ep.4 『臀部』⑥
ヴォルガーの困惑を余所に、ふんどし切断説で会場は大盛り上がり!!
『なんと!!! 魔王軍の忍者、病嵐の狙いはふんどしのケッ壊による公然猥褻だったのかぁ!!!』
「ふんどしが切られる!!!」「そうか!! 不浄負け狙いか!!!」「ケツがまろび出てくるわ!!!」
しかし、会場の盛り上がりに冷や水をかけるように病嵐は高笑い!!!
「ふはははははは!!!! 愚かな人間どもめ!!! ふんどしを斬られたら困るという態度を取れば、当然拙者はふんどしを狙う。しかしふんどしを斬ったが最後、白い布の向こうに待ち受けた恐るべき秘密兵器が拙者を襲う……そういう作戦なのだろう!? その手には乗らん!!!」
「ちっ、違う!! あれはそんな真面目に考えなくていい!!!」
「そうやって否定するところがますます怪しい!!!」
「いや、そういうのではなく……ええいもう知らん!!」
ふんどし問答の間にも、病嵐の嵐のような斬撃はヴォルガーを襲い続けている。
この際、病嵐の誤解はどうでもいい。
むしろ、余計な勘ぐりで思考に隙ができたことを好機と捉えるべきだ。
ヴォルガーは自らの記憶を辿る。
病嵐の瞬間移動……どこかで見たことがあると思ったが、これはリアの得意としていた魔法だ。
魔法大国クレイオスの王女にして、勇者パーティの魔法使い・リア。
空間を操る魔法を得意としていた彼女も、瞬間移動により敵の視線をかいくぐっての襲撃が十八番であった。
……ヴォルガーの元から去っていく時も、勇者ギデオンとともに瞬間移動で消えていった。
(いかんいかん!! 戦いのただ中でネガティブな気持ちにひたってしまうところだった!!)
辛い思い出を胸にしまって、ヴォルガーは敵の攻略に思考を戻す。
以前にリアと訓練した、瞬間移動の対策……
「ハァッ!!!」
ヴォルガーは目をつぶると左脚を軸に回転し、その強靱な右足で石畳を削り取った。
蹴りによる風圧で巻き上げられた砂と小石は、空中でぶつかりあってバチバチという音を立てる。
(苦し紛れの目潰しか!? 愚かな!!!)
巻き上げられた土煙にも構わず、病嵐はヴォルガーへ襲いかかる。
闇夜を得意とする忍者が、多少の目潰しで怯むはずもなかった。
病嵐の刃は、一切変わらぬ速度をもってヴォルガーに接近する。
位置を悟られぬうちに、僅かな傷をつける……変わらずその作戦で追いつめるために。
しかし……その刃は、ヴォルガーの身体に届かなかった。
「……!!?」
腕を斬ろうとする病嵐の刃をくぐり抜け、そして病嵐が状況を理解するよりも遙かに素早く、ヴォルガーの蹴撃が忍びの右脚を襲った。
「ハァッ!!!」
ベギィッッッッ!!!
「があああああッッッッッッッ!!!!」
一撃で骨を粉砕する足技に、病嵐は苦痛の声をあげる。
そして瞬間移動で距離を取り、折れた右脚を引きずりながらヴォルガーに向き直る。
(そうか、先程の土煙、あれは目潰しなどではなく、拙者の位置を……)
勇者パーティは以前、リアの指導の元で瞬間移動を対策するための訓練をしたことがあった。
ギデオンやラピアは魔力を操作し瞬間移動そのものを封じる方向の対策を編み出したが、ヴォルガーは相手の動きを知覚して反撃する最もシンプルな対策を取った。背後に瞬間移動されても、攻撃の際に発生する音を知覚すればよい。
そして、それが一番確実であった。
(この事実はリアを大層悔しがらせた。魔法を使わずに対策されたというのが、彼女のプライドに触ったらしい)
しかし、一切の音も無く忍び寄る病嵐に対しては接触するまで知覚することが不可能だった。
そこでヴォルガーは、情報を増やすことにした。
削られ、巻き上げられた砂粒のたてる音――そこに病嵐が瞬間移動すれば、確実に変化があった。
病嵐はようやく理解した。
しかし、やはり遅かった。
ヴォルガーの一撃で病嵐の脚はへし折られてしまった。
「くっ……!!」
病嵐は再び、瞬間移動でヴォルガーに襲いかかる。
砂煙は霧散し、音のカーテンは既に存在しない。
しかし、その攻撃はすっ……とヴォルガーに回避される。
病嵐の攻撃は完全に勢いを失っていた。
瞬間移動は魔法によるものでも、襲いかかる速さは純粋な体術であった。
脚を破壊され踏み込みが弱くなれば、速さも失われるのが道理だ。
そして、病嵐の土手っ腹にヴォルガーの拳が叩き込まれる。
「らぁっ!!!」
「ぐぅっっ!!!」
病嵐による攻撃がかわされ、そしてヴォルガーの拳が直撃するまでの応酬は瞬き一つ分にも満たないほど瞬間的に起こった。
連続して二撃目を叩き込もうというその刹那、病嵐は瞬間移動によってそれを回避する。
病嵐は、純粋にヴォルガーから距離を取るために瞬間移動を使った。
「このまま終わるわけにはいかん!! キルデイル様のため、指の一本でも道連れにしてくれる!!!」
それは、自らの敗北を悟ったかのような物言いであった。
「ハァッ!!!」
病嵐は両手にクナイを持ち、ヴォルガーの正面へ、飛びかかるように瞬間移動した。
そしてその勢いのまま、右手のクナイでヴォルガーを突く。




