ep.3 『慕情』⑤
突如ホテルを覆い尽くした荘厳なる喘ぎ声にエマは思わず助けを求めた!!!!
「むっ!!?? エマさんどうしたんだ!!??」
ヴォルガーはすぐさま乳首開発を中断して部屋を飛び出す!!!
乳首の快感に対しては尋常ならざる集中力を発揮するヴォルガーであったが、彼の熱い正義の魂と鍛え上げられた肉体は助けを求める声に対しては桃色の乳首に負けず劣らず敏感であった!!!
ヴォルガーは未知の脅威から庇うようにエマを抱き寄せた!!
「あ、あの……突然妙な声が響いて……?」
「妙な声……? それは気がかりだな……!!」
状況は理解できないが、エマは少し落ち着いてハッと気がついた。
自分が今、恋する男の腕に抱かれているということを。
もっと言えば……ヴォルガーは今、タンクトップを脱いで上半身が裸の状態であった。
初心な乙女にとってはあまりにも刺激的な状況……はしたないと思いながらもエマは、ヴォルガーの逞しい肉体に目をやった。
(……乳首がやたらとテカテカしていますわ!!???)
エマは知る由もないことだが、お気に入りの軟膏『不死鳥の涙』を塗り込んでいるが故にヴォルガーの乳首は廊下の灯りを反射するほどにツヤツヤテカテカ状態であった!!
(そもそもこの……やけに綺麗なピンク色であたかも女性のような大きさのこの乳首……一体なんなんですの!!???)
はしたないことだと理解しながらも、エマはヴォルガーの乳首から目を離せずにいた!!
そこにあったのは恋の甘い熱ではなく、ただただひたすらに困惑であった!!
「エマさん!! 何事ですか!!?」
続けてラピアも、エマの悲鳴を聞きつけて部屋から飛び出してきた。
「ラピアさん……実はエマさんが、何やら妙な声を聞いたというんだ」
「妙な声……? 私にはそんな妙な声聞こえませんでしたが……」
(あれ……? あの声を聞いたのは私だけですの……?)
「私の部屋から聞こえたのはヴォルガーくんの喘ぎ声だけでしたね……」
(!!!????)
状況が全く飲み込めず内心パニック状態に陥るエマ。
そんなエマを見かねたラピアは、ヴォルガーを手招きした。
エマに聞こえないように、小声で話したいことがある……そのサインだと理解したヴォルガーは、エマをそっと壁にもたれさせてラピアとひそひそ話を始める。
(エマさん……やっぱり魔物に襲われたことが相当怖かったんじゃないでしょうか……)
(なるほど……それでありもしない妙な声が聞こえてしまったというわけか……)
(ええ……ヴォルガーくんの喘ぎ声が奏でられる中で妙な声が聞こえるなんて、相当の精神状態としか……)
ヴォルガーとラピアは意見をすり合わせて結論に至った。
二人で同じ結論を出したのだからこれはもう間違いないだろうと確信した。
「エマさん、今日はラピアさんの部屋で寝るといい」
「ヴォルガーくんほどではないですが、私もなかなか強いですからね! 安心してボディガードをお任せください!!」
「あ、ありがとうございます……??」
状況は未だにわからないままだが、ラピアの部屋で寝れば安心ということは理解できた。
なにせ、魔王軍と戦う英雄の一人である。
夕方のような魔物の類が襲いかかってきても、心配はいらないに違いなかった。
(……ん?)
それって物凄い喘ぎ声が響きわたることの対策にはならないのでは?
混乱しながらも、エマはラピアの部屋について行った。
「エマさんは是非、壁側で寝てください! 壁の向こうではヴォルガーくんも寝ていますし、これほど安全な場所はこの世界でもそうそうありませんよ!!」
「そ、そうですわね……??」
とにかく、自分はとても安全に違いない。
混乱しっぱなしでよくわからないが、きっと寝て起きたら何もかも大丈夫になっているに違いない……。
エマが自らにそう言い聞かせてベッドに横たわったその瞬間、壁の向こうから荘厳なる喘ぎ声が「お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?? この声は一体なんなんですのなんなんですの!!???」
「ヴォルガーくんの喘ぎ声です!! ヴォルガーくんは乳首開発が生き甲斐で毎晩こうして美声を響かせてくれるんですよ!!」
「乳首!!??」
「ほら、もっと耳を澄ませてください……気分が高揚くなりますよ!!」
「お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡」
***
「大変ですヴォルガーくん!! エマさんが手紙を置いて出て行きました!!」
「なっ、なんだって!!?」
翌朝、起床したラピアが気づいた時にはエマは既に部屋を去った後であった。
「俺とラピアさんがいるこのホテルほど安全な場所は無いというのに、一体何故……」
エマが黙っていなくなった理由が全く想像もできず、ヴォルガーとラピアはただ手紙の封を切ることしかできなかった。
『ヴォルガー様 ラピア様
何も言わずに出て行く無礼をお許しください
危ないところを助けていただいたこと、傷を癒し服を直していただいたこと、心より感謝しています
この感謝の気持ちは決して忘れることはありません
むしろ、感謝の気持ち以外は一旦丸ごと一通り忘れ去りたい気持ちです
特にヴォルガー様、貴方様からはこの短い時間で本当に大切なものをいただきました
大切なものをいただきましたが、それをあっという間に失くしてしまいました
今はただ、お二人の旅路に多大な幸運があることを願うばかりです
どうか探さないでください 一人にしてください そっとしておいてください
エマ』
手紙を呼んだヴォルガーとラピアは、ただただ静かにエマの想いを噛みしめていた。
「エマさん……やっぱり、幼い頃から慣れ親しんだこの街であんなに怖い目にあったことがよっぽどショックだったんですね……」
「俺はエマさんを……この世界の人々を危険から護ることはできても、傷ついた心まで救うことはできない……!!」
ヴォルガーの心が歯がゆさと悔しさで溢れかえった。
だが、歯がゆいからこそ、悔しいからこそ、立ち止まるわけにはいかなかった。
「行こう、ラピアさん……彼女のように傷つく人が、一人でも減るように……!!」
「ええ……私達にできるのはそれしかありません!!」
≪続く≫




