ep.8『妙薬』⑦
ヴォルガーがこれを確認した時、リッケも戦場に到着した。
密猟者から逃れた一羽の不死鳥が、彼女を迎えに行ったのだ。
不死鳥の背中から、リッケは密猟者達に叫ぶ。
「馬鹿っ!! 不死鳥を密猟しても無駄だって聞いたことないのっ!!??」
その叫びを聞いて、密猟者の一人は嘲るように言葉を返す。
「もちろん聞いたことがあるぜ!! 密猟者に狙われた不死鳥は自ら燃え尽きるって話だろ!!」
「だったらなんで!!」
「馬鹿が!! どうせその話は密猟者を遠ざけるための嘘なんだろ!!?? この俺様が騙されるかよぉ!!!」
「くっ!! 自分を賢いと思いこんだ馬鹿には話が通じない!!」
必死に広めた真実も、信じてもらえなければおとぎ話と変わらない。
長い人生を送っているリッケは、その難しさを改めて痛感させられていた。
一方、ヴォルガーの乗っていた魔物はゆっくりとその高度を下げていた。
主人の指示を失ったので、安全のために着陸するつもりなのだろう。
ヴォルガーは戦場に留まるべく、別の魔物に狙いを定めて跳躍する。
「ハァッ!!」
ヴォルガーが飛翔したその瞬間、宙を舞う体めがけて襲い来るものがあった。
「!!」
ナイフだ。飛び移る先の魔物、その背中に乗っている密猟者が放ったものだ。
「ふんっ!!」
ヴォルガーは空中でその刃を払いのける。
難なく払いのけたとはいえ、その手には確かな傷がつけられた。
魔物は当然ヴォルガーを避けようとするが、その勢いに間に合わない。
ヴォルガーに掴まれ、魔物の体はぐらっとバランスを崩す。
ヴォルガー自身もバランスを取る難しさを感じながら魔物の背中に立つと、そこに密猟者が待ち受けていた。
安全のための鞍を外し、立ち上がってヴォルガーとの戦闘に備えていた。
「不死鳥の密猟はブルーオーシャンだ!! 邪魔されてたまるかよぉ!!」
「他の人間が手を出さない理由をもっとよく考えろ!!」
密猟者の投げた鎖がヴォルガーの腕に蔦のように巻き付く。
これで引きつける戦法なのだろう……とヴォルガーは予測し、逆に鎖を思いっきり引っ張った。
しかし、ヴォルガーの予測に反して密猟者は鎖を引っ張るどころか……あっさりと手放した。
「なっ……!」
バランスを崩すヴォルガー。
それだけならすぐに立て直せるはずだったが……バランスの崩れたタイミングで、ヴォルガーの乗る怪鳥が思いっきり傾いた!
「墜ちろぉッッ!!」
そう叫ぶ密猟者は怪鳥の傾きに合わせて跳躍し、墜落を回避する。
不意打ちで決着をつけた先ほどの密猟者とは訳が違う。
怪鳥との見事な連携でヴォルガーに対応した。
「うあ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
密猟者の狙い通りに墜落していくヴォルガー。
その叫び声は、闇の底へと沈んでいく……。
「ハーッハッハハ!! 俺達の商いを邪魔した罰だぜぇ!!!」
勝利を確信して高笑いする密猟者。
次は邪魔な牧場主を消していよいよ密猟にとりかかろう……と思ったその時!
「……ぁぁぁぁぁぁぁあああ゛あ゛!!!!」
地上から上昇してくる叫び声が彼の耳をつんざいた!!
「まっっ、マジか――」
「ふぅぅんッッ!!!」
一度墜落し、そして再び舞い上がってきたヴォルガーの拳が怪鳥の土手っ腹を叩きのめす!!
「グエェェェェェェッッッッッ!!!!」
あまりのダメージに悶絶し、気を失う怪鳥!!!
当然の帰結として墜落していく!!!
「やっ、ヤバい!! くそっ!!」
怪鳥の上に立つ密猟者も、流石によろめき焦りを隠せない。
こうなるとヴォルガーが次に憂慮すべきは、密猟者の命だった。この男を墜落する怪鳥の上に放置して他の敵と戦うわけにはいかない。
怪鳥の腹肉を掴んでもう一度背に乗り、そして呼びかける。
「リッケさん!! 一旦そっちは任せた!!」
「わかったわ!!」
ヴォルガーは敵である密猟者の命すらも守ろうとする……その気持ちが彼にも伝わったのだろう。
「……嘗めんなァッ!!」
その優しさはプライドを強く刺激したらしい。
墜落する怪鳥の上で、敵はなおもヴォルガーに襲いかかる。
「大人しくしろっ!! 死にたいのか!!」




