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ep.4 『臀部』②

 祭のメイン会場を訪れたヴォルガーは、デカデカと掲げられた看板を見上げて唖然とした。

 混乱するヴォルガーをよそに、ラピアとルカは楽しそうにはしゃいでいる。


「『世紀の対ケツ!! 第108回 HYPER尻相撲フェスティバル!!!』ですよ!!」

「いや、それはわかるんだが……」

「ヴォルガーさんが『世紀の対ケツ!! 第108回 HYPER尻相撲フェスティバル!!!』に参加するなんて……!! こりゃ印刷所にも連絡いれなきゃッスよ!!」

「輪転機回しましょう!!」


 味方のはずの二人は、ヴォルガーの戸惑いを全く理解してくれない。

 状況への理解が追いつかないまま、この村の村長が現れた。


「いやぁ、まさかあのヴォルガーさんが『世紀の対ケツ!! 第108回 HYPER尻相撲フェスティバル!!!』に参加してくださるとは……村長として嬉しい限りですぞ」

「う、うむ……この祭に略称はないのか?」

「……??? とにかく、こちらで着替えてくだされ!」

「あ、ああ」


 ヴォルガーは肝心なことを理解できないままだが、言われるがままに村長の後ろをついていった。


***


 着替えを終えたヴォルガーは、上は法被、下はふんどしという出で立ちであった。

 薄い法被の下ではちきれんばかりに主張する胸筋が、白いふんどしに絞められた雄々しく逞しいケツが、照りつける太陽よりも眩しかった。


「きゃーっっ♡♡♡♡♡ SEXYYYYY♡♡♡♡」

「うおーっっっ!! フォトジェニックッス!!」


 ラピアは瞳を輝かせ、ルカは様々な角度から写真を撮りまくる。


「ルカさん焼き増しっ♡♡ あとでその写真私にもくださいっ♡♡♡」


(まさかラピアさん、最初から俺を参加させるつもりでこの村に……?)


 その疑問をストレートにぶつけるのは、なんだか怖いと思った。


「あちらをご覧くだされ。予選会の真っ最中ですぞ」


 村長はメイン会場の中心にある、大きなステージを指さした。

 太く大きな丸太を吊す、用途の不明な装置が目立っていた。

 一人の逞しい男が、歓声を浴びながら入場してくる。


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッッ!!!!!」」」」」


 スタジアムを埋め尽くす一万人超えの観衆が期待とともに声援を送る。

 凄まじい声援に包まれた逞しい男はヴォルガーと同様、法被に白いふんどしという出で立ちだ。

 どのような競技かはわからないが、選手の一人なのだろう。

 逞しい男が丸太に尻をくっつけると、村の若い衆がロープで丸太を引っ張る。

 そして、吊された丸太が振り子のように高々と上げられる。


「まさか……」


 ヴォルガーにも、大会の概要が見えてきた。


「しゃあッッ!!」


 村の若い衆がロープを手放すと、丸太は逞しい男のケツめがけて振り下ろされる!!!

 逞しい男のケツに丸太が襲いかかるのだ!!!

 このままでは丸太がケツに衝突し、逞しい男が吹っ飛ばされる……そのタイミングだった!!!


「しゃぁおらッッッッ!!!」


 逞しい男は丸太へと強かにケツを打ち付ける!!!

 そのケツ圧により、丸太は見事に弾き返された!!!


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」」」」」


 男気と力に溢れた素晴らしいパフォーマンスに会場も大盛り上がり!!!


「これが、HYPER尻相撲の『HYPER』の部分ですな」

「……?」


 村長の言葉を解釈しかねるヴォルガーをよそに、水晶から空中に投影されたスクリーンがただ今の『HYPER』の記録を映し出す。


『1024Hg』!!!!!


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」」」」」


 その凄まじい数値を見て、会場は再び熱狂に包まれる!!!


『1024Hg!! 本日の最高記録だぁぁぁぁ!!!』


 その熱を煽るように、実況が天高く鳴り響く!!!


「『Hg』……? 聞き慣れない単位だ」

「『ヒップグラム』の略称ですじゃ。お尻の力を計る単位ですな」

「お尻専用の!!?」

「この村で独自に開発された単位……いわば特産物ですな」

「他の使い道はあるのか!!?」


 ヴォルガーの疑問は一切解消されることはない。

 次の選手がステージに上がってきたからだ。

 続いて挑戦するのは、先程の逞しい男とは対照的に随分と細い身体をした男だった。

 やはり青い法被に白いふんどしという出で立ちだったが、皮の下部に一切の脂肪が見当たらないような骨々しい体つき。

 ふんどしが今にも脱げ落ちてしまいそうな頼りなさがあった。


「あの選手、随分細い身体だが大丈夫なのか……?」

「心配ご無用」


 細い身体の男は、観衆の声援に応えて堂々とガッツポーズをしてみせる。


「しゃおらぁっっっ!!! やったるらぁぁっっ!!!」


 そこには確かな自信が見え、村長の言うとおり心配はいらないのかもしれない……とヴォルガーも思い始めていた。

 考えてみれば、自分はこの競技のレギュレーションを知らない。肉体が細くとも、丸太を弾き返せるような魔法を使うのかもしれない。

 そう考えるヴォルガーの目の前で、細い身体の男は丸太にぴとっとケツをつける。


 そして先程と同様、村の若い衆がロープを引っ張って丸太を吊り上げ……一気に振り下ろす!!!


「しゃあっっっっ!!!!」


 勢いよく振り下ろされた丸太は見事、細い身体の男の貧弱極まりないケツに激突!!!

 そして、その勢いで男は思いっきり吹っ飛ばされた!!!


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッッッッッッッ!!」


「だ、ダメじゃないか!?」

「腰の骨が砕けましたな」

「大惨事じゃないか!!」

「心配ご無用」


 何がご無用なんだ。

 そう心配するヴォルガーをよそに、祭の医療班は細い身体の男を囲んで回復魔法をかけ始める。

 三人がかりの魔法は眩い光で男の細い身体を包み、数十秒ほど経つと……


「ヒョォォォーーーーーッッッッッッ!!!」


 細い身体の男は元気に飛び跳ねた!!!


「度重なる尻相撲によって、この村の医療整形技術は大変に発達していましてな。あの程度の骨折であれば問題ありませぬ」

「そ、それはいいこと……だな?」


『ただ今の記録は、3Hg!!』


 実況が記録を伝え、観衆は拍手で健闘を讃える。


「この技術を学ぶこと『も』ここに来た目的なんですよ!」


 ラピアは思い出したかのようにそう言った。


「なるほど、ちゃんとした理由があったわけか……」

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