ep.7『豊満』②
「お、落ち着いてください!! 大丈夫ですから!!」
ラピアは宥めるが、村長は呼吸を整える間もなく話を続ける。
「何が悪かったのかわかりませんが、私の村で奉られている神がお怒りになられて……あぁ、どうしてこんなことに……」
「えっ、神様が!?」
思いも寄らぬ相談に、修道女であるラピアは敏感に反応した。
ヴォルガーは村長の肩に手を置いて頷く。
「わかった、貴方の村に行かせてもらおう。詳しいことは道中で教えてくれ」
「あ……ありがとうございます! 表にリラ車を停めてありますので、そちらに!!」
村長は目に涙を滲ませながらヴォルガーに頭を下げた。
ヴォルガーとラピアは注文をキャンセルしてウェイターに謝り、代金をテーブルに置くと、村長に続いて飛び出すように店を後にした。
***
「ヴォルガーさんが目を覚ましたと聞いたときはこれで村が救われると……救うにはこれしかないと、そう思いました」
幾分か落ち着いた様子の村長は、リラ車の中で二人に事情を話し始めた。
舗装の足りない森の中でもリラ車の乗り心地は安定していたが、それを楽しむ余裕はないな……とヴォルガーは心密かに思っていた。
「少し気になったんだが、俺が目を覚ます前に他の腕のいい冒険者に頼むことはできなかったのだろうか?」
村長が立派なリラ車を所有しているような村だ。経済状況が原因で依頼料を払えないことはないだろうとヴォルガーは推測していた。
「いえ……誠に勝手なことですが、この件を頼めるのはヴォルガーさんしかいないと、そう考えてのことです」
「そうか……わかった」
なにせ、神が直接現れて言葉を残すような異常事態だ。予算があっても適任者が他に見つからなかったのだと、ヴォルガーは得心した。
「それで、どういった状況なんでしょうか? 神様が姿を現すだなんて……」
聞いたことも無いような異常事態。不安のこもったラピアの言葉を皮切りに、村長は説明を始めた。
「今日は我々の村で毎年開かれる祭の日なのですが……この祭では毎年、村から選ばれた巫女を山の神に生け贄として捧げる習わしになっているのです」
「いっ、生け贄だと!?」
不穏当な単語に反応し、思わず立ち上がりそうになったヴォルガーをラピアが宥める。
「落ち着いてくださいヴォルガーくん!! 多分、大丈夫ですから!!」
「あぁ、いえ、誤解を招くようなことを言ってしまい……生け贄といっても形式的なもので、実際には祠に祈りを捧げるだけなのです」
「そ、そうか……すまない、勘違いをした」
座り直したヴォルガーに、ラピアが横から解説を挟んだ。
「お祭りで神様に祈りを捧げる人を『生け贄』って呼ぶのはよくあることなんですよ。人間を本当の生け贄にした魔術も、昔は使われることがあったらしくて……それが語り継がれていくうちに信仰と混ざって『神様に生け贄を捧げる儀式があった』みたいな伝承に変化したらしいんです。修道院で習いました」
「なるほど……そういうことか」
村長はラピアの話に頷き、話を続ける。
「はい、ラピアさんのおっしゃる通り、昔は本当に人を生け贄にしていたという伝承が私の村にも残っています。とはいえ、それはあくまでただの伝承だったのですが……昨日の夜のことです。祭の準備をする我々の前に神様が現れ『生け贄の命を神の国に連れて帰るので、妨げのないように』と告げていったのです」
「神の国に……?」
ラピアとしては、村長の語る表現に何か引っかかるところがあった。
「本当の生け贄にする、ということか……。しかしラピアさん、神様が人前に姿を現すなんてそんなにあるものなのか?」
「まさか! 神と人の時代が終わって神様が隠れてから、もう8547年ですよ? ゼロとは言いませんが……」
「ええ、おっしゃる通りで、私も聞いたことがありません」
ヴォルガーも子供の頃には教会に通う習慣があったし、一般市民として神を――信仰する主神エシオデウスだけではなく、この世界を作った多くの神を――敬う気持ちは当然持ち合わせていた。
しかし、信仰のために人命を犠牲にするつもりは毛頭無かった。もしも神が人を弄ぶというのであれば、拳を叩きつける覚悟はできていた。
そして、エシオ教の修道女として育ったラピアであっても、その決意はヴォルガーと変わらない。
***
村に到着し、ヴォルガーとラピアはリラ車を降りて村長から案内を受ける。
「お待たせしました。こちらが『デカパイ村』でございます」
「……んっ?」




