションに出品されていたのだ!!!!


「ぐふふ……流石は英雄ヴォルガー・フィルヴォルグ、まるでオリハルコンのような肉体だわい」

「生きた彫刻……あれこそまさしく究極の芸術だわ……」


 口々に品評を始める参加者達。

 その全員がヴォルガー・フィルヴォルグ出品の報を聞いて駆けつけた富豪であり、好事家であった!!


「さぁ、せっかくの機会です!! 特別に聞かせてあげましょう、ヴォルガー・フィルヴォルグの肉声を!!!」


 司会の男はそう言って、ヴォルガーの口を塞ぐボールギャグを取り外した!!!

 何故このような状況になったのかイマイチ理解はできない……できないがしかし、今のヴォルガーにできることをやる他ない。

 与えられた発言の機会を逃さぬよう、ヴォルガーは叫んだ。


「先程紹介された通り、俺は魔王軍と戦う格闘家ヴォルガー・フィルヴォルグだ!! 何体もの魔族を倒したが、万橡の泉は未だ占領されたままで、魔王軍の勢力は衰えるところを見せない!! どうか俺を解放し、魔王軍と戦わせてくれ!! 貴方達と、貴方達の大切な人を守るためにも!!」


 ヴォルガーは思いの丈を素直にぶちまけた。

 しかしそれは、ただの感情論ではない。

 ヴォルガーが魔王軍と戦うことはこの世界に生きる全ての人間に関わる重大事案であり、たとえ私利私欲で行動する人間であっても無視できないはずだ。

 だから、話さえすれば目の前にいるオークション参加者達にも伝わるはずだ。


 ――そう考えていたヴォルガーの耳に聞こえてきたのは、静かな嘲笑であった。


「くっ、くくく、魔王軍の侵略ねぇ」

「それで困るのは貧乏人だけでしょう?」

「この街に住む我々には関係のないことだよ」


「な……何を言ってるんだ……?」


 ヴォルガーは愕然とした。

 あまりにも埋めがたい、認識の違いに。


「70年の人生で魔王軍の侵略は何度かあったがね、私が被害にあったことなど一度も無かったよ!」

「違う!! それは魔王軍と命がけで戦い、被害を食い止める人間がいたから――」


 パンッ


 と手を叩く音が聞こえた瞬間、ヴォルガーの叫びは強制的に閉ざされた。


「ん゛っ!?」


 魔法によるヴォルガーの拘束は未だに続いており、簡単な合図一つで行動を操ることができるようであった。


「さて、ヴォルガー・フィルヴォルグの美しい肉声をお聞きいただいたところで……お次は更に面白いものをご覧にいれましょう!!」


 そういって司会の男は、バチバチという電流の迸る黒い棒を取り出した。

 スティックタイプのスタンガンである。

 ヴォルガーの逞しく肉厚な胸板……その先端にそそり勃つ桃色の艶やかなつぼみに黒いスタンガンを近づけ……接触させる!!!


バチバチィィッッ!!!


「お゛お゛ぉんッッ♡♡♡」

「ご覧ください!!! 開発済みでございます!!!!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!!!!!!!!!!


 場内は本日一番の拍手に包まれた!!!!


「さて、本出品の価値を存分にご理解いただいたところで、いよいよ競売に参りましょう!! 1億円からスタート!!!」

「2億!!」

「4億!!」

「5億!!」


 オークションの参加者達は、自分の胸に飾られたものと同じ番号の書かれた札を高々と掲げて次々に入札してくる!!!

 競売は瞬く間にヒートアップし、ヴォルガーの値段は見る見るうちに吊り上がる!!!


「10億!!!」

「15億!!!」

「17億!!!」

「21億!!!」

「100億!!!!!!」


 その瞬間、場内の騒音はスッ……と静まりかえった。

 オークションの参加者全員が『100億』と叫んだ男……『777番』の札を掲げた小柄な老紳士に注目していた。


「100億!! 100億が出ました!! 他におりませんか!!??」


 司会の男が興奮した様子で叫ぶが、反応する者は現れない。

 これ以上の額はつけられない、と確認すると、司会の男はガンガンガンガンとハンマーをけたたましく叩く!!


「落札!! ヴォルガー・フィルヴォルグ、100億で落札です!!!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!!!!


 圧倒的な勝利を讃える拍手が会場に響く中、1000人を越える参加者の中からヴォルガーを競り落とした『777番』の男が意気揚々とステージに近づいてくる!!!


「ヒョーッヒョッヒョッヒョッ!!! このSEXYはワシのもんじゃぁ~ッ!!!」


 壇上に登った777番は、司会の男から小さな鍵を受け取る。拘束されたヴォルガーを操るための道具であることは明白であった。

 そして、1000人を越える参加者に向けて小柄な体躯でその鍵を誇らしげに掲げる!!!


パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!!!!


「ヒョーッヒョッヒョッヒョッ!!! ヒョーッヒョッヒョッヒョッ!!!!!」

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