ep.8『妙薬』④
「わぁ……すごく綺麗ですね……」
ラピアの素朴な感想には、二人も同感であった。
当然のことながら、炎そのものは三人とも何度も見たことがある。
しかし、不死鳥から流れ出てくる炎には普通の炎には感じられない神々しさがあった。
太陽の照りつける真昼だというのに、その一帯だけが夜空に輝く恒星のように明るく見えた。
一つ表面的な理由をあげれば、煌々と燃えるその炎からは煙があがっていないというのがあるだろう。
何かを高熱で燃やして発せられたものではなく、炎という存在そのものが最も純粋な姿でそこにあるような印象だった。
不思議なのは、不死鳥の体表には炎の燃えさかる部分と、一般的な鳥のように羽毛に包まれた部分が同居していたことだ。
何故羽毛の部分が燃えることがないのかヴォルガー達にはわからなかったが、その美しさの前には些細に思えた。
そして、その羽毛の部分を撫でている一人の少女がいた。
ヴォルガー達が少女の存在に気づいたタイミングで、彼女もこちらを振り向いた。
「……あっ! 貴方、盤古の弟子のヴォルガー・フィルヴォルグね!?」
小柄な体躯で駆け寄ってくる少女は褐色の肌で、そして――耳が尖っていた。
その特徴に三人が驚いている間に少女はヴォルガーの元にたどり着き、そして握手を求めてきた。
「私はここの牧場主のリッケ。よろしくね!」
「あ、ああ……ヴォルガー・フィルヴォルグだ。貴女の製品には毎日お世話になっている」
こうして近くで見ると、その体型は小柄なラピアよりも更に小さく子供のようだった。
牧場主という地位、ヴォルガーの師匠――開天盤古――の知り合いというプロフィールを思うとなかなかのギャップがある。
ヴォルガーに握手を返されると、リッケは他の二人を見やった。
「貴女は確か、ヒーラーのアスクラピア・パイエルオンね?」
「はい! お見知り置きを!」
「そっちは?」
「あっ、自分は新聞記者のルカっス!! たまたま取材のためお二人に同行してたんスけど、その、つかぬことを伺いますが……」
ルカの目線が自分の耳に向けられていることに気づいて、リッケは察する。
「ああ、これね。あたし、エルフだから。珍しいだろうけどあんまり気にしないで」
「あっ、やっぱり!? いや、失礼ながら、長命種の方は全員新天地に移住していると習っていたものッスから」
「まぁ、確かにみーんな向こうに行っちゃったわね。もう五百年になるかしら……。でも、あたしにはこの子達がいたから」
彼女がそう言ったタイミングで、不死鳥が優雅に飛び、こちらへとやってきた。
傍に降り立った姿を見ると、その体長は巨漢であるヴォルガーよりも遙かに大きく、5mくらいだろうか?
なかなか圧倒されるサイズではあったが、やはりその大きさよりも美しさの方が印象に残るフォルムであった。
「『この子達』ってことは……」
「全部で5羽いるわよ。後で紹介するわね」
リッケは目の前にいる大きな不死鳥を、まず紹介する。
「この子はピーちゃん。ここに住んでる不死鳥の中じゃ、『今は』この子が一番大きいわね。貴方が使っている薬の原材料も、この子の心臓なのよ!」
「おお、そうであったか! ピーちゃん、いつもありがとう!!」
感謝の気持ちを込めてヴォルガーが撫でると、ピーちゃんはくすぐったそうに目を細めて喜んだ。
「あれっ!? 今更ッスけど、心臓って取っちゃって大丈夫なんスか!!?」
「不死鳥は死なないもの、取っても再生するわ。もちろん、痛くないわけじゃないし、再生には時間もかかるし、体力も落ちちゃうけど……」
リッケはピーちゃんを、愛おしげな目で見つめる。
「それでも、ピーちゃんはそれで人を救えるなら……そう思ってあたしに心臓を託してくれるの」
「へー! それは本当にありがたい話ッスね!!」
と、言ったところでルカはふと、先ほど買った不死鳥饅頭と不死鳥煎餅に目をやる。
「あっ! もしかしてこの不死鳥饅頭と不死鳥煎餅に練り込まれた肉もこのピーちゃんから……?」
「ええ! じっくり味わってちょうだい!!」
「な、なんか気が引けるッスね……こうして生きてる姿を見た後に食べるのは……」
「捨てたら許さないけど?」
「ひゃっ、滅相もないッス!! 美味しく食べさせていただくッス!!」




