ep.8『妙薬』⑧
ヴォルガーが密猟者を取り押さえているその一方、空中ではリッケと不死鳥達による戦いが続いていた。
ヴォルガーの戦いにもいえることだが、相手をなるべく傷つけないように対抗するというのは非常に重いハンデであった。
相手の密猟者達は、こちらが死んでも構わないというつもりで挑んでいるのだから。
「ハハハハハ!!! 避けてばっかりじゃ終わらないわよぉ!!!」
怪鳥に乗った女密猟者が、肩に抱えた大砲から雷弾を撃ち出して不死鳥達を狙う。
昼間、カップルのふりをして現場の下見に来ていた女だ。
その攻撃は当たりこそしないが、不死鳥達に反撃の隙も与えなかった。
「そらぁッッ!!」
リーダーと思われる男密猟者が、ピーちゃんに向けて長い鎖を放つ。
矢のように鋭く飛来する鎖は、不死鳥に絡めて捕縛するためのものというのは明白であった。
ピーちゃんは鎖を翼で受け止める。
戦いの為に燃やす炎はマグマのように熱く、鎖を瞬く間に溶かしていく。
しかし……高熱で溶けた鎖は、地面に広がる雪解け水のように、ピーちゃんの体表を覆っていった。
「クワッッ!!??」
「ピーちゃんっっ!!?」
「ハハハハハ!!! 溶かされるのは想定済みに決まってんだろォ!!」
溶けた鎖は再び固まり、密猟者の狙い通りに捕縛されたピーちゃん。
鎖から逃れる間もなく、密猟者による次の一手が放たれる。
「これで仕上げッッ!!」
女密猟者は大砲を頭上に向ける。
ターゲットである不死鳥達のいない頭上に向けられた大砲、その砲口から徐々に光が漏れてくる。
只ならぬものを感じたリッケが叫ぶ。
「――ッッ!! みんな逃げてっ!!!」
「遅い!!」
砲口から放たれた光は天に昇らず……拡散した。
そして、拡散した光に周囲は包まれ……呼応するように、電流が走った。
「グアアアァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
「ああああああああああッッッッッ!!!!」
乱発していた雷弾は、直接不死鳥達を狙うだけのものではなかった。
残留していた魔力を呼び起こし、電流で一帯の空間を包み込む……この二段構えを前提とした攻撃であった。
不死鳥達とリッケが苦痛に叫ぶ中、事前に絶縁の準備していた密猟者と怪鳥達だけが平然と笑っていた。
「ハハハハハ!! 不死鳥も案外ちょろかったわね!!」
「おいちょっと待てよ!! あの女の耳!! まさかエルフじゃないか!!?」
「うそっ!! こんな幸運ってあるのぉ!?」
勝利を確信して皮算用を始める密猟者達。
やがて電流が収まると、リッケは静かに、しかし力強く呟いた。
「……あんたらの実力はよくわかったわ。うん、心配して損した」
「あ?」
言葉の意味は分からないが、密猟者の耳には負け惜しみにしか聞こえなかった。
「みんな、この人達は簡単には死なないから大丈夫。『お仕置き』」
リッケの言葉に反応して、彼女を乗せた不死鳥はゆっくりと降下していく。
そして残った四羽の不死鳥は、その全身から朱い炎を放つ。
夜の闇に突然黎明が訪れたかと思うほどの、眩しく、激しく、熱い光。
「お、おい、なんだこれ……」
「嘘でしょ……」
ピーちゃんの体表を覆っていた鉄もすっかりと溶け落ち、不死鳥達を縛るものは最早何も無かった。
「この子達はね、沢山の人を助けるために痛みや苦しみに耐えてるの。貴方達みたいな救いようのない人間も含めてね。その身で実感するといいわ」
「にっ、逃げ――」
密猟者達に逃げ場は無かった。
四羽の不死鳥は高速で旋回し、そのたぎる炎で密猟者達を包み込む。
「……っっっ!!!!」
外から見ればその光景は、地上に浮かぶ太陽であった。
その中に包まれた者達は、最早叫び声をあげることすらできない。
一瞬にして酸素を奪われ、肺の奥から焼かれたような痛みに、ただただ狂い悶えた。
生命力に溢れたこの美しい光は、逃げ場のない煉獄そのものだ。
この恒星が輝いた時間は僅かだが、愚かな罪人達から戦う力を奪うには長すぎる程であった。
「――こんなダメージを治すために薬を作ってるわけじゃないんだけどね」
太陽の輝きが収まると、中で焼かれた密猟者と怪鳥は墜落していく。
四羽の不死鳥達はそれぞれ、彼らが落ちないように優しく受け止めた。




