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ep.5 『公転』②

 新聞の一面にデカデカと載せられた記事。

 見出しの下には、ヴォルガーの身体にそっと優しく触れるラピアの写真が載せられていた。

 治療中の光景だ。

 知らない人が見れば勘違いするに違いないものだ。


「う、嘘は書かないという約束だったはずが……」

「はい! この記事には真実しか書かれてませんよ!!」


 ヴォルガーは軽い目眩を覚えながらも、新聞をしっかりと掴んで記事の本文に目を通した。

 見出しはキャッチーにしているだけで、本文を読めば誤解が解ける……そんな一縷(いちる)の望みに賭けながら。


『アスホ村で毎年開催されている「世紀の対ケツ!!HYPER尻相撲大会!!」は、無形文化財にも指定されている国内有数のイベントとして有名だが、今年は例年になく観客を賑わせるサプライズがあった。

 先日、勇者パーティから脱退したヴォルガー・フィルヴォルグ氏(21)とアスクラピア・パイエルオン氏(24)が、会場にその姿を現したのだ。

 脱退の理由が不明とあって、世間では心配する声も大きかったのだが、この日の彼らは健在そのもの。特にフィルヴォルグ氏は自ら大会に参加。はちきれんばかりに逞しい肉体(からだ)を青い法被で包み、白いふんどしで力強く締め上げたそのケツをもって襲い来る丸太を強かに弾き返す! 丸太は縄から解き放たれ、天高く舞い上がり、「測定不能」という前代未聞の大記録を叩き出した。

 しかし、この日最も記者を驚かせたのは、観客席で彼の活躍を見守っていたパイエルオン氏の「見てください♡ あそこにいる人は私の恋人なんですよ♡」という大胆な告白であった。

 世間ではかねてより噂されていた二人の関係であったが、とうとう本人の口から明言された。パイエルオン氏によれば、出会ったその日から交際が始まったというのだからなんとも驚きである。

 氏は記者に対して「私達の関係を明かしたらギデオンさんとリアちゃんに迷惑をかけるのではないか、と思ったので四人で旅をしていた頃は公表できませんでした。ヴォルガーくんは照れ屋さんなので今でも皆さんの前で愛を口にするのは恥ずかしがると思いますが、年上としてしっかりリードしていきたいです」と、その胸中を明かしてくれた。

 そしてフィルヴォルグ氏は、彼女からの愛に応えるように見事優勝。大会の後、記者の質問に対しては「恋人同士というのは彼女が言っているだけだ」と関係を否定。しかし、パイエルオン氏の証言通りというべきか、記者にはその言葉が彼の照れ隠しに思えてならなかった。

 末筆ながら、彼らのアスに幸多からんことを心から願いたい』


「なんということだ!! こんな嘘を……嘘を……?」


 引っかかった何かを解きほぐすように、ヴォルガーは記事の文面を頭の中で咀嚼(そしゃく)する。

 そしてその事実に気づいたとき、脳天を殴られたような衝撃を受けてしまった。


(この記事……嘘『は』ついてない……!!)


 そう、記事のどこにも二人の関係が確定情報であるとは書いていないのだ。

 見出しは『熱愛発覚か!?』とあくまで推定に留めているし、ラピアが語る情報も『彼女はそう語った』という点では紛れもない事実である。

 ヴォルガーの態度が照れ隠しに見えたことも、記事を書いたルカの視点では事実に違いない。

 この記事は記者であるルカが得た情報を正確に記しており、これを読んで二人の関係を恋人同士だと思うのはあくまでも読者の解釈に過ぎないのである。


「こんな……こんなジャーナリズムが許されていいのか……!!」


 ヴォルガーの脳裏に「嘘は書かないッス!!!」と笑うルカの姿が自然と浮かんできた。


「大体……俺が魔王軍の刺客を倒したことは書いてくれないのか……」

「あ、それももちろん書いてますよ!」


 ラピアに言われて、紙面の隅に目をやる。

 確かに、小さく囲まれた記事には確かに戦いの記録が書かれていた。


『大会では、魔王軍の刺客が丸太の中から飛び出してきて観客を驚かせる一幕もあった。

 アスクラピア氏からの愛に満ちた声援を受け、フィルヴォルグ氏はこれを撃破。刺客を押し潰したヒップドロップは、彼の必殺技として人々の記憶に刻まれることだろう』


 ヴォルガーの逞しいケツが病嵐を押しつぶすその瞬間が、押しつぶす力強いケツが、見事に切り取られて記事に添えられていた。


「肝心の戦いが……こんなに小さく……!!」


 これでは読んだ人に勇気を与えるどころではない。

 楽しいゴシップと激しいヒップドロップしか届けられない。

 というか、本格的に自分の必殺技がヒップドロップだと勘違いされてしまう……!!


「私達の関係が世界中に知られちゃいましたね!! ふふふっ!!」

「なんということだ……」


 ヴォルガーが落胆とともに新聞紙をテーブルにおいた、その瞬間だった。


 ゴォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!


 二人の愛が記された紙面から、突如として青い炎がけたたましく燃え上がる!!!


「うお゛ぉぉっっ!!?? 何事だこれは!?!?」

「しょっ、消火っ!! 消火っ!!」

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