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ep.11『競売』③

***


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ヴォルガーは走った。ひたすら走った。

 森を抜け、街を駆け、また森に迷い込むほど走った。

 本来の目的地だった街を通り過ぎてしまったが、今のヴォルガーに気にする余裕は無かった。

 ラピアにベルトを巻かれた時は明るかった空に、すっかり夜の帳が降りるくらいの時間経過……。

 無尽蔵の体力を誇るヴォルガーが息切れするほど走るというのは、なかなか凄まじいものであった。


「大丈夫ですか、ヴォルガーくん」

「ああ、だいじょうわ゛っっ!!」


 いるはずのないラピアに思わずのけぞるヴォルガー!!

 しかし、いるはずのないものは実際いない……その声はベルトの影響で聞こえた幻聴であった。


「くっ、くぅぅぅ……なんとか、なんとかならないのか……」


 ラピアのことは仲間として、心から信頼している。命がけの戦いをともにくぐり抜ける中で幾度も助けられ、本当に頼れる同士だと思っている。

 しかし、勘弁してほしかった。


「ヴォルガーくん……どこか具合が悪いんですか?」

「いやだからラピアさんがっ、ああっもうっ!!!」


 ヴォルガーは深呼吸をし、無理矢理心を落ち着けた。

 深呼吸に合わせて「はい、吸って~吐いて~」と囁いてくるイマジナリーラピアのことは考えないように考えないように心を押さえつけた。

 そして、その場に胡座をかいて座禅を始めた。

 ベルトをどうにもできない以上、自らの心をコントロールするより他に活路は無い。

 静寂の森には、座り込むヴォルガーに押しつぶされた枝のパキパキという音だけが響く。それが正常であった。


「あっ、ヴォルガーくん座禅を組むんですね……だったら静かにしなくちゃ」


 素直だった。

 こういう時は素直に気を使ってくれる……ラピアは基本的にはとても優しい人間だった。

 それなのにどうしてこう、自分に対しては時折あんなに無遠慮すぎる態度を取ってくるのか……。


「それはだって……私達は将来を誓い合った仲じゃないですか……♡」


 いかんいかんいかん考えたらポップアップしてくる!!

 無!!

 心!!

 無!!

 ひたすら思考を閉ざし、自分の内面に没入していく……。

 ヴォルガーは『ラピアのことを考えないようにする』という雑念すら捨てて心を無にする。

 そうすれば、聞こえてくる。

 静寂に包まれていると思っていた森にふく冷たい風、揺れる木々、擦れ合う葉と葉……それらの音が聞こえて、そして……聞こえなくなった。

 聞こえなくなった段階で、どれほどの時間が経ったのかもヴォルガーにはわからない。

 一瞬だった気もするし、何時間も経った気がする。

 ヴォルガー自身に自覚は無かったが、この超人的な集中力も長きに渡る乳首開発で身につけたものであった。

 周囲のあらゆる干渉をものともせず、自分の莫大な喘ぎ声にすら気がつかないほどの没入を毎日休まず続けてきたことがヴォルガーの精神に影響しないはずもないのだ。

 集中力を養うには、乳首開発が一番。

 そして次に目を開けたとき、ラピアの声は確かに聞こえなくなっていた。

 これなら大丈夫、こうして集中力を高めれば自分は落ち着いた時間を持つことができるはず。しかし


 ――全く別の危機が自分に迫っていると気がついたのは、次の瞬間だった。


 何かが、空を切って自分の背中めがけて飛翔してくる。

 反射的に裏拳で叩き落としたもの、それは一振りのナイフであった。


 考えてみれば……何故自分はあれだけの集中から目を覚ました?

 覚めようという思考はなかった、肉体の限界はもっと先のはずだ。

 であれば、きっかけは一体なんだったんだ?

 この襲撃を、本能が察知したせいではないか?


 ヴォルガーは自己に没入したのと同じだけの凄まじい集中力で周囲に神経を張り巡らせ、敵の気配を読む。

 様子見がてらに投げられたナイフは一振り。しかし、敵の数は決して1人ではない。

 自分を取り囲むだけの人数はいる……ヴォルガーの本能はそう告げていた。

 2人、3人、4人……読めば読むほど気配は増えていった。

 ヴォルガーのこの対応は、ほんの一瞬のものだった。

 しかし、敵はその一瞬に好機を見出し、臨戦態勢に突入する。

 その凄まじい殺気で気配の察知も正確になる。

 5人、10人、20人、50人、80人、90人、100人……

 108人!!!!

 それも、各々が確実にS級相当の実力を持った108人であった!!!

 そして……全員が人間であった。


『おかしなことだが、君の敵は魔王軍だけではないということだ。本当に、あってはならないこと、なんだがな……』


 ヴォルガーの脳裏に、ソスランの言葉が浮かぶ。

 敵の目的はわからないが、ヴォルガーは長年の経験で邪な気配を感じ取った。

 脅されて仕方なく戦っているのではなく、彼ら自身が本心から邪な目的を持っているという独特の空気感。

 ――それでも、なるべく人間を傷つけたくはなかった。


「ふんっ!!!」


 108人のうち10人ほどが一斉に襲いかかってくる中、ヴォルガーはその連中を吹き飛ばすように前方に飛んだ。

 大木すらなぎ倒す程の凄まじい勢いと威力を持った跳躍。

 これで逃げ切れれば……と願ったが、やはり事態はそう甘くなかった。


「らぁぁっっっ!!!」


 敵のうちの一人が、盾を構えてヴォルガーに突っ込んできた!!

 当然破壊力はヴォルガーの方が高く、突っ込んできた敵は逆に吹っ飛ばされてとてつもないダメージを負った!!

 しかし……この攻撃は成功であった。

 1vs1の戦いと見れば、勝ったのは間違いなくヴォルガーだ。

 だが、敵の目的は明らかに個人での勝利ではない。

 逃げ出すヴォルガーの勢いを殺して、この場に留めること。

 倒す役は他のメンバーに任せればよい……そんな捨て身の攻撃であった。

 そして狙い通りにヴォルガーは逃走に失敗し、二の矢、三の矢が襲いかかってくる!!

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