ep.8『妙薬』⑨
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「刑務所の連中にも伝えなさい。不死鳥を襲ったら『ああなる』って」
「はっ、はい!! もちろんです!!」
駆けつけた憲兵に連行される際、唯一気を失っていなかった密猟者は素直に降伏した。
四人のうち、墜落しながらヴォルガーに拘束された彼だけが全てを見ていた。
夜空に昇った太陽、体の内外を焼かれて悶える仲間。
そして、黒く焦がれたその姿。
治療は適切に行われた。目を覚ましたとき、体を焼かれた二人ははっきりと理解することだろう。不死鳥によって生み出された薬の素晴らしさを。
四羽の怪鳥も治療はされたが……このような犯行に使われた以上、殺処分は免れないだろう。
「……あの子達も、あんな馬鹿な連中に捕まらなければね」
憲兵に連行される姿を、リッケは寂しそうに見送った。
ともあれ、事態は一件落着だ。
リッケは努めて笑顔を作ってヴォルガー達に話しかける。
「とにかく今日は遅いしもう寝ましょう! よく眠れるお茶を煎れてあげるわ!」
「ありがとう、楽しみだ」
「貴方もお疲れさま、ヴォルガー。せっかく来てくれたのに、迷惑かけちゃったわね」
「……あっ、そうだ!」
ラピアは思い出したかのようにそう言うと、ヴォルガーの手を見る。
「ヴォルガーくん! お怪我を見せてください!」
「ああ、これか。頼んだ」
「ヴォルガーくんにこんな深い傷をつけるなんて……なんだかんだ実力はある人達だったんですね……」
「まったく、力はもっと有意義な使い方をしてほしいものだ」
ラピアがすーっ、と撫でると、ヴォルガーの手についた深い切り傷は瞬く間に治療された。
あたかも、最初から傷など無かったかのように。
「……んっ!? ちょっと見せて!」
リッケは驚いた様子でヴォルガーの手を取り、じっと見つめる。
「すごい、治療の跡が全く見えない……シンプルだけど完璧な治療だわ!」
「ふふーん、そうでしょう!」
すっかり感心しきったリッケは調剤師としての興味からじっくりとラピアの治療した手を観察する。
そしてふと、ある疑問に襲われる。
「……あれ? ちょっと待って。これだけ腕のいいヒーラーが同行してるのに、なんでうちの薬を毎日使ってるの……?」
「ああ! 不死鳥の涙は治療ではなく、乳首の開発に使わせてもらっているのだ」
「ちっ、ちくっ、乳首!?」
完全に予想外の方向から驚愕の事実をぶん投げられて、リッケは思わず狼狽する。
「うむ! リッケさんと不死鳥達のおかげで、俺の乳首はいつでもピチピチ元気なのだ!」
そういってヴォルガーは黒いタンクトップをたくし上げる!!
そして現れる……闇夜に朝を告げるような輝きを放つ、テカテカとした桃色の乳首が!!
「うっ、うわーっ!! よくわっかんないけど、この乳首は最早スキャンダルッス!!!」
驚き、慌てながらもジャーナリストとしての本分を全うするルカ。
パシャパシャとフラッシュを焚きながら、ヴォルガーの乳首を激写する!!
一方のリッケは、突然突きつけられた桃色乳首を前にわなわなと震えていた……。
「……ふっ、ふざっ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
夜の不死鳥牧場に怒号が響きわたる。
密猟者達が起こした騒動も霞むほどの、迫力と怒りに満ちた叫び声であった。
「私達が薬を作ってるのはあんたの乳首をピチピチ元気にするためじゃあない!!!!」
「クエエエエエエエェェェェェェェェェェッッッッッッ!!!!!」
リッケの怒りに呼応するように不死鳥達の炎も燃え盛る!!
夜の不死鳥牧場に、再び太陽が昇ってしまった!!
「え゛っっっ!!??? い、一体全体突然どうしたんだ!!???」
「『どうしたんだ』はこっちの台詞よ!!! みんな『キツいお仕置き』を喰らわせなさい!!!」
「クエエエエエエエェェェェェェェェェェッッッッッッ!!!!!」
リッケの号令に従ってヴォルガーに襲いかかる不死鳥達!!!
ヴォルガーは凶行の理由すらわからず、ひとまず走って逃げ出す!!!
「くっ!!! 一体どこに我々が戦う理由があるというのだ!!!」
ラピアはリッケに対して必死の説得を試みた!!
「おっ、落ち着いてください!! 何に怒っているのかさっぱりわかりませんよ!!!」
「あなた頭がおかしいんじゃないの!!??」
「あんなに美しいもの(乳首)を見たのにこの激情……やはり先程の密猟があまりにもショックだったんですね……!!」
「い、いや……密猟はマジで全く関係ないと思うッス……」
ラピアの説得も虚しく、不死鳥達による猛攻はヴォルガーを襲い続ける!!




