表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/48

ep.4 『臀部』①

 魔王を倒す旅の道中。

 ヴォルガー達の当面の目標は、魔王軍の幹部である『七沌将』の撃破にあった。

 残る五人の七沌将、その居場所はわかっている。

 七沌将は、この大陸に七つある『万橡の泉』から離れることができない。

 この世界で最大の資源である『万橡の泉』を奪うために、それは必要不可欠な条件だと考えられている。

 だからヴォルガーとラピアは、袂を分かった勇者達とは別の『万橡の泉』を目指していた。

 その途中、ラピアがどうしても立ち寄りたい村があると言い出した。


「随分と賑わってるな……」


 アスホ村の大通りを眺めて、ヴォルガーは呟いた。

 旅の途中でいくつもの村に立ち寄ったが、ヴォルガーの知る中でもこの村の賑わいは随一といってよかった。


「この村、今日はお祭りなんですよ! いいタイミングで来られました!」

「なるほど、祭か」


(ラピアさん、だからこの村に来たがったのか? まぁ、たまの息抜きにはいいかもしれんな……)


 ただでさえ戦い続きの日々。そのうえ、勇者達から理不尽に別離を言い渡された精神的な負担もある。

 前に進むことばかり考えていては、身が保たないだろう。


「ところで、いい時間だがあの人はどこだろうか」

「噴水で待ってる、と手紙にはありましたが……」


 ラピアは目の前にある噴水に目をやる。

 わかりやすい待ち合わせ場所だ。祭の当日ということもあり、かなりの人だかりができていた。


「この中から見つけるのはちょっと面倒そうですね」

「何か他に目印があればいいが……」

「あっ!! お二人ともお久しぶりっス!!」


 困っている二人に、尋ね人の方から声をかけてきた。


「プラニティス新聞社のルカっス!! お二人の担当になったんで、よろしく頼むっス!!」


 現れたのは、黒縁眼鏡をかけた赤毛の少女だ。


「ルカさん、お久しぶりです!! よく見つけられましたね!!」

「なかなかの人だかりだから心配だったんだ」

「何を言ってるんスか? すぐに見つかったッスよ」


 ルカはきょとんとした態度で答える。


「ヴォルガーさんを見れば一発ッス」

「……あっ」


 凄まじい巨体を誇るヴォルガーは、人混みの中でもその顔がはっきりと確認できた。

 周囲の一般市民で一番背の高い人間でも、ヴォルガーと比べると頭一つ分の差はあった。

 顔どころか、瑞々しく膨れ上がった胸筋すら確認できる始末だ。

 むしろ、噴水よりもヴォルガーの方が待ち合わせ場所になるレベルであった。


「灯台もと暗し、だな……」

「とりあえずカフェの予約はしてあるんで、行くっスよ!!」


 ヴォルガーとラピアは、ルカに先導されてカフェへと赴いた。


***


 大通りに面したカフェテラスは、人混みを避けてほっと一息つける居心地の良さがあった。

 取材のためとはいえ、予約してくれていたルカにヴォルガーとラピアは感謝した。


「いやぁ、まさか勇者パーティが分裂するなんて思ってもみなかったッスよ」


 場が暖まったあたりで、ルカは本題を切り出した。


「そうですね……正直、私達もショックでした」

「理由はなんなんスか?」

「それが……俺達にもさっぱり理解できん」


 それは、ヴォルガーとラピアにとって正直な意見であった。

 『乳首を開発するときの喘ぎ声がうるさすぎる』という理由での追放など聞いたことがなかった。

 確かにヴォルガーは、毎晩乳首を開発している。そして、喘いでいる。

 しかし、そんなに大きな声を出しているつもりはなかった。本人としては本当にそんなつもりはなかった。


「多分、ギデオンさん達はとても疲れてたんだと思います……」

「なるほど……当のギデオンさん達は口を噤んでるそうですし、謎は深まるばかりッスね」


 ルカはメモ帳にさらさらと記録をしていく。


「とりあえず、記事では『何か考えがあるに違いない』みたいにまとめたッスけど」

「助かります。世間の人達も驚いてしまうと思うので……」


(勇者殿、姫君……達者にしているといいが……)


 今も遠く離れた場所で戦いを続けている二人のことを、ヴォルガーは静かに思った。

 そんな感傷を覚えるヴォルガーに、ルカが次の質問を投げかけようとした時だった。

 隣の席からこちらをチラチラ見ていた客が、意を決したように近づいてきた。


「あの……失礼ですが、まさか貴方達は勇者パーティの……?」


 その言葉をきっかけに、他の客も次々とヴォルガー達の席に集まってくる。


「わ、私もそうじゃないかと思ってて!!」

「見間違えるはずがねぇよ!! この鋼の肉体をよ!!!」

「七沌将との戦い、新聞で読みました!!」

「握手してください!」


 あっという間に、ヴォルガー達はファンの群れに取り囲まれた。


「は、はは……弱っちゃいますね」

「うむ……」


 ヴォルガーは長年人里離れた道場で、富も名声も求めずひたすら平和のために身体を鍛えてきた男だ。

 遠征で魔物を狩ることはあっても、その反響がどれほどのものか修業時代は意識はしていなかった。


(新聞に載って有名になるのは、武勲をひけらかすようで正直好きではない。だが……)


 人に囲まれて褒めそやされるのは苦手でも、彼にはこんな時に思い出す言葉があった。

 かつて一緒に旅をしていたとき、有名になっていくことに戸惑うヴォルガーへ勇者ギデオンが言った言葉だ。


『インタビュー? どんどん受ければいいじゃないか。……この世界には、魔王軍の侵攻に怯えている人達が大勢いる。僕達の戦いを知ってもらうことが、そういう人達の「勇気」に繋がるはずだ』


(まぁ、悪いものでもないな)


 ヴォルガーは、村人の握手に応じた。


「応援、ありがとう。励みになる」

「私も、その、がんばります!!」


 ヴォルガーとラピアは、ぎこちなくも人々の声援に応えた。


「ヴォルガーさん、是非この村の祭に参加してくれ!!」

「そうだ! あんたが来てくれりゃみんな大喜びだ!!」


 村人がそう頼むと、ヴォルガーが考えるより先にラピアとルカが盛り上がった。


「いいですねいいですねいいですね!! 参加しましょうよヴォルガーさん!!!」

「そりゃうちとしても大歓迎っスよ!! 是非とも記事にさせてほしいッス!!」

「そうだな。それもいいだろう」


 ヴォルガーは、求めに応じて参加を決める。

 どのような祭かは知らないが、人々が求めてくれるならできる限り応えたいと思った。

 かつて勇者ギデオンが言っていたように、それが『勇気』に繋がるはずだから。


***


『世紀の対ケツ!! 第108回 HYPER尻相撲フェスティバル!!!』


「なんだこの祭は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ