ep.10 『死神』後半
黒い死神ザルトシュルトは、魔王アゥリマから特命を下されていた。
それは、裏切り者の抹殺。
この任務を任せられたザルトシュルトは、高い実力にも関わらず七天将には名を連ねていない。
『ある例外を除けば』七天将の誰よりも強いからこそ、この特命を受けていた。
もちろん、戦うことになればキルデイルも敵わないだろう。
それでも、キルデイルは努めて冷静に対応した。
「誤解しないでほしい。私の提案はあくまでも魔王軍と魔界のためのものだ」
「もうよい。下がれ、ザルトシュルト」
「仰せのままに……」
ザルトシュルトは鎌を下げ、主に向けて恭しく頭を垂れる。
そして、不敵な笑みを浮かべて告げる。
「……しかし魔王様、お忘れ無きよう。私が貴方に従うのは『いつでも魔王アゥリマを殺していい』という契約があってのこと」
「ふん……忘れるわけがなかろう」
その言葉を聞いたザルトシュルトは、密かにほくそ笑んで、黒い影となって消えた。
影が消えた後には、ただ沈黙だけが残された。
「……」
「……」
ただ、沈黙だけが残されたこの空間。
この空間の、魔王が座する玉座の背後。
その背後に、突如――黒い影が再び現れた!!!
「フハハハハハハハハハハハ!!!!!!!! 死ねぃ、魔王様ァァッッッッッ!!!!!!」
死神ザルトシュルトの鋭い鎌が、魔王の首を刈り取らんと襲いかかる!!!!!
「この馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォンッッッッッッ!!!!
哀れ!!!
ザルトシュルトの鎌は魔王に届かず、怒りの鉄拳によってその体を強かに吹き飛ばされてしまった!!!!
「契約を盾に毎日欠かさず命を狙いに来おって!!! 忘れるわけがなかろうがこの……この馬鹿者がッッッッ!!!!」
鉄拳により吹き飛ばされ、クレーターが出来るほどの威力で壁に叩きつけられたザルトシュルト……。
彼はゆっくりと、落ちるように壁から剥がれると、血を吐きながら頭を垂れた。
「ぐはっ……いやはや、流石は我が魔王。あの不意打ちを返すとは、それでこそ従う価値があるというもの……」
そう言って死神は……再び黒い影となって消えた。
「と見せかけて死ねぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!」
「馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」
性懲りもなく現れた黒い影は再び魔王に叩きのめされる!!!
「貴様の不意打ちはもう不意打ちでもなんでもない!!! いい加減にしろ本当に!!!!」
「ぐっ……はっ、さ、流石は我が魔王……全てお見通しとは……」
そう言って黒い影となり、消えようとしたザルトシュルトを……キルデイルが羽交い締めにした!!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!! ドルミーレッッ!!! ドルミーレッッッ!!!(眠りへと誘う呪文)」
例え大ダメージを負っているとはいえ、自分よりも実力の高いザルトシュルトが相手だ!!
キルデイルはその凶行を止めるべく、必死になって眠りの呪文を連発する!!
「ぐっ……魔王様……殺……ぐぅぅぅ……」
ようやくザルトシュルトは眠りに落ちた。
キルデイルはぜぇぜぇと息を整えながら、ザルトシュルトを床に放り投げて魔王に告ぐ。
「もうこいつクビにしましょうよ!!!」
「貴様……こいつをクビにした瞬間に我を裏切る気ではあるまいな!!??」
「むしろ現状こいつが唯一の裏切り者なんですが!!??」
「我はこいつも貴様も信用したわけではない!!! 我が魔王軍は実力主義だ!!! こいつが気に入らぬのであれば、貴様の実力でこいつを殺してみせよ!!!」
「実力主義っていっても、こう……もうちょっとこう、他の基準もあるでしょう!??」
「無い!! 我が魔王軍が『秩の魔王』を殺し、魔界統一を成し遂げたのは何故か!!?? 実力で上回っていたからだ!!!」
「過去の成功体験に捕らわれすぎるのはよくありませんよ!!!」
「ええい、黙れ黙れそして下がれ!!! ザルトシュルトは今後も貴様らが裏切らぬよう見張り続ける!!! 貴様の考えた弱腰の保険システムは却下する!!! よいな!!!」
「ぐっ……!! 仰せのままに……」
新システムはこっそり導入しよう。
キルデイルはそう決意した。




