ep.5 『公転』①
「ふぅ……」
森を超えて町に辿り着き、ヴォルガーはベッドに腰を下ろして一息つく。
常人よりも遙かに身体の大きなヴォルガーは、なるべく自分の体躯でも収まるような大きなベッドを求めた。
必然的に高級な宿屋を優先して選ぶことになるが、SSS級の格闘家である彼が金銭で困ることはなかった。
よくあるのは、そんなベッドを備えた宿屋がそもそも存在しない、というパターンだ。
幸い、この町には彼が落ち着けるようなベッドがあった。
前の村での祭が尾を引いて、ゆっくり疲れを取りたいという気持ちが彼の中にあったから、尚更幸運だった。
ヴォルガーはベッドに体重を預けながら、世紀の対ケツ!!HYPER尻相撲大会!!で優勝した後のやり取りを思い出す。
取材のために来ていた、新聞記者であるルカとの会話だ。
***
「いやー、おかげでいい記事が書けそうッス!!」
「そ、そうか……それは何よりだ……」
意気揚々なルカを前に、ヴォルガーは勇者ギデオンの言葉を思い出していた。
『インタビュー? どんどん受ければいいじゃないか。……この世界には、魔王軍の侵攻に怯えている人達が大勢いる。僕達の戦いを知ってもらうことが、そういう人達の「勇気」に繋がるはずだ』
(――今回の俺の戦いも、人々の勇気に……勇気に……いや、尻相撲大会で優勝した姿が勇気に????)
ヴォルガーの心に疑問符が溢れ出した。
しかし、少し考えて気を取り直した。
ヴォルガーは確かに、世紀の対ケツ!!HYPER尻相撲大会!!で優勝した。
それはそれとして、大会に闖入してきた魔王軍の手先も撃破したのだ。
そちらを中心に書いてもらえるなら、何も問題は無いはずだ。
尻相撲で撃破したのは置いといて……真面目に戦って屠ったのだ。
そう思い直すと、ヴォルガーは自分の行動に納得することができた。
一万人以上の観客を魔王軍の魔の手から守り、平穏に祭を終わらせることができたのだ……民衆を勇気づけるには十分な活躍じゃないか、きっと読んだ人達も喜んでくれるに違いない、と。
「みんなが喜ぶようないい記事にしてくれ」
「もちろんッスよ!! ヴォルガーさんとラピアさんが恋人同士だったなんて大スクープッス!!」
「ん゛ん゛っっっ」
全く予想外な角度からの攻撃に、ヴォルガーはもろにダメージを食らった。
「ちがっ、違う!! 確かにラピアさんは恋人同士だと言っていたが、あれは彼女が勝手にああ言ってるだけなんだ!!」
「またまたぁ~、照れなくてもいいじゃないッスか!!」
「いいか、これは本当なんだ!! 本当に彼女が勝手に言っているだけなんだ!! くれぐれも『二人は恋人同士』なんて書かないでくれ!! な!!」
「いやいやそんな――」
「く! れ! ぐ! れ! も!」
「わっ、わかったッス……信じるッスよ……」
ヴォルガーの迫力に押されて、ルカはとうとう要求を呑んだ。
自分より遙かにデカい図体の男からこうも迫られては、流石に首を縦に振らざるを得なかった。
「うむ……わかってくれて助かった」
「ま、まぁうちも嘘を書くわけにはいかないッスから!」
「そうか、それはそうだな!」
「そうッスよ! アハハハハ!!」
「ハハハハハ!!!!」
「ハハ……」
「……」
「……」
「……」
「……でも、二人が恋人同士と書いたらバカ売れ間違いなしッス」
「嘘は書かないはずだな!!?」
「誓って!! 誓って嘘は書かないッス!!!」
***
(あの後ルカと別れて……そろそろ、村での出来事が記事になるころではないだろうか)
誓って嘘は書かない、という言葉を信じよう。
ヴォルガーが改めてそう考えていた、その時だった。
「ヴォルガーくんヴォルガーくん!!! この記事を見てください!!!」
勢いよくドアを開けながら、やけに上機嫌なラピアが飛び込んできた。
この時点で、ヴォルガーの胸中は嫌な予感で満たされた。
そして……やはりというべきか、記事の見出しを見せられた瞬間、その予感が的中していたことをヴォルガーは知ることになった。
『ヴォルガーとラピア 勇者から離れた二人に熱愛発覚か!?』
「話が違うじゃないかぁ!!!」
ヴォルガーの叫びは心から溢れた。




