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ep.8『妙薬』⑥

***


 リッケの好意で一晩泊めてもらうことになり、ヴォルガー達は閉園後もふれあい不死鳥(フェニックス)牧場にいた。

 すっかり夜も更け、不死鳥(フェニックス)達は眠りにつくため火口へ向け飛んでいった。

 朱く輝く炎の翼が深い夜の闇を羽ばたく姿には幻想的な美しさがあり、ヴォルガーも、ラピアも、ルカも、すっかりその光景に見入った。

 不死鳥(フェニックス)を見送りながら、リッケに向けてヴォルガーはポツリと呟く。


「昔、道場の同期から聞いたことがあった」


 修業時代、何人もいた同期の門下生の中でも特に博識だった男から聞いた知識――心にずっと引っかかっていたその知識について、ヴォルガーは話した。


「師匠の開発した開天法のおかげで、人類の体術は格段に向上した。開天法が生み出される前は、魔族や大型の魔物と生身で闘うなどとても考えられなかった、と」

「そうね……。一世紀前、盤古達が開天法を作る前は、人類の戦いは今よりずっと厳しかったわ」

「しかし、そうやって人類が救われた一方で……」


 ヴォルガーは重々しく口を開く。


「開天法が作られて以降、魔物の密猟も盛んになった」


 強力な魔物との戦いが容易になれば、それを利用して金儲けを企む者はいる。非合法・非道徳な手段も含めて。

 かつて密猟者(ハンター)に狙われていた不死鳥(フェニックス)もその犠牲者なのだろう……ヴォルガーにはそのことがずっと引っかかっていた。


「……貴方が気にすることじゃないでしょ。大体、魔王に支配されるよりはよっぽどマシよ」


 リッケはヴォルガーを気遣うように、ふっと微笑みかける。


「それに、あたしとしては……密猟者(ハンター)全員を嫌いにもなれないのよね」

「えっ……?」


 その言葉は、あまりにも予想外だった。


「もちろん、金儲けのために密猟するやつは大嫌いよ。でも、不死鳥(フェニックス)を狙う人の中には、重い病気を抱えてる人とか、その家族とかもいたから……」

「ああ……」


 不死鳥(フェニックス)の肉を食べれば不死身になれるとか、どんな病気もたちどころに治るとか、そういった情報がただの伝説だと広まったのは人類の歴史から見ればごく最近の話であった。

 それこそ、リッケのような者が正しい情報を広めることでようやく払拭された誤解だ。

 病に苦しみ、藁にもすがる思いで不死鳥(フェニックス)を狙う……そんな人を沢山見てきたから、リッケは不死鳥(フェニックス)で薬を作っているのだろう。

 その思いやりは容易に想像がついた。

 不死鳥(フェニックス)達とリッケに対する感謝の気持ちを覚えながら、夜空に羽ばたく姿を見ていたヴォルガーだったが……ふと、その光景に違和感が生まれる。

 不死鳥(フェニックス)達の周りに、四羽の大型魔物が飛んでいた。

 ピーちゃん程ではないが巨体の、鳥型の魔物だ。

 それだけなら偶然で済むが、四羽の魔物は妙に不死鳥(フェニックス)との距離を近づけていた。


「リッケさん!! あれ、多分まずいです!!」


 そう叫んだのはラピアだ。


「魔物とは別の魔力を感じます!! きっとあの背中に人間が乗ってます!!」

「わかった!!」


 ラピアの言葉を聞き、一目散に走り出したのはヴォルガーだった。


「まさか……密猟者(ハンター)!?」


 ワンテンポ遅れて、リッケも後を追う。

 先んじて走り出したヴォルガーは、空を飛ぶ魔物の群の真下まで猛スピードで追いついた。

 目を凝らすとやはり、鳥型の魔物の上に人がいる。そして、魔法や武器で不死鳥(フェニックス)を攻撃しているのも見える。


「ふんっっ!!!」


 ヴォルガーは四体いる魔物のうち一体をターゲットに選び、その軌道を読むと地面を蹴って跳び上がった。

 砲弾のような勢いで魔物に迫るヴォルガー。

 その巨体は狙い通り魔物への距離を縮め、そしてその足を掴んだ。

 ヴォルガーの飛翔したエネルギー、その全てを足で受けた魔物はぐらっとバランスを崩す。


「うわぁっ!!?」


 魔物のうえに乗っていた人間は、突然の衝撃に声をあげる。

 ヴォルガーは魔物の足を支点にして勢いをつけ、その背中に飛び乗った。


「ハァッ!!!」


 丁度、魔物の背に乗っていた人間の背後を取ることが出来た。

 そしてヴォルガーは、その人間の首を腕で羽交い締めにする。

 本人も、周囲の仲間も状況を把握する前の早業であった。


「なっ、なんだお前……っ」

「お前こそ何者だ。一体何が目的で不死鳥(フェニックス)に近づいた」

「き、決まってんだろ……不死鳥(フェニックス)を売れば金になる……!!」

「そうか」


 ヴォルガーは、密猟者(ハンター)の身体が魔物にしっかりと固定されていることを確認する。

 これならば落下で死ぬことはあるまい……そう考えて、首を絞める腕に力を入れる。


「ふんっ!!」

「ぐっ!! ぐぐ……っ」


 密猟者(ハンター)は、あっという間に気を失った。

 気絶した密猟者(ハンター)の顔をまじまじと見てヴォルガーは気がつく。

 その男は、昼間にふれあい不死鳥(フェニックス)牧場を訪れた観光客の一人であった。

 会話の内容までは、ヴォルガーの知るところではなかったが――餌やり体験をしながら、不死鳥(フェニックス)が眠るときどこへ行くか、何時に眠るか確認していたカップルの男だった。

 昼間に餌やり体験に来ていたのは、この犯行の下見に違いなかった。

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