ep.8『妙薬』⑩
美しい編隊飛行でヴォルガーを追いつめる不死鳥達。
燃え盛る体の描く軌道は遠くから眺めれば紅い流星のようだったが、その光景を楽しむ余裕などヴォルガーにはあるはずもなかった。
ヴォルガーも人間としては最高峰のスピードの持ち主だが、やはり空の支配者から逃げ切ることはできない。
あっという間に追いつかれ、その突撃をかわすことで精一杯だった。
ヴォルガーが不死鳥の突撃をかわせば、そこに別の一羽が突っ込んでくる。
それを乗り上げるような形で回避すれば、またそこに別の一羽が。
とうとうバランスを崩したヴォルガーに、不死鳥達は翼から炎を放ち浴びせかけた。
「くええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
「ふんんッッッ!!!」
ヴォルガーは腕で巻き起こした風圧で、不死鳥達による炎をかき消していく。
しかし、ヴォルガーが対応している間にも不死鳥達は次の攻撃へと移行していた。
いつの間にか、ヴォルガーは不死鳥達に囲まれていた。
燃え盛る火の鳥達による高速旋回……辺りは瞬く間に紅く染まっていく。
(まさか……!!)
先程、密猟者達を焼き苦しめた恒星のような炎。それが今度はヴォルガーを包み込んでいた。
ヴォルガーは咄嗟に目を瞑り、口を塞ぐ。体内へのダメージを最小限にして切り抜けるため。
そして音と熱を頼りに、自らを半球型に包む炎へと突進していく。
この半球の中では、ただ佇むだけでも一瞬ごとに凄まじいダメージが蓄積していく。
とにかく脱出することが急務なのは明らかであった。
360°全てを常に炎が包み込んでいるこのドームだが『穴』は常に存在する。
炎の軌道は通っていても、不死鳥そのものが通り過ぎたタイミング……それが『穴』だ。
ドームの外へ向けて突進するヴォルガーは、スピードを緩めることもなく……穴を抜けて、脱出することができた。
「がはっ!! ごはぁっっ!!!」
熱気から逃れ、咳込むヴォルガー。
彼は脱出した後もなお、加速を続けて不死鳥達から距離を取っていく。
さしもの不死鳥達も、フォーメーションを崩してヴォルガーの追跡に切り替えるには時間がかかった。
その間の時間稼ぎのため、ヴォルガーは走る。
先程の脱出、穴を狙って走り抜ける必要があったわけではなかった。
不死鳥を突き飛ばして外に出るという選択肢も当然存在していた。
その選択肢を取らなかったのは、ひとえに不死鳥達を傷つけないためである。
――どちらも傷つかずにこの戦いを終わらせる、ということが不可能であると、ヴォルガーはひしひしと実感していた。
ヴォルガーが距離を取ったことで、不死鳥達の次の行動には時間差が生まれた。
真っ先に次の行動へ移ったのは、やはり最も大きく成長しているピーちゃんであった。
炎のドームから外れ、走り去っていくヴォルガーを捕捉し、一気に突っ込んでいく。
「くええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
空を切る轟音――それを耳に捉えたヴォルガーは、突撃のタイミングに合わせて振り向いた。
「ふんんっっっっ!!!」
そして、ピーちゃんの頭を思いっきり腕で捕らえた!!
「くえっ!!??」
金剛力に捕らえられ、身動きのとれないピーちゃんはじたばたと翼を動かす。
その間にもピーちゃんを捕らえるヴォルガーの体は、めらめらと燃える炎に焼かれていく――その熱さ、痛みに、ヴォルガーはただただ耐えていた。
ヴォルガーの腕は剛力だが、しかし決して痛いものではなかった。
むしろ抱きしめられるような安心感があり、ピーちゃんは次第に落ち着きを取り戻し、その全身を包んでいた炎も勢いを弱めていく。
「わかるか、ピーちゃん。この強さは、力は、君達がくれたものなのだ。確かに俺の使い方は、君達の想定とは異なるものだったのだろう。だが俺は、君達のくれたこの力のおかげで多くの人を守っているんだ」
「くえぇ……」
ピーちゃんはすっかり大人しくなり、ヴォルガーの腕にその体を預けた。
言葉が無くとも、その暖かな体温で信頼が伝わってきた。
他の不死鳥達もやってきたが、ピーちゃんの姿を見て察したのだろう。すっかり戦意は失われていた。
そして、リッケ達も遅れてやってくる。
「ヴォルガーくん、すごい火傷ですよ!!」
慌てて治療するラピアを見て、ピーちゃんは申し訳なさそうに頭を垂れている。
「でも、ピーちゃんが納得してくれて本当によかったです! うふふ」
「違う……ピーちゃんは鳥類だから……乳首が無いからこの異常さを理解できてないんだ……」
一方のリッケは、まだ納得はいっていない……いっていないが、ピーちゃんが納得した以上、それを尊重しないわけにもいかなかった。
「だけど、まぁ、うん……。私達の薬があんたの精神を支えて、それで結果的に沢山の人が救われてるっていうのは……嘘じゃないわよね。それは流石に信じる、信じるけど、うん……」
信じるは信じるが、心の底からの納得はできない。どうしてもできなかった。
「俺だけではない。師匠が最後に育てた開天流の門下生……666人全員にとって貴女達の薬は心の支えだった」
「……え゛っ!! ま、まさか666人全員がその、あたし達の薬で乳首を……!!??」
「ああ!! 師匠が全員に薬を支給してくれていたからな!! 貴女達の薬は夜な夜な俺たち全員の乳首に潤いを与えてくれた!! それはきっと、今も変わらず!!」
「――ばっ、盤古のやつ……弟子にどんな教育してたのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
リッケは叫んだ。
今は亡き旧友に向けて、心の底から叫んだ。
彼の死を知らされた日でさえも、ここまで心を動かされることはなかった。
「ほらごらん、ピーちゃん。君が育ててくれた乳首だ!!」
ヴォルガーは黒いタンクトップをたくし上げ、桃色に輝く乳首をボロンッッとピーちゃんに向けて露出する!!
「くえーっっ!!」
ピーちゃんは喜んでその乳首をついばんだ!!
「お゛っ♡ お゛っ♡♡ やっ♡♡ やめるんだピーちゃんッッ♡♡♡ くちばしを放してくれっ♡♡♡」
「こっ、こらっ!! ピーちゃんそんな汚いものペッしなさい!!! ペッ!!!」
「あああああああああ何してるんですか私だってまだついばんだことないんですよ!!!!」
「よっ、よくわかんないけどスキャンダルッス!!!」
パシャ!! パシャ!! パシャ!!
不死鳥に乳首をついばまれるヴォルガーの姿が新聞の一面を飾った。
≪続く≫




