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ep.11『競売』④

 槍を持って突撃してくる輩達を飛び上がって避け、その頭に確実な蹴りを入れて一気に落とす。

 空中で姿勢の制御が困難になった隙を狙って、数人の剣士が斬りかかってくる。

 2m未満の高さを飛び上がって、そして落下するまでの一瞬の攻防。

 しかし、この一瞬の隙をついた敵の読みは確かに絶妙であった。

 『ここを突けば好機がある』というポイントを正確に読みとった剣士達の攻撃。

 ヴォルガーはそれを必死に避け、受け止め、反撃した。

 流石に完全に無傷とはいかなかったが、戦いを左右するほどのダメージも受けてはいなかった。


 ――しかし、ここまでの攻防の中で、ヴォルガーが幾度となく受けた魔法もあった。

 一切の痛みは無く、傷も無い、光の矢。

 それが森の暗い影の向こうから何本も飛来し、ヴォルガーの体に突き刺さっては、霧散していった。

 ダメージが無い以上殺気も薄いため、察知は困難。

 例え察知できたとしても、ダメージのある攻撃に比べれば対処の優先度は当然下がってしまう。

 まだ、自覚症状があるほど効いてはいない。

 しかし、推測は十分可能だった。

 魔法の正体は、弱体化(デバフ)

 攻撃により生じた隙で、ヴォルガーを確実に弱らせていく策。

 一撃で倒れていった敵達は、やはりその役割を的確にこなしているのであった。


 自分が倒れるとわかったうえで突撃してくる敵を支えているのは強烈な覚悟……ではないだろう。

 そこにあるのは明らかに、歪んだ信頼であった。

 『英雄ヴォルガー・フィルヴォルグが、人間である自分達を殺すはずがない』という信頼。

 それがあるからこそ、敵は一人一撃の精神で役割を果たして倒れていった。戦いが終わった後に回復できればそれでよい。

 同じ実力でも相手が魔族の集団であれば、無遠慮に力を振るって終わらせることができたはずだった。


 未だ、敵の目的すらわからない。どのような集団かもわからない。

 それでも、戦って勝たねばならないのは間違いなかった。

 ヴォルガーは、攻防の中で敵の剣士から一振りの剣を奪い取っていた。

 その刀身の、刃のない面めがけて……両側から挟み込むように拳を叩き込む!!!


「破ッッッッ!!!」


 ガシャァァァァァァァン!!!


 すると、急激な衝撃を受けた鋼の刀身はガラスのように粉々に砕けた。

 凄まじいエネルギーによる変形で熱を帯びた、大量の小石のような鋼の破片。

 それをヴォルガーは右手に集めて握りしめると……周囲に向けて振り回すように投擲した!


「ふんんッッッッッッ!!!!」


 それは、人力による散弾銃であった。


「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」」」」


 これをまともに食らった敵は次々と倒れていき、そこかしこで悲鳴が上がる。

 デバフをかける役にもダメージが通ったようで、魔法の矢の量は確かに減っていた。

 しかし、攻撃を避けた者達が、次は弓矢による一斉掃射をしかけてくる。

 ヴォルガーを狙う、鋭く、速い攻撃。

 当然、その中にはデバフを狙う魔法の矢も混在していた。

 全てを避けることはできない。

 ヴォルガーは傷と魔法を負いながらも次々に矢を叩き落とし、払いのけた。

 矢を放つ者達は、木々の上に陣取っていた。

 高い位置からヴォルガーを狙える、アーチャーとして絶好のポジション。

 自分が登っているもの以外にも、周囲には当然大量の木々がある。

 先程の散弾銃のような反撃を避け、場所を変え、改めてヴォルガーをスナイプするのにも全く困ることはなかった。

 この状況を確認したヴォルガーは……高く飛び上がった!


「ハァッッッ!!!」


 森の木々よりも高くに位置するヴォルガーは、S級のアーチャーからすればあまりにも容易い的であった。

 今が好機とばかりに次々に放たれる矢。

しかし空中のヴォルガーはそれを一切避けず……負傷を厭わず……次の攻撃に集中していた。

 飛び上がる力と、引き寄せる重力。

 二つの力が釣り合ったとき、ヴォルガーの体は縦に回転を始める。

 落下中による回転で、踵を天に向けたヴォルガー。

 その足は更なる回転で再び地上へと向き……


「覇竜崩砕脚ッッッッ!!!」


 大地へと叩きつけられた!


 ドオオオオォォォォォォォォン!!!!


 稲妻が落ちたかと思うほどの衝撃と音……しかし、実際の威力は稲妻どころではなかった。

 ヴォルガーの一撃により地盤は崩壊し、周囲にある木々は次々と倒されていった。


「「「「「ああぁぁぁぁぁっっっ!!!???」」」」」


 S級の刺客達にもこれほどの事態を予測できた人間はそうそういなかったらしく、ほとんどは倒木から逃れるのが精一杯で次の手を打つ余裕はなかった。

 そしてヴォルガーは、この隙を決して逃しはしない。

 倒れた大木、その一本を掴むと力任せに振り回した。


「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!」

「「「「「がぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!」」」」」


 竜巻のようなその暴力に巻き込まれ、刺客達は次々と吹き飛ばされていく!

 ヴォルガーには、正確な数を計測するだけの余裕はなかった。

 それでも、108人のうち100人以上はこれで倒したはずだ。

 しかし、あと5人程度倒せば終わる……という話ではない。

 大木を振り回して発生した破壊を伴う回転、それが収まったタイミングであった。

 倒れた木々から飛び出してくる、10人の影……!!

 それは、魔法の矢によってヴォルガーにデバフをかけていた刺客達だった!!

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