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ep.6『後悔』後半

***


 歴史を紐解いても、勇者の剣――暴食の霊剣グレイヴ・オブ・グラトニーに選ばれた勇者パーティのメンバーは若い天才がほとんどであった。

 例外はたったの二人。

 ヴォルガーの師匠だった伝説の格闘家・開天盤古と、その研究パートナーだったエルフのナディだけだ。

 数千年若さを保ち続けている長命種を例外中の例外と考えれば、50過ぎでなお魔族と戦うだけの力を持っていたのは開天盤古ただ一人というのが正確だ。

 その理由を、ギデオンはこの戦いで痛いほど実感した。

 幹部級の魔族と戦えば、ベテラン冒険者は事実上の消耗品になってしまう。

 それは当人達に申し訳ない、というだけでは済まない。

 SSS級の冒険者であるジュロン達の戦力を失うことは、人類全体にとっての痛手であった。


 神殿を後にし、ジュロン達と別れ、宿屋の庭で夜風に当たりながら、ギデオンとリアは話し合った。


「わかりきったことだけど……やっぱり強かったな、ヴォルガーもラピアさんも」

「ああ……。それに不思議と、出会って間もないのに息もぴったりじゃったな。妾達は」


 もしも二人がいればこの戦いはどう運べていたか?

 まず、ヴォルガーがいれば敵の放つ無数の光線をヴォルガー一人に集中させることができたはずだ。

 ヴォルガーが免許皆伝を認められた開天流には、相手の警戒心を高めて攻撃を集中させる技術がある。

 ギデオンも見よう見まねで使ってみたが、当然ヴォルガーのように上手くはできなかった。

 ヴォルガーの体術を持ってしてもナクシェムの攻撃全てを回避することは不可能に違いないが、彼には鋼の肉体もある。ある程度のダメージを負っても、回復魔法無しでタンク役を続けられたはずだ。

 そして、ラピアがいれば自らのパーツをバラバラに飛ばすナクシェムの能力もより早く見極めていたに違いない。

 熟練の技術を持つヤツギにはラピアを上回る面もあったが、こと魔力・生命力の探知においてはラピアの持つ天賦の才に軍配が上がった。


 敵の攻撃を引きつけ、その隙に弱点を見つけ出し、そこを集中して叩く。

 ヴォルガーとラピアがいれば、この流れはもっと簡単に作り出せたはずだ。


「僕達の選択肢は……間違っていたのだろうか……」

「どうなん……じゃろうな……」


 少なくとも、あの時のギデオンとリアは最善と思える決断を下した。

 ヴォルガーとラピアがいなくなれば戦力的に大打撃を受けることも当然覚悟のうえだった。

 それは間違いないが、実際に二人がいなくなった弊害を味わった後ではやはり正しかったと断言はできなかった。


「この機会に僕達は、過去の決断にもう一度向き合うべきなのかもしれない」

「そうじゃな……魔王を倒すためにもきっとそれが必要じゃな」

「今思い返してみれば、ヴォルガーの喘ぎ声だって大したことは」


『お゛ぉぉっっっっ♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛お゛ぉぉっっっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡♡』


「……」

「……」


 思い出しただけで頭が痛くなってきた。


「いや……しかし、あの喘ぎ声には僕達の寝不足や周囲への迷惑といった弊害もあったが、寝不足の方に関してはきっとカバーできるはずだ」

「そ、そうじゃな。今も不眠症は完全には治っておらんが、薬や魔法である程度は補えておるしな」

「ああ……大体、一緒に旅して寝泊まりするにしても、部屋を離したりすれば全然違うはずだ」


 二人はもう一度思い出す。

 四人で同じ宿屋に泊まるとなった場合、まずヴォルガーが端っこだった。その隣の部屋にはラピアが泊まりたがった。

 そして、その隣にギデオンが泊まって、リアは一番ヴォルガーから遠い部屋を選んだ。

 今までもヴォルガーからは極力離れて寝泊まりしていたわけだ。

 そうして離れた部屋を選んだ状態で聞こえてくるヴォルガーの喘ぎ声は


『お゛ぉぉっっっっ♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛お゛ぉぉっっっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ んお゛っっ♡♡♡♡♡』


「……」

「……」


 二人は揃って夜空を見上げた。

 静寂に乾いた空には、眩しいほどに黄金色の月が輝いていた。


「……今日はもう、寝るか」

「……ああ、そうじゃな」


 二人はそれぞれの部屋に戻り、疲れた体をベッドに横たえた。

 ヴォルガーの喘ぎ声に悩まされて以来の不眠症は未だに完治していなかったが、それでも七沌将との戦いで疲れた体を出来る限り癒すことは勇者達にとって責務といってよかった。


***


「んっ……う~ん……」


 七沌将との戦いの翌日、緊急事態が無い限りはゆっくり体を休めると決めていた。

 だからこの日のギデオンは、体が自然と起きるまではひたすらに睡眠を取っていた。

 そして体を起こした瞬間、猛烈な違和感に襲われた。


 ……体が、軽い。


 自分は不眠症気味で、寝付くのは遅く起きるのは早い……そんな体質で疲れはなかなか取れないはずなのに。

 ギデオンは窓を覆う厚いカーテンを開けてみる。

 そこには青い……覚めるような青さの空が広がっていた。

 黄昏を見送ったばかりの白んだ空ではない。太陽が真上に輝いていなければ広がることのない青空だ。

 続いて時計を見る。奇妙なことにその針は、昨夜床についた時とほとんど変わらぬ位置を指していた。

 それはつまり――12時間ほど眠っていた、ということだった。


「うぉっ!! もうこんな時間なのじゃっ!!?」


 隣の部屋から驚愕するリアの声が聞こえてくる。

 ギデオンはたまらず部屋を飛び出した。

 すると、同じ気持ちになったリアが隣の部屋から出てきたところであった。


「ギデオン!!」「リア!!」


 二人は歓喜に突き動かされるかのように熱い抱擁を交わした!!!


「ようやく眠れたんだな……僕達は!!」

「ああ……やっぱり睡眠は滅茶苦茶大事じゃった!!!」


 騒音に邪魔されず熟睡できる人生って最高!!!VICTORY!!!!!

 結局のところクソデカい喘ぎ声を道連れに旅をするなんて土台無理な話であった!!!!!

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