ep.4 『臀部』①
魔王を倒す旅の道中。
ヴォルガー達の当面の目標は、魔王軍の幹部である『七沌将』の撃破にあった。
残る五人の七沌将、その居場所はわかっている。
七沌将は、この大陸に七つある『万橡の泉』から離れることができない。
この世界で最大の資源である『万橡の泉』を奪うために、それは必要不可欠な条件だと考えられている。
だからヴォルガーとラピアは、袂を分かった勇者達とは別の『万橡の泉』を目指していた。
その途中、ラピアがどうしても立ち寄りたい村があると言い出した。
「随分と賑わってるな……」
アスホ村の大通りを眺めて、ヴォルガーは呟いた。
旅の途中でいくつもの村に立ち寄ったが、ヴォルガーの知る中でもこの村の賑わいは随一といってよかった。
「この村、今日はお祭りなんですよ! いいタイミングで来られました!」
「なるほど、祭か」
(ラピアさん、だからこの村に来たがったのか? まぁ、たまの息抜きにはいいかもしれんな……)
ただでさえ戦い続きの日々。そのうえ、勇者達から理不尽に別離を言い渡された精神的な負担もある。
前に進むことばかり考えていては、身が保たないだろう。
「ところで、いい時間だがあの人はどこだろうか」
「噴水で待ってる、と手紙にはありましたが……」
ラピアは目の前にある噴水に目をやる。
わかりやすい待ち合わせ場所だ。祭の当日ということもあり、かなりの人だかりができていた。
「この中から見つけるのはちょっと面倒そうですね」
「何か他に目印があればいいが……」
「あっ!! お二人ともお久しぶりっス!!」
困っている二人に、尋ね人の方から声をかけてきた。
「プラニティス新聞社のルカっス!! お二人の担当になったんで、よろしく頼むっス!!」
現れたのは、黒縁眼鏡をかけた赤毛の少女だ。
「ルカさん、お久しぶりです!! よく見つけられましたね!!」
「なかなかの人だかりだから心配だったんだ」
「何を言ってるんスか? すぐに見つかったッスよ」
ルカはきょとんとした態度で答える。
「ヴォルガーさんを見れば一発ッス」
「……あっ」
凄まじい巨体を誇るヴォルガーは、人混みの中でもその顔がはっきりと確認できた。
周囲の一般市民で一番背の高い人間でも、ヴォルガーと比べると頭一つ分の差はあった。
顔どころか、瑞々しく膨れ上がった胸筋すら確認できる始末だ。
むしろ、噴水よりもヴォルガーの方が待ち合わせ場所になるレベルであった。
「灯台もと暗し、だな……」
「とりあえずカフェの予約はしてあるんで、行くっスよ!!」
ヴォルガーとラピアは、ルカに先導されてカフェへと赴いた。
***
大通りに面したカフェテラスは、人混みを避けてほっと一息つける居心地の良さがあった。
取材のためとはいえ、予約してくれていたルカにヴォルガーとラピアは感謝した。
「いやぁ、まさか勇者パーティが分裂するなんて思ってもみなかったッスよ」
場が暖まったあたりで、ルカは本題を切り出した。
「そうですね……正直、私達もショックでした」
「理由はなんなんスか?」
「それが……俺達にもさっぱり理解できん」
それは、ヴォルガーとラピアにとって正直な意見であった。
『乳首を開発するときの喘ぎ声がうるさすぎる』という理由での追放など聞いたことがなかった。
確かにヴォルガーは、毎晩乳首を開発している。そして、喘いでいる。
しかし、そんなに大きな声を出しているつもりはなかった。本人としては本当にそんなつもりはなかった。
「多分、ギデオンさん達はとても疲れてたんだと思います……」
「なるほど……当のギデオンさん達は口を噤んでるそうですし、謎は深まるばかりッスね」
ルカはメモ帳にさらさらと記録をしていく。
「とりあえず、記事では『何か考えがあるに違いない』みたいにまとめたッスけど」
「助かります。世間の人達も驚いてしまうと思うので……」
(勇者殿、姫君……達者にしているといいが……)
今も遠く離れた場所で戦いを続けている二人のことを、ヴォルガーは静かに思った。
そんな感傷を覚えるヴォルガーに、ルカが次の質問を投げかけようとした時だった。
隣の席からこちらをチラチラ見ていた客が、意を決したように近づいてきた。
「あの……失礼ですが、まさか貴方達は勇者パーティの……?」
その言葉をきっかけに、他の客も次々とヴォルガー達の席に集まってくる。
「わ、私もそうじゃないかと思ってて!!」
「見間違えるはずがねぇよ!! この鋼の肉体をよ!!!」
「七沌将との戦い、新聞で読みました!!」
「握手してください!」
あっという間に、ヴォルガー達はファンの群れに取り囲まれた。
「は、はは……弱っちゃいますね」
「うむ……」
ヴォルガーは長年人里離れた道場で、富も名声も求めずひたすら平和のために身体を鍛えてきた男だ。
遠征で魔物を狩ることはあっても、その反響がどれほどのものか修業時代は意識はしていなかった。
(新聞に載って有名になるのは、武勲をひけらかすようで正直好きではない。だが……)
人に囲まれて褒めそやされるのは苦手でも、彼にはこんな時に思い出す言葉があった。
かつて一緒に旅をしていたとき、有名になっていくことに戸惑うヴォルガーへ勇者ギデオンが言った言葉だ。
『インタビュー? どんどん受ければいいじゃないか。……この世界には、魔王軍の侵攻に怯えている人達が大勢いる。僕達の戦いを知ってもらうことが、そういう人達の「勇気」に繋がるはずだ』
(まぁ、悪いものでもないな)
ヴォルガーは、村人の握手に応じた。
「応援、ありがとう。励みになる」
「私も、その、がんばります!!」
ヴォルガーとラピアは、ぎこちなくも人々の声援に応えた。
「ヴォルガーさん、是非この村の祭に参加してくれ!!」
「そうだ! あんたが来てくれりゃみんな大喜びだ!!」
村人がそう頼むと、ヴォルガーが考えるより先にラピアとルカが盛り上がった。
「いいですねいいですねいいですね!! 参加しましょうよヴォルガーさん!!!」
「そりゃうちとしても大歓迎っスよ!! 是非とも記事にさせてほしいッス!!」
「そうだな。それもいいだろう」
ヴォルガーは、求めに応じて参加を決める。
どのような祭かは知らないが、人々が求めてくれるならできる限り応えたいと思った。
かつて勇者ギデオンが言っていたように、それが『勇気』に繋がるはずだから。
***
『世紀の対ケツ!! 第108回 HYPER尻相撲フェスティバル!!!』
「なんだこの祭は……」




