ep.9『同窓』後半 ⑤
ただ、沈黙が流れた。
昔のように、笑い話でこの沈黙を破ることができたらどんなに素晴らしいか。
しかし、現実に沈黙を破ったのは、いくつもの足音であった。
「ヴォルガーくん!!」
多数の憲兵を引き連れてやってきたラピアが、ヴォルガーの元に駆け寄る。
「俺は後で大丈夫だ。まず、こいつを治してやってくれ」
「……はい」
ラピアは満身創痍のソスランに治癒魔法をかけ始める。
「待ってください、拘束を――」
「逃げねぇよ」
回復と同時に逃げ出したら、と危惧した憲兵をオグニが制止する。
「大丈夫だ、こいつは逃げねぇ」
オグニの言う通り、ソスランは治療が終わっても一切逃げる素振りは見せなかった。
そしてソスランは、盗賊団とともに連行されていく。
「わりぃ……ここで少し休ませてくれ」
オグニは憲兵にそう言った。
ヴォルガーもラピアとともに、ソスランを見送ることにした。
犯罪者として連行されていくソスランを見るのは、双方にとって辛いことだった。
連行される間際――
「こんな情報じゃ、お詫びにもならないが」
そう切り出して、ソスランはヴォルガーに告げた。
「僕が借金の返済に困って、高額の裏稼業に手を出したとき……ヴォルガー、君を誘拐する依頼があった」
「……なっ」
突然もたらされた衝撃的な情報に、ヴォルガーは絶句した。
「無論、僕は断った。だからこそ、詳しいことはわからない……」
「そうか……わかった、気をつけよう」
「おかしなことだが、君の敵は魔王軍だけではないということだ。本当に、あってはならないこと、なんだがな……」
『どの口が言ってるんだ』と、ソスランが自分自身に吐き捨てているかのように聞こえた。
憲兵に連行されたソスランは神殿の階段を昇り、あっという間に見えなくなった。
「……これは、警備の人から聞いたことなんですけど」
ソスランが警備兵を圧倒した時、他の盗賊達は手っ取り早く殺して黙らせようと話していた。
しかし、ソスランだけは縄で拘束することを訴えた。
警備兵を殺すことが何かの術のスイッチになっている可能性があるとか、捕まった際のリスクとか、様々な面から殺さない選択肢のメリットを訴えかけた。
しかしその実は、説得ではなく威圧であった。
戦闘力という面で盗賊達を大きく上回るソスランが「殺人をするのであれば仲間とは思わない」と、言外に脅しをかけていたのだ。
盗賊達はソスランに怯え、警備兵達は拘束されるに留まったのだという。
「……ソスランさんは大きな間違いをしてしまいました。だけどきっと、心の底まで間違っているわけじゃないと思うんです」
「……そうだな。ああ、そうだ。ありがとう、ラピアさん」
***
「すまねぇな。せっかく来てくれたのに、かえって疲れることばっかりさせちまって」
「お前の謝ることではない。……会えて良かった」
村に帰って一休みして、それでもまだ日は高い。
ヴォルガー達は出発することにした。
「お二人とも、また遊びに来てくださいね。この子もきっと喜びますから」
「はい! 是非とも!!」
大きなお腹を撫でて話すフレーダに、ラピアは明るく返事をした。
「……まぁ、このご時世だ。俺みたいな人類トップの実力者様が、のんびりとばかりしちゃいられねぇ」
「オグニ」
「ヴォルガー、いざって時ゃ俺が助太刀に行く。お前の伝説に便乗して、俺も歴史に名前を残させてもらうぜ」
「……ああ、頼りにしている」
ヴォルガーはオグニの手を、がっしりと握った。
「魔王を倒して平和になったら、改めてうちで同窓会でもやろうぜ。そん時ゃ先輩も呼んで……それに、出所した後のあの馬鹿もな」
「そうだな。二人にもこの村の野菜を食べてもらおう」
手を放してオグニに別れの挨拶をすると、ヴォルガーはもう振り返らなかった。




