ep.11『競売』⑤
刺客達は、確かに一度は凄まじい攻撃によって倒れた。
だが、デバフ魔法を得意とする人間であれば、当然回復魔法も熟練の腕を持っている。
他の者達を回復する余裕はなくとも、自分自身であれば容易に回復できる。そもそもの耐久性も高い。
そのため、自らの役割は確実に果たせるのだ。
遠距離からでも放つこと自体は可能だが……デバフの効果を最大限に発揮するため、あえてヴォルガーに接近して矢を放つ刺客達。
ヴォルガーは再び大木を手に取り、暴力的な回転を発生させた!
それは果たして、ヴォルガーを狙う10人の刺客を確実に吹き飛ばした!
しかし、刺客達の放った矢もまた……ヴォルガーに直撃した。
「……ッッッッッ!!!」
ここに来て、ヴォルガーにとっても重い負担になるほどの衰弱が襲いかかってきた。
デバフをかけるという役割を、刺客達は完璧にこなしたのであった。
そして、ヴォルガーを狙う刺客はまだ残っていた。
その数は5人、この好機を逃すまいと一気に襲いかかってくる。
「りゃぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」
残った5人は、暗器使いのようであった。
5人それぞれが鎖を振り回しながら襲いかかってきた!!
そのうちの一人が放った鎖が、ヴォルガーの腕に巻き付く!!
「ぐっっ……!!!」
ヴォルガーは自身に巻き付いた鎖を掴み、そして暗器使いごとそれを振り回した!!
「らぁぁぁッッッ!!!」
「あああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!??」
ヴォルガーの武器として使われ、他の刺客にぶつけられる暗器使い。
これにより二人同時に落としたが……しかし、ぶつけられた方の暗器使いも、その役割は確実に果たしていた。
ヴォルガーのもう一本の腕にも、鎖が巻き付いていたのだ。
残るは三人。
そのうちの一人に向けて、ヴォルガーは直接飛びかかって拳を叩き込む。
刺客は倒れるが、ヴォルガーの片脚にはやはり鎖が巻き付く。
その隙に、もう一人の刺客が逆側の脚に鎖を巻き付けてきた。
素早い反撃で、これもヴォルガーは倒した……が、しかし、ここで急激な異変に襲われた。
自身に巻き付いた鎖が、その締め付けを急激に強めてきたのだ。
この鎖はただの武器ではなく、一種の拘束具……。
その事実に気がついた時には既に間接まで封じられ、ヴォルガーの動きは完全に固まっていた。
固まった時間は、一秒にも満たなかったかもしれない。
あとほんの少し余裕があれば、ヴォルガーは拘束を解けたかもしれない。
しかし、そのような暇もなく……
「ちぇりあぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
最後に残った刺客、その鎖がヴォルガーの全身に巻き付いた。そして、キツく締め付けた。
「がぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!」
必死の抵抗も虚しく……ヴォルガーは完全に拘束された。
「くくく……任務完了~♪」
最後に残った暗器使いは、よいしょというかけ声とともに、荷物でも運ぶような気安さで拘束したヴォルガーを肩に担ぎ上げる。
「っと、流石に重いなぁ~、この図体じゃ……もう一人くらい起きてりゃ楽だったんが、見事に全員伸びてやがる」
揃って気を失った107人の同僚を見回した暗器使いは、やはりこの状況には相応しくない軽いノリで呟いた。
そして、どこかへ向かって駆けだした。
その素早い身のこなしは、ヴォルガーという大きな負担を全く感じさせないものであった。
「おい……貴様等は一体何者だ……!! 俺をさらう目的は――」
「目的? 知らんね」
「なっ……!?」
「俺たちゃ金で雇われただけなんでね。『ヴォルガー・フィルヴォルグがアスクラピア・パイエルオンから離れて隙が生まれたら、すぐさま捕らえろ』ってね。待機手当と危険手当込みでなかなかいい仕事だったよ。感謝するぜぇ~」
ニヤニヤと嘲りの笑みを浮かべながら、暗器使いは森を駆け抜けていく。
「何があったか知らねぇけど、あんたはあのヒーラー女から離れるべきじゃなかったのさ。全部後の祭だけどよぉ~」
「ぐっ……!!」
本能的な恐怖からラピアを離れたヴォルガーだったが、ここに来て自分の軽率さを悔やんだ。
思い返してみれば、膨大な魔力を注がれた首の防具も今回の戦いでヴォルガーの守りを高めてくれることはなかったが……もしかすると、装備の後に機能させるための手順があったのかもしれない。
しかし、いくら悔やんでも時間は戻らず、事態は止まらない。
暗器使いはその俊足であっという間に目的地へ到着した。そこには、一台のリラ車が停まっていた。
「おっと。ここから先はあんたにゃ見せない約束だ。どこへ行くかは俺にもわからん。じゃあな」
そういって暗器使いは、ヴォルガーの目と耳を覆うように黒い布を巻く。
これもただの布ではなく魔力を帯びた道具、ということは巻かれた瞬間に理解した。ヴォルガーの視覚と聴覚は瞬く間に奪われた。
その直後、口周りにも瞬時にベルトを巻かれた。
口にボール状のものがはめ込まれた感覚……ヴォルガーの声を防ぐ拘束具だ。これをかみ砕く力も、今のヴォルガーには残っていなかった。
そしてリラ車に乗せられたヴォルガーは、触覚だけを感じながら運ばれていく。
彼に伝わってくるものは、森を駆け抜けるリラ車の振動。
そして、体を締め付ける鎖がガシャリ、ガシャリと形を変えていく感触。恐らく、シンプルな鎖から拘束具として相応しい形状に変形する魔法がかけられているのだろう。
どこにどう転がるのかまるでわからない闇の中……ヴォルガーの心の内に響く声があった。
「ヴォルガーくん……」
(ラピアさんか……すまない、こんなことになってしまって……いや、ここで謝っても仕方ないが)
「大丈夫ですよ。ヴォルガーくんなら、絶対に切り抜けられます」
心の内から響くラピアの声は、ヴォルガーを安心させてくれるものだった。




