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ep.9『同窓』後半 ③

「お、おいっ! なんだか知らねぇけど俺らは先に行くぞ!!」

「お前はそいつらを足止めしとけっ!!」


 他四人の盗賊団は、ソスランの破壊した結界の向こうへと走り去っていく。


 オグニはヴォルガーの肩に、静かに手を置く。


「ヴォルガー……俺は村を守るため、あの連中を捕まえなきゃならねぇ。この馬鹿の相手は任せたぞ」


 そう頼むオグニの震えが、ヴォルガーの肩に伝わってくる。


「ああ……わかった」


 その返事を聞くと、オグニは破れた結界の向こうへと走り出す。

 必然的にすれ違うオグニとソスラン。その瞬間の二人は、全く目を合わせなかった。

 あるいは、合わせられなかった。

 オグニが去った後、向き合ったヴォルガーとソスランは自然とその拳を構えた。

 ゴングを鳴らす前に、ヴォルガーはソスランに問いかける。

 何か、自分の想像していないような……借金のためではない、納得のいく答えがもらえないだろうかと、心のどこかで期待しながら。


「……何故神殿荒らしなどに手を染めた、ソスラン」

「……」


 ソスランは、目を伏せたまま答える。


「……ダンジョンを攻略するのと変わらないさ。ここは元々ダンジョンなんだ。そんな、後ろめたいことじゃあない」


 彼がそう言い聞かせたのはヴォルガーだったのか、あるいは自分自身だったのか。

 ヴォルガーは感情の暴発を押さえつけるように、拳をぐっと固く握る。


「欺瞞を口にするな……。たとえ由来は同じでも、ダンジョンと神殿は全く違う。神殿は人々の信仰の対象であり、暮らしを守る力すらくれるものだと……こういうことを俺に教えてくれたのはお前だったじゃあないか!! ソスラン!!」


 最早、言葉で語りかけて済む段階は終わっていた。

 ヴォルガーは瞬時に距離を詰め、そしてソスランの顔面めがけて拳を振り下ろした。

 しかしその拳は彼の顔に叩き込まれることはなく……顔を覆うように立てられた腕に防がれ、そして逸らされた。

 ヴォルガーの打撃、そのダメージを的確に軽減する完璧な防御。

 ヴォルガーは矢継ぎ早に拳を叩き込むが、ソスランはその全てを正確に防いだ。

 並大抵の闘士であればガードする腕をそのまま粉砕されるような威力の拳であったが、ソスランの肉体はヴォルガーのそれと比較しても遜色ない。

 完璧な防御は、完璧に機能する。


「相変わらず君は……力に頼りすぎる!!」


 防御に徹していたソスランは一瞬の隙をついてヴォルガーの腕を取り、その凄まじい力を逆手に取り、脚を引っかけて後方に投げ飛ばした!!


「!!!」


 投げ飛ばされたヴォルガーは地面に叩きつけられる……その前にソスランの拘束から無理矢理脱し、そして着地した。

 その着地地点……そこを逃さず、ソスランの蹴撃がすかさず襲いかかる!!!


「くっ!!!」


 これに反応したヴォルガーは、バランスを崩すことを承知で跳び、ソスランから距離を取った。


「ヴォルガー……君の凄まじいパワーは昔から天才だった。魔物や他のジョブとの戦いじゃ、君はあの道場で文句無しの『No.2』だった!! だが……格闘家同士の戦いで君に負けているつもりは一切無いよ」

「ああ……その通りだな、ソスラン。その通りだが……今の貴様に負けるわけにはいかん」


 自分のペースに持ち込む、戦いの流れを支配する。

 その点においては、ソスランは紛れもなくヴォルガーを超えていた。

こちらから仕掛けても、あちらの仕掛けを待っても、結局はソスランの計算通りに試合は運ばれる。

 ヴォルガーが勝つには、どこかで断ち切らねばならない。

 ソスランの作るペースを、流れを。

 お互いに、改めて拳を構え睨み合う。


「ハァァッッ!!!」


 次に仕掛けて来たのはソスランの方であった。

 瞬時に距離を詰めてくるその巨体……ガードの堅いソスランといえど、攻めの際には隙が生じる。

 ――生じる隙を、コントロールしている。

 反撃のラインさえ絞り込めば、相手の対応に関わらず優位に立てる。

 ソスランの攻撃を受けて流れに飲み込まれるか、ソスランに反撃して流れに乗せられるか。

 二者択一の状況を、ソスランは一瞬のうちに作り出してしまう。

 ソスランの戦法は、あまりにも計算高かった。


「ぐっっ……!!」


 ヴォルガーの一手は守り。

 襲い来るソスランの拳を、まずは腕で受け止めた。

 お互い、どのような攻撃でも確実に届く至近距離。

 次の攻撃は二人同時であった。


「「らぁぁッッ!!!」」


 お互いの顔面に同時に叩き込まれる固い拳。

 傍から見れば明らかに相打ちの状況であったが、ここでもやはりソスランの計算は正確であった。

 ノーダメージとはいかずとも、ヴォルガーの攻撃をある程度受け流していた。受け流せる位置で拳を受けていた。

 そして、ヴォルガーより僅かに握ったその優位でペースを掴み、ヴォルガーが反撃に転じるよりも素早く第二撃に入る。


「っっらぁッッ!!!」


 打撃をモロに食らい、衝撃にヴォルガーが制止したその刹那、ソスランは拳を土手っ腹に叩き込む。


「がぁ……っっっ!!!!」


 鋼の肉体すら突き抜けるダメージ。

 殴り返せる隙はまるで見えない。

 戦いの流れは、完全にソスランが掴んだ。

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