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ep.7『豊満』⑨

 衝撃にのけぞるD・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴン

 飛翔し、月を背にしたヴォルガーに見下ろされたこの黒い龍は……骨身に致命的な一撃を受けながらも、その闘志を捨ててはいなかった。


「ぐがぁぁっっ!!!」


 悲鳴とも雄叫びともつかない声をあげるD・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴン……そのたわわな乳房から、紫色の液体が二条、光線のように放たれた!!!


「ッッッ!!」


 やっぱりデカパイからも噴出するのか……!! と驚くヴォルガーへ矢の如く襲いかかる紫色の毒液!!

 そもそもが苦し紛れに放たれた攻撃、二本のうち一本は明後日の方向へと突き進んでいるが、一本は的確にヴォルガーを狙撃していた!!

 ラピアの解毒を受けた以上、最早D・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンの毒は通用しない。

 そのはずだが、これを受けてはならないと、闘士の勘がヴォルガーに告げていた!!


「ふんッッッ!!!」


 ヴォルガーは毒液が自分を射る直前、横からの手刀による風圧でそれを散らした!!

 ヴォルガーを襲った毒液が紫色の霧と化した一方で、明後日の方向へと飛んでいた毒液はそのまま矢のように天へと突き進み……とうとう、月を隠す雲を散らした。

 デカパイから放たれた毒液の本質は、いわば『ウォーターカッター』。

 天まで届き雲を穿つその威力……誠に恐ろしい水圧、いや、乳圧であった。

 起死回生の一撃を凌がれたD・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンは、徐々にその浮力を失っていく。

 体勢を立て直し、反撃しようという維持だけがこの黒い龍を宙へと留めていた。

しかし、いよいよ龍を地上に落とさんと、ヴォルガーがその喉元めがけて降ってくる。

 自由落下でD・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンに辿り着いたヴォルガーは、矢のような手刀を勢いのままに突き立てた。


祷剋刺突とうかつしとつッッッ!!!!」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!」


 剛さ鋭さを同居させたその一撃はD・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンの喉を突き破り、衝撃は首の向こう側まで貫通した。

 最早、デカパイによる衝撃吸収も通じないこの技に、D・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンは事切れ、地上へと落ちた。

 ヴォルガーは毒と血にまみれた腕をその体から抜くと、大地へと降りてその亡骸へ静かに合掌した。

 活力と張りを失ったD・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンの乳房は、大地の重力に引かれ、悲しげに垂れていた……。


「それにしても……土着の神様の祠が魔族に乗っ取られていたなんて」


 祠が光を放ち、D・D・Dダーク・デカパイ・ドラゴンが姿を現す……その光景を思い返しながら、ラピアは改めて驚きを口にした。


「ともかく、デカパイ村の人達に真相を伝えよう」

「そうですね」


 二人がデカパイ山を後にしようとした、その時であった。

 祠が、再び光り輝いた。

 驚きとともに二人が振り返ると、そこには――白く輝く龍の姿があった。

 流れる河のように長い身体と、そして大きな乳房を携えた白い龍が。


「感謝します、旅の人よ……」


 その神々しい姿に正体を確信した二人は、反射的にひざまづいて敬意を示した。


豊乳神龍(デカパイドラゴン)様……!!」

「左様、私が真の豊乳神龍(デカパイドラゴン)貴方方あなたがたのおかげで邪悪な封印から逃れ、再びこの地に姿を現すことが叶いました」

「は、はい!」


 あまりのことに、ラピアは顔も上げることができず、ただ返事をするのみであった。


「どうかお顔を上げてください。私から貴方方に伝えられることは、そう多くはありません」


 二人は、豊乳神龍(デカパイドラゴン)の言葉に応じて顔を上げ、その姿を真っ直ぐに見る。


「この祠を乗っ取っていたのは、万橡の泉を占拠したものと同じ魔術のようです。異界から来た者達の技術力は、それほどまでに確かなもののようですが……それでも、神々(われわれ)がこの戦いに介入することはできません。それがかつて、人類(あなたたち)と交わした盟約……」

「はい……心得ております」

神々(われわれ)が離れたときからこの土地は……この世界は人類(あなたたち)のものです。神々(われわれ)は、影から力を送ることしかできませんが……どうか、異界の者達に奪われることのないように……」

「……必ずや」


 短い言葉だけを伝えて、再び光のように消えていく豊乳神龍(デカパイドラゴン)。その去り際に、もう一つヴォルガー達に伝えたいことがあった。


「それともう一つ……明日でよいので、今度は女性のデカパイ巫女を連れてきてください……」

「あ……やっぱり(オレ)じゃダメだったのか……」

「はい……私がこの一帯の土地に恵みを与えることができるのは、乳房の大きな女性のみから得られる『デカパイエナジー』のおかげなのです」

「なんだその馬鹿みたいなエナジーは」


 ヴォルガーは喉まで出かけた暴言を必死に堪えた。

 そのエナジーがこの土地を守ってきたのは紛れもない事実だし、いくらなんでも神様相手にそんな口を聞くことはできない……そう自分を強く戒めた。


***


 納涼!!デカパイ祭!!!の夜は更けていく。

 ヴォルガーとラピアがことの真相を伝えると村人達は大いに沸き立ち、そして明日、改めてデカパイ巫女を祠に向かわせることを決めた。

 祭もつつがなく進んでいく中、村長とデカパイ巫女のフラノ、そしてその父親は素朴な感想を呟く。


「しかし……デカパイ巫女が女性でなくてはならないとは、誠に驚きですな」

「まさか同じデカパイでも男女で違いがあるなんて、思いもしなかったわ……」

「まったく、神様の事情ってやつぁ俺みてぇな凡人にゃ計り知れねぇもんがあるなぁ」

「……」


 ヴォルガーは何も言わなかった。


「ヴォルガーくんヴォルガーくん!」


 ヴォルガーの大きな手を、小さな白い手が引っ張る。

 見てみれば、艶やかな浴衣に身を包んだラピアであった。


「せっかくだからこの服も借りちゃいました! どうです、似合いますか?」

「ん? ああ、似合ってるんじゃないか?」

(照れてるんですね……ふふっ、可愛い)


 ドンドンドン ドドンがドン


 デカパイ櫓の上から、デカパイ太鼓の音が高らかに響く。


「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」」


 納涼!!デカパイ祭!!!最後のイベントを告げるその音に、客達は雄叫びをあげて沸き上がった。


「デカパイ音頭が始まりますよ!! ほら、行きましょう!!!」

「あ、ああ、そうだな」


 デカパイ櫓を囲んで舞う一万人を超えた観衆の群に向けて、ラピアはヴォルガーを引っ張った。



≪続く≫

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