1-6:情報収集と現実認識
翌朝、かけるは新宿のネットカフェで目を覚ました。
25歳の身体は快調だ。昨夜の衝撃的な出来事が夢だったかのような、平和な朝。しかし手首のコンプレッサーが、すべてが現実だったことを証明している。
個室ブースでコーヒーを飲みながら、2025年の状況を調査開始。
「隕石 オルデン 2025年」
検索結果:0件。
やはり、まだ「オルデン」は発見されていない。
「天体観測 危険 小惑星 2025年」
NASA、JAXA、ESAの公式サイトを確認。地球に脅威をもたらす天体の発見報告はない。観測されている危険度の高い小惑星も、すべて数百年以上先の話。
オルデンは、まだ人類の観測範囲外にいる。
スマートフォンの「オルデン・プロジェクト」アプリを開く。昨日は概要しか見ていなかった。今度は詳細を調べてみる。
設定メニューに気になる項目を発見。
「制限解除条件」をタップ。
『現在の制限状況:
・情報アクセス:49回/50回(初期)
・詳細データ:制限中
・リアルタイム更新:不可
・追加情報パック:未解除
制限解除条件:
1. 第一段階:資金調達1億円達成 ✓
2. 第二段階:重要人物3名との接触
3. 第三段階:事業基盤確立
4. 第四段階:政府承認取得
5. 最終段階:国際協力体制構築』
このアプリは単なる情報ツールではない。壮大な計画の設計図だ。
重要人物リストを確認。
『優先接触対象:
1. 相原レナ(28歳)- 建築工学研究者
東京大学工学部 接触推奨度:★★★★★
2. 田中ハルカ(26歳)- 環境工学技術者
環境省技術開発課 接触推奨度:★★★★☆
3. 風見遼(45歳)- 内閣府防災担当
内閣府本府庁舎 接触推奨度:★★★★☆』
相原レナの詳細情報にアクセス。
『相原レナ 詳細情報:
専門:地下構造物設計、耐震工学
課題:父親の建築士としての挫折がトラウマ
接触方法:学術的アプローチが効果的
所在:東京大学工学部2号館
※残り使用回数:48回』
情報は貴重だ。慎重に使わなければならない。
そんな時だった。
ネットカフェの個室ドアの外で、足音が止まった。
普通なら気にしない。しかし、その足音は明らかに自分の前で立ち止まっている。
静寂。
5秒。10秒。
足音が遠ざかっていく。
かけるは冷や汗をかいていた。
コンプレッサーをそっと確認する。画面に小さな警告マークが点滅している。
『警告:未知のエネルギー反応検知』
『距離:約150メートル』
『タイプ:不明』
心臓が高鳴る。
他にも同じような技術を持つ者がいるのか?
窓の外を見ると、向かいのビルの屋上に人影がある。距離は約150メートル。双眼鏡のようなものを持っている。
監視されている。
慌ててカーテンを閉める。コンプレッサーの警告は続いている。
ユキトは言っていた。「歴史を大きく変えすぎると時空に歪みが生じる」と。
もしかして、自分の行動を監視している勢力があるのか?
アプリの「緊急時プロトコル」を開く。
『緊急事態対応:
・敵対的接触が確認された場合
・時空間異常が検知された場合
・計画の重大な阻害要因が発生した場合
対処法:
1. 安全な場所への即座の移動
2. 接触対象の安全確認
3. バックアップ計画の実行
4. 緊急時ネットワークの起動
注意:あなたは一人ではありません』
最後の一行が気になる。「あなたは一人ではありません」?
ユキト以外にも、この計画に関わっている者がいるのか?
コンプレッサーの警告が止まった。向かいのビルを確認すると、人影は消えている。
しかし、これで確信した。
この戦いは、想像以上に複雑だ。
かけるは急いで山梨県の鉱脈情報を確認し、書類を印刷する。
『推奨採掘地点:
山梨県南都留郡 レアメタル鉱脈
深度:地下47メートル
推定価値:3億円相当』
まずは資金を確保し、相原レナと接触する。
しかし、常に警戒を怠ってはならない。
敵が誰かはわからない。味方が誰かもわからない。
確実なのは、20年後に迫る人類滅亡と、それを防ぐ使命だけ。
ネットカフェを出る時、かけるは振り返った。
4階の窓に、一瞬人影が見えたような気がした。
見間違いかもしれない。しかし、もう疑うことはできない。
この戦いには、見えない敵がいる。
コンプレッサーを手首で確認。温かく脈動している。まるで「注意しろ」と警告しているかのように。
東京大学に向かう電車の中で、かけるは窓ガラスに映る周囲の乗客を注意深く観察していた。
人類救済の戦いが、今、本格的に始まった。
《続く》




