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ep.9『同窓』前半 ②

 この情報は、道中の談笑には無かった。

 オグニは武勲を立てる旅の途中で、この村にはたまたま滞在している――と想像していたヴォルガーにとって、これは本当に驚きであった。


「やぁオグニ、怪しいやつはいなかったかい?」


 散歩中らしい老婆が、親しげにオグニに話しかけてくる。


「怪しい奴どころか、とびっきりのサプライズゲストが来てくれたぜ! 見てくれよ!!」

「……あっ! その二人はもしかして勇者パーティにいた!?」


 驚く老婆に、二人は軽く挨拶をする。


「へぇ~、あのヴォルガー・フィルヴォルグと同門だっていう話、てっきりオグニの冗談かと思ってたよあたしゃ!」

「ハハハハ、その気になったら俺の方が強いんだぜ?」


 少し談笑して老婆と別れると、またオグニの家に向けて歩き出す。


「随分とこの村に馴染んでるんだな、オグニ」


 先程の老婆とのやりとりは、昨日今日コミュニティに来た人間のそれではなかった。


「ああ、もうこの村に来て一年以上になっかなぁ」

「意外だな……オグニがそんなに長く同じ場所に留まるとは」


 道場を出たら魔物や魔族と戦って名を上げる! 英雄として讃えられてそこら中に俺の銅像を建ててやるぜ!!


 修業時代のオグニは、しょっちゅうそんな展望を仲間達に語っていた。

 昔から落ち着きのない男だ。(銅像が建つかはともかく)各地を回って名声のために戦い続ける姿を、同門の誰もが想像したはずだ。


「いやぁ、俺だって想像してなかったけどよ――」


 と、話している途中でオグニの目線がある場所に向かう。


「あそこが俺ん()だ! なかなか立派なもんだろ?」


 そういってオグニが指す先には、確かに新築の一軒家が建っていた。

 しばらくすれば出ていくことを前提に古い家でも借りてるのか、という想像もヴォルガーの中にはあったが、どうやら全くの的外れだったようだ。

 そろそろ玄関……というところまで近づいて見てみれば、その広さは一人で住むためのものとは到底思えなかった。

 四人で住めば丁度いいくらいだろうか。


「オグニ、誰かとルームシェアでもしているのか?」

「ヴォルガーくん、多分オグニさんはルームシェアとかじゃなくて――」


 そうラピアが言いかけたとき、玄関が内側から勢いよく開かれた。


「あなたっ♡ おかえりなさい♡」


 そういって、扉を開けた女性は勢いのままオグニに抱きついた。

 年齢は恐らくオグニより少し上。巨漢のオグニと比較すると目立たないが、身長は女性としてはなかなかの高さに見えた。

 そして……何より目を引いたのは、膨らんだお腹であった。


「おいおいフレーダ、ちょっと見回りに行っただけでそんな熱烈にお出迎えするこたぁないだろ。こけそうでハラハラしちまうぜ」

「だってぇ、一秒でも早く会いたかったんだもの♡」


 フレーダと呼ばれた女性は、そう言いながらオグニの胸板に顔を埋めている。


「オグニ……その人は……」

「ああ、彼女はフレーダ。俺の女房だ」

「にょっ、にょにょにょ、女房ゥ!!???」

「ハハハハ、そりゃ驚くよなぁ」


 あのオグニが一所に定住して、結婚までしているとは。

 全く予想できなかった同胞の変貌ぶりに、ヴォルガーは頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。


「はじめまして、妻のフレーダです」

「あ、ああ、ヴォルガー・フィルヴォルグだ」

「まぁ! オグニのお友達の!!」


 やはり、フレーダもヴォルガーとラピアには見覚えがあり、新聞で見知った顔と目の前の二人をすぐに頭で結びつけたようだった。


「じゃあお隣にいるのは――」

「婚約者のアスクラピア・パイエルオンです!」

「ラピアさん!! 対抗して変なことを言わないでくれ!!」


 これを聞いたオグニは、嬉しそうに大笑いした。


「ハハハハ!!! 照れんなヴォルガー!! ラピアさんとの関係は新聞読んで知ってんだからよぉ!!」

「いや違っ、あの記事は」

「ふふふ、新聞で見た通りとってもお似合いの二人ね!!」

「いや、だから」

「まったく、俺もお前も結婚するなんてなぁ。修業時代の俺達が聞いたらひっくり返るぜ!!」


 ラピアさんとの関係の話になると、誰も彼も自分の言い分を聞いてくれない、信じてくれない……。

 青春時代を共にし、切磋琢磨したオグニですらこの有様とは。

 ヴォルガーは世間というものの理不尽さを恨んだ。


「ちょうどそろそろミートパイが焼ける頃なの! 二人ともあがってちょうだい!!」

「わぁ、ありがとうございます!!」


 フレーダに招かれ家に上がる。

 家の中は自然木をそのまま使用した床や真っ新な白い壁も、美しくそれでいて落ち着く空気があった。


「フレーダ、パイは俺が見とくよ」

「ふふっ、あなたはお客さんとお話ししてて。少しくらい動いた方が身体にいいんだから」

「そうか? あんまり無理はしないでくれよ」


 重い体でゆっくりと台所へと向かうフレーダを見送って、三人はダイニングでテーブルを囲む。


「奥さん、何ヶ月ですか?」


 テーブルにつくと、ラピアはフレーダの中に宿る新しいについて尋ねた。


「七ヶ月だ。正直、どんな魔物と戦うときより緊張するな。あともう少しで俺なんかが父親になるのかと思うと」


 そう言って、オグニは恥ずかしそうに苦笑した。


「きっといいお父さんになれますよ! ねぇ、ヴォルガーくん!」

「どうかな……オグニは昔から年下の扱いが雑だったからなぁ」

「ハハハッ、おかげで鍛えられただろ?」


 オグニは笑いながら、ヴォルガーの背中をバシバシと叩く。


「まったく、子供が生まれたら力加減には気をつけろよ」

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