ep.3 『慕情』④
それはそれとして、そろそろ部屋に戻ろうかと指立て伏せをやめて立ち上がったヴォルガーは、はっと何かに思い至ったラピアの表情に気づいた。
「……どうしたのだ、ラピアさん?」
「……もしかしてヴォルガーくん、私がヤキモチを妬いてると思ってます?」
「……?」
「ふふふ、ヴォルガーくんったら本当に可愛いですね! ヴォルガーくんが私のことを大好きなのはわかっているから大丈夫ですよ、えへへ。それに、自分の恋人が他の子にモテてるのって、ちょっと優越感も感じちゃうんですよね……あっ! 私がこんな意地悪なことを考えてたのは二人だけの秘密ですよ!! ふふふ、きっとこれからもこんな風に二人だけの秘密がどんどん増えていくんでしょうね……」
「一人で会話を進めないでくれ」
スイッチの入ったラピアは本当に手に負えないし、一体何でスイッチが入るのかヴォルガーには全くわからない。
ラピアだけで沢山だから、こういった面倒は他に抱えたくない……ヴォルガーは心からそう願った。
***
「それじゃあヴォルガーくん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみラピアさん」
夜の挨拶を交わして自室に入ったラピアを見送り、自分も部屋に入ろう……と思ったその時であった。
「あ、あの……ヴォルガー様……」
突然声をかけてきたのは、他ならぬエマであった。
夕方頃、調査のために別れて以来であった。
「ああ、エマさんか。ありがとう、貴女のおかげでこんないいホテルに泊まることができた」
「いえ、そんな! こちらこそ、何度お礼を申し上げても足りないほどですわ……」
そう言ってから数拍、エマは呼吸を整え、意を決してヴォルガーに尋ねる。
「あの、ヴォルガーさん……つかぬことをお伺いしますが……やはりその、ラピアさんとは恋人同士……なのでしょうか?」
魔王討伐のための旅をする中で何度も聞かれた質問だ。ヴォルガーはいつものように答える。
「いや……そういった噂は確かに流れているが、事実無根だ」
「そ、そうでしたか……!」
ヴォルガーは本音でそう言っていると、そんな印象を受けたエマは心が熱くなる。
しかし、次に続く一言でその熱はすーっと冷めていく。
「そもそも、俺は恋愛だなんだには関心がないものでな」
この言葉も本音だと、エマはそう感じた。
「そ、そうですの……」
(それにしても、みんなやたらとこの質問をしたがるな……俺とラピアさんの関係にそんなに興味があるのだろうか……ん? 待てよ、俺とラピアさんの関係に興味があるということは、やはりエマさんが俺に惚れているというのはただの勘違いなのでは……?)
明後日の方向に解釈したヴォルガーは、一人でスッキリとした気持ちに至った。
「エマさん、今日は大変な目にあって疲れただろう。ゆっくり休むといい」
「は、はい……!」
『恋愛に関心が無いのは本音』と思いながらもエマは、ヴォルガーの逞しい優しさに触れると心に火が灯るのを感じずにはいられなかった。
こんなに簡素な一言にも、暖かな包容力をどうしようもなく感じ取ってしまった。
「俺も日課の乳首開発を終わらせて今日はもう寝よう」
「……えっ? 何か変なことをおっしゃいましたか……?」
「いや……? 特には」
「そ、そうですわよね! すみません、私としたことが……」
「気にすることはない。おやすみ、エマさん」
「え、ええ……おやすみなさいませ、ヴォルガー様」
静かに閉じるヴォルガーの部屋のドアを見ながらも、エマはその場を立ち去ることができなかった。
ヴォルガーは恋愛というものに興味はなく、自分がどのようにアプローチしてもそれは変わらないだろうという実感。
平和のために戦い続けるヴォルガーと、戦時下においても学生の身分で日常を送り続ける自分は住む世界が違いすぎるという事実。
それらを理解しながらも、エマはすっぱりと立ち去ることができなかった。
いっそのこと、受け入れられなくてもいい。
自分勝手かもしれないが、せめてこの想いだけは彼が去る前に伝えたい。
エマは何度か深呼吸した後、意を決してドアを目の前のノックする。
「ヴォルガーさん……お休みのところ失礼します。私です、エマですわ」
「お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っ♡♡ お゛っ♡♡ んお゛ぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ お゛っっ♡♡♡ んお゛ぉぉっっ♡♡♡ お゛っっ♡♡ んお゛っっ♡♡♡」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!! たっ、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!???」




