ep.4 『臀部』⑦
「りゃぁッ!!!」
ヴォルガーがその攻撃をいなすと、反撃が飛んでくるより先に左手のクナイで襲う。
破壊された部位を除けば、やはりその速さは一級品であった。
病嵐がクナイで突き、ヴォルガーがそれをいなす。
この応酬は常人には視覚できないほどの速さで、一秒のうちに何往復と繰り返された。
速さに特化させた猛攻の中、ヴォルガーは反撃の隙を伺う。
ダメージこそ一切無いが、攻防のリズムは完全に病嵐に作られていた。
どこかでこのリズムを崩し、一気に畳みかける……そうヴォルガーは考えていた。
が、リズムは突然、病嵐によって崩された。
その右手からは、いつの間にかクナイが消えていた。
ヴォルガーが変化に気づいたときには……その背中に、消えたクナイが深々と突き刺さっていた。
「ぐ……っ!!」
正面から襲ってきていたはずのクナイが、背後から。
連撃に紛れて、クナイだけを瞬間移動で背中に突き刺す……起死回生を狙った一手は確実に通った。
通ったが……しかし
「フンッッッッ!!!」
ヴォルガーが力を込めると、背中に突き刺さったクナイは筋肉の盛り上がりとともに、吹き飛ばされるように
カァンッッ!!!
と金属音を立て、石畳に叩きつけられた。
「なっ……!!!」
目論見通りに決めた起死回生の一手も、ヴォルガーをしとめるには届かなかった。
その刃は、ヴォルガーの分厚い背筋だけを突き刺し、内臓まで傷つけるには至らなかった。
突きの連撃に紛れて放ったクナイには、病嵐の腕の力しか乗っていない。
病嵐も魔王軍幹部に直属の部下として選ばれた精鋭で、その膂力は生半ではない。
しかし、それでも、ヴォルガーの鋼のような肉体を貫くには、あまりにも力不足であった。
そして、病嵐がこの絶望から気を取り直す間もなく……
「らぁぁッッッ!!!」
ヴォルガーの拳が、何撃も絶え間なく病嵐に叩き込まれる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」
「らぁッッッッ!!!」
そして、逃げることは許さないと言わんばかりに、その身体は舞台へと強かに叩きつけられる。
病嵐の身体がめりこんだ衝撃で舞台にはクレーターが発生する。
『ダウーーーーーーーン!!!! ヴォルガーの拳が魔族を完全に捕らえた!!!!』
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!」」」」」
勝利を確信した観客達は歓声をあげる。
熱狂に包まれた空気の中、戦いを終えた戦士達は静かに言葉を交わす。
「……命を取らなければ、何か情報でも渡すと思ったか?」
「……」
「キルデイル様を煩わせるつもりは無い。ひと思いに殺せ」
「ああ……」
憎き侵略者といえど、必要以上に傷つけるつもりはない。
とどめの一撃のため、ヴォルガーは構える。
『魔族は最早虫の息!! 決まるか、必殺のヒップドロップ!!!』
「えっ」
「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!! ヒップドロップ!!! ヒップドロップ!!!」」」」」
「いや、待て……そんな技は使ったことがない!!」
熱狂した観客達に、ヴォルガーの言葉は届かない。
「フフ……新技というわけか。それを引き出せたなら、最後の仕事として申し分なかろう」
「違っ、そういう話ではなく」
「「「「「ヒップドロップ!!! ヒップドロップ!!! ヒップドロップ!!!」」」」」
「やれ……『ヒップドロップ』とやらを……どんな技か見届けてやる!!」
「……う、うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ヴォルガーの身体は天高く舞い上がる。
そして空中で一回転した後、筋骨隆々の分厚いケツを真下に向け、重力に任せて病嵐めがけて一直線に落下していく!!!
「……なるほど、やはり『尻』なのだな」
超重量級のケツ隕石は病嵐の土手っ腹に落下し、骨も内臓も全てを潰すような衝撃が襲いかかる!!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
病嵐は噴水の如き血を吐き出して絶命した!!!
『ケッ着ゥゥゥゥゥゥゥ!!! 最強無敵の必殺ヒップドロップ!!!!』
「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!! ヴォルガー!!! ヴォルガー!!! ヴォルガー!!!」」」」」
魔族から人々を救った英雄に、観客席は惜しみない賞賛を与える。
熱に浮かされた空気の中、ヴォルガーは静かに立ち上がり、病嵐の亡骸にそっと手を合わせる。
(この魔族……俺の必殺技が尻による圧迫だと勘違いしたまま死んだんだな……)
虚しい風がヴォルガーの胸中を吹き抜けていった。




