ep.9『同窓』前半 ④
***
集会場で開かれた歓迎会で、村人達は各家庭から持ち寄った料理を次から次へと勧めてきた。この村の誇る自慢の味を英雄であるヴォルガーとラピアに知ってほしい……そんな熱意がありありと伝わってきた。
二人にとってはありがたいで済む量だったが、常人であればテーブルに並んだ光景を見ただけで満腹になるような勢いであった。
一晩休めればと思って訪れた村だったが、歓迎会では村人からの質問攻めにあい、むしろ疲れが増したようだった。
しかし、決して悪い疲れではない。
村人が自分を歓迎してくれることはもちろん嬉しかったがそれ以上に、オグニが村に馴染んでいることがヴォルガーにとっては嬉しかった。
とはいえやはり、こうしてちやほやされる状況はヴォルガーにとってあまり得意なものではない。
食事も一通り終わり休憩がてら夜風に当たっていると、オグニがやってきて隣に並んだ。
「ああやって大勢で食卓を囲んでると、道場にいた頃を思い出さないか?」
「道場であんな風にスター扱いされていたら、流石に気の休まる暇が無かっただろうな。無論、ありがたいことではあるが」
「そうか? ははっ、確かにお前からすりゃそうか」
ヴォルガーは夜空を見上げて、郷愁に浸る。
両親を失った自分にとっての第二の故郷を想う。
「師匠が亡くなって、門下生も散り散りになって……もう遠い昔のようだな」
「師匠のことが無くても、独立までそう遠くは無かったけど……まぁ、急だったよな」
「……オグニ、あれから兄者には会ったか?」
「先輩か……いや、なんの話も聞かねぇな」
「そうか……」
修業時代、唯一ヴォルガーが敵わなかった門下生。
唯一師匠を超えた尊敬すべき兄弟子。
独立後は修業時代を超える活躍をし、世界中にその名を轟かすだろうと誰もが疑っていなかった男だが、その噂すらヴォルガーの耳には届いていなかった。
「勇者殿からパーティを追放された件だがな、正直なところ俺自身にも真意はわかっていないのだ」
「えっ……そうなのか? 新聞記事じゃあやけにボヤかしてるとは思ったけどよ」
「俺は時々思うのだ。もしもパーティに参加したのが俺ではなく、兄者だったならこんなことには――」
バシーーン!!!
「ッッッッッッッ!!!!」
オグニから思いっきり背中を叩かれて、突然の痛みにさしものヴォルガーも悶えざるを得ない!!
「オグニっ、お前」
「心配すんなよ! お前だって勇者の剣に導かれて仲間になったんだろ?」
「それは、そうだが……」
「お前は真っ直ぐ歩けてるぜ。想像してた未来と食い違って驚くことも、そりゃあるだろうけどな」
「……ああ」
ヴォルガーは、一言そう呟いて返事にした。
昔からお調子者だったオグニにこうもストレートに励まされたことが、なんだか気恥ずかしかった。
その恥ずかしさを誤魔化すように、兄者の次に浮かんだ名前をヴォルガーは話題として振る。
「そういえば、あれからソスランとは会ったか? 同期の中でもお前と一番仲がよかったから、コンビで活動でもするのかと思っていたが」
何の気無しに出した名前だったが、聞いた瞬間にオグニの顔はふっと曇った。
「……オグニ?」
「ああ、いや……ソスランか……」
オグニが言い淀んでいる、その時だった。
「あーなた♡」
突然背後から、フレーダがオグニの太く逞しい腕めがけて、倒れるように抱きついてきた。
「うおっ、大丈夫かフレーダ」
「お話中ごめんなさい。みんなが食器を片づけるの手伝ってほしいって」
「そろそろお開きか、いいぜ」
フレーダに続いて、ラピアも集会場から出てくる。
「ヴォルガーくん、私達もそろそろ挨拶をしてお暇しましょう。片づけ中にゲストがいても気を使わせちゃいますし」
「ふむ、それもそうだな」
「……あ、そうだ」
オグニはふと、何かを思いついてラピアに相談をする。
「ラピアさん、フレーダの脚を看ちゃくれねぇか」
「……脚を?」
きょとんとするラピアに向けて、オグニは話を続ける。
「ああ。さっきも見たとおり、フレーダにはしょっちゅうこける癖があって……出会った頃から、ことあるごとによろけては俺に抱きついてきたんだ」
「なにっ、そんな癖が……それは大変だな! ラピアさん、是非とも診察してくれ!」
「えっと……もちろん、看るには看ますが……」
苦笑いするラピアを余所に、フレーダは相も変わらず幸せそうな笑みを浮かべてオグニの腕に抱きついている。
ラピアは「精神的なものが原因なので、今後も支えてあげてください」と返した。




