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ep.3 『慕情』②

「ヴォルガーくん! 大丈夫でしたか!?」


 大通りに出てすぐ、女性の声がヴォルガーを呼んだ。

 声の主は、その大人の女性らしい声色に比べて小柄な修道女--ラピアであった。

 ラピアの姿を見た途端、エマは現実に引き戻されたような思いをした。

 この二人が付き合っているというのは専らの噂だ。

 先日、勇者パーティが二つに分裂したという衝撃的なニュースが世間を騒がせたばかり。

 具体的な理由についてはどの報道でも明らかになっていないが、いずれにせよこの二人は勇者と袂を分かっても行動を共にしている。

 深い関係にあるという噂も、強ち根拠の無いものだとは思えなかった。


「ラピアさん、こっちは大丈夫だ。憲兵は呼んでくれたか?」

「今、現場の裏通りに向かっているはずです。入れ違いになっちゃいましたかね」


 ヴォルガーと状況を確認しあったラピアが、エマの状態に気がつく。

 詳しいことはわからないが、服を大きく引き裂かれていることは一目瞭然であった。


「あっ、大変……怪我が無いか見せてください!」

「は、はい」


 特段怪我はしていないから大丈夫と思いつつも、エマはラピアの指示に従った。

 物陰に移動して看てみると、破られた時に爪が引っかかったのか肩の辺りに多少の出血はあった。

 ラピアはそれを治癒魔法で治すと、続いて破れた服を撫でていく。

 すると、エマのお気に入りのワンピースは見る見るうちに元の綺麗な姿に戻っていく。

 ヒーラーが治せるのは体だけではないのか、とエマは素直に驚いた。


「はい、これで元通りです!」

「あっ、ありがとうございます」


 破れたワンピースが綺麗な姿になったことを嬉しく思ったその後に、エマははたと気づく。

 破れが直った以上、胸元を隠すために借りた黒いタンクトップはヴォルガーに返す必要がある。

 温もりが離れていく名残惜しさを感じながら、エマはそっとタンクトップをヴォルガーに渡す。


「あの……これ……」

「ああ、服が直ってよかった」


 ヴォルガーがタンクトップを受け取って着る。

 エマはその動作を見て、一連の出来事に区切りがついてしまったような気がした。


「ところでエマさん、今日の宿は決まっているのか? そろそろ暗くなる。よかったら送り届けよう」


 その提案を聞いて、エマの心に閃くものがあった。


「あ、あの! 私、昔から懇意にしているホテルに泊まりますの! 叔父様が経営しておりまして……よかったらヴォルガー様……お二人もお泊まりになりませんか?」

「ふむ……確かに宿は決まってないが」

「でしたら是非! 私から叔父様にお話は通しておきますわ!」


 はっきり返事をしたわけでもないのに、エマは勢いで話をまとめようとした。

 実際宿が決まっていないのは事実なので、悪い話ではないとヴォルガーが考えていたその時、ふいに背後から声をかけられた。


「ラピアさん、ヴォルガーさん」


 声に振り向いてみると、若い男の憲兵であった。


「おぉ……本当にあのお二人だ! ご活躍はかねがね……いや、決して個人的な興味で話しかけたわけではないのです」


 ラピアが呼んだ憲兵は裏通りに向かったが、他の者がヴォルガーを尋ねに来るというのは自然な話でもある。


「ああ、エマさんを襲った魔物の話だろう?」

「はい。手間をかけて申し訳ありませんが、対策のためにも詳しくお話を聞かせていただければと……」

「いや、構わない。俺が狩った個体以外に何体もいた……下手をすると、街中に巣を作っている可能性もある」


 ヴォルガーがエマに目配せすると、


「そ、そうですわね。ホテルへの移動はお話が終わってからにいたしましょう」


 社交的な笑顔を取り繕って、エマはこの状況を飲み込んだ。

 ヴォルガーの言う通り、こればかりは仕方ない。

 仕方ないのだが、エマからすればヴォルガーと関わる貴重な機会を欠く結果になってしまった。

 ヴォルガーはラピアとともに、憲兵へ現場の状況を説明した。魔物の食事や糞といった痕跡の調査まで協力した。

 憲兵に協力したヴォルガーの調査が終わらないうちに、オーナーである叔父が迎えに来てエマは先にホテルへと帰ることとなった。

 必然的に、ヴォルガー達と夕食を取ることもなかった。

 叔父に言ってヴォルガー達を待つという選択肢もあったかもしれない。

 しかし、魔物に襲われそうになった姪を心配して『とりあえず温かいご飯でも食べて』と気遣う叔父に対してそう申し出るような積極性を、エマは持つことができなかった。

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