ep.8『妙薬』⑤
***
しばらくすると客も増える。客達は思い思いに不死鳥との交流を楽しんでいるが、なかでも人気なのは餌やり体験だ。
若いカップルが餌やり体験で小さな不死鳥に肉をあげていた。
(小さいといっても、人間の子供くらいの大きさはあるのだが)
「不死鳥って夜にはここで寝るんですか?」
「いや、夜は大抵火山の火口で寝ているよ。不死鳥は大地の底からエネルギーを貰ってるらしいからねぇ」
餌やり体験の横で、飼育員の男性がカップルの質問に答えている。
「じゃあ夜になったら火口に向かって飛んでいくんだ! えー、絶対綺麗じゃん! 見てみた~い」
「寝るのって何時くらいなんです?」
「そうだね、この牧場の閉園後になるけど、大体毎日――」
少し離れたところで、ピーちゃんも他の客から餌をもらっていた。
ピーちゃんはその巨体と生命力に見合った大食いで、これなら餌やり体験の希望者が大量に来ても大丈夫だろうな……と、事務所の窓からその光景を眺めてヴォルガーは思った。
餌やりの光景を撮影していたルカも、他の面々が待っている事務所に戻ってくる。
「おかえりなさい! いい写真は撮れたかしら?」
「ええ、もちろんッス! ただその、気になったんスけど……」
ルカはリッケに、聞きづらそうに質問する。
「不死鳥が食べてる肉はその……まさか、不死鳥の肉だったり……?」
「身内でカロリーぐるぐる回してどうすんのよ……別の魔物の肉に決まってんでしょ」
「そ、そうッスよね!! いや、こりゃまた失礼」
「馬鹿なこと言ってないで不死鳥煎餅でも食べたら? 不死鳥の聖火で煎じたお茶もあるわよ」
「あ、是非いただくッス!!」
躊躇したらまた怒らせそう……と思っていたのもあり、ルカは席につくとすぐに煎餅に手を伸ばし、そしてかじった。
「おお……流石は不死鳥! 一口かじっただけでポカポカしてくるッス!」
こればかりは、一切忖度のない正直な感想だった。
「肉が練り込まれた煎餅を食べるだけでこんな風になるなら、昔の人が不死鳥を食べれば不死身になれると勘違いしてたのも納得ッスねぇ」
「……まったく、そんな簡単に不死身になれるなら苦労しないって話よね」
リッケはどこか寂しそうにそう呟いた。
「実際のところ、不死身になれるどころか安易に不死鳥を食べたら身体に悪いんですよね」
ヒーラーとして医学の知識を持ったラピアが、リッケに尋ねるように話を振る。
「そう。強い薬は簡単に毒になるもの。だから結局、あたしみたいな調剤師に任せてもらうのが一番なのよね」
「そういえば、不死鳥から心臓や肉を切り出すのもリッケさんがやってるんですか?」
「もちろん! 不死鳥達にここまで信頼されてる人類なんて、今の時代じゃあたしくらいだもの!」
「……ちょっと不謹慎な質問かもしれないんスけど」
何度か失礼なことを言ってしまったが、それでも記者として知的好奇心を抑えきれない……といった様子でルカはおずおずと尋ねる。
「密猟者に狙われたりしないんスか? あれだけ高級な薬の原材料なら……」
「……そりゃ、そういうこともあるわよ。無駄なんだけどね」
「無駄っていうと、やっぱり不死鳥は強いからッスか?」
「不死鳥は不死身であっても無敵じゃないわよ。どれだけ成長してるかっていうのもあるし……実力の高い密猟者には敵わないこともあるわね」
「じゃあ、無駄っていうのはどういう意味ッスか?」
「そういう輩に襲われたら、燃え尽きちゃうの。自分の力を悪用されないためにね」
「ひぇっ……」
不死鳥が自らを燃やし尽くす姿を想像して、ルカは身震いした。
「そして、時間をかけてまた再生する……この知識が広まって、最近じゃ密猟者もすっかりいなくなったけどね」
どこか憂いを帯びた表情で、リッケは窓の外にいる不死鳥達を見つめる。
「復活した不死鳥が大きくなるには時間がかかる。エルフのあたしから見ても長い時間が……だから、それまでみんなを守りたくってこの牧場を開いたの」
窓の外のピーちゃんは、子供に身体を撫でられてくすぐったそうに身をよじっていた。




