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2-8:他のコンプレッサー使用者との遭遇


 2025年7月3日、午後7時30分。


 東京駅周辺。夕暮れの人混みが流れる中、かけるとレナは久しぶりに二人で夕食を取っていた。


 「今日の古代技術解析、お疲れ様でした」


 レナが疲れた表情を見せながら言った。彼女の特殊能力が覚醒してから、毎日のように過去視と未来視の映像が頭に流れ込み、精神的な負担が増していた。


 「君も無理しないでくれ。能力の使いすぎは体に毒だ」


 かけるが心配そうに言う。レナの予知能力は確かに有用だが、彼女への負担を見ているのは辛かった。


 「大丈夫です。翔さんが一人で背負ってきた重荷に比べれば...」


 レナが微笑みながら答えた時、彼女の表情が青ざめ、目が見開かれた。


 「翔さん、危険です!今すぐ伏せて!」


 レナの声が響くと同時に、カフェの大きな窓ガラス全面が爆発するように砕け散った。無数のガラス片が宙を舞い、客たちの悲鳴が響く。


 鋭く圧縮された金属片が弾丸のような速度で飛来し、かけるが座っていた椅子の背もたれを完全に貫通した。椅子の木材が爆発するように飛び散る。かけるがレナの警告で咄嗟に身を伏せたため直撃は免れたが、反応があと0.1秒でも遅れていれば確実に頭部を貫通していただろう。


 「みんな、避難して!」


 かけるが大声で叫ぶと、カフェの客たちが慌てて出口に向かった。


 店の外から、一人の男性がゆっくりと近づいてくる。30代前半、鋭い目つきで明らかに敵意を放っている。そして、その右手首にはかけるのものと同型のコンプレッサーが装着されていた。


 「やっと見つけたぞ、神崎翔」


 男性の冷たい声が響く。「古代技術を独占して、自分だけが救世主になるつもりか?」


 「あなたは誰ですか?」かけるが警戒しながら聞いた。


 「俺の名前はコードネーム『ハンター』だ。お前のような偽善者を排除するのが任務」


 男性がコンプレッサーを操作すると、周囲の金属製のオブジェクトが宙に浮き上がった。


 『警告:敵対的デバイス検知』


 『防御プロトコル:起動』


 かけるのコンプレッサーが自動的に反応し、バリアのようなエネルギーフィールドを展開した。


 ハンターが圧縮した金属片を機関銃のような連射で射出する。その精密な制御技術はかけるを遥かに上回っていた。


 金属片が空中で物理法則を無視するような軌道を描き、バリアの隙間を縫うように襲いかかる。まるで生きているかのような動きで、かけるを追尾してくる。


 「翔さん、左側から3つ!右から5つ!上空からも!」


 レナが目を閉じ、未来視を最大限に活用して詳細な軌道を予知する。その情報により、かけるは体を捻り、スライディングで攻撃を回避した。金属片が彼の髪を掠めて壁に深々と突き刺さる。


 「君の予知能力、なかなか面白いな」ハンターが冷笑する。「だが、所詮は付け焼き刃に過ぎない」


 ハンターが地面のマンホールの蓋を瞬時に圧縮し、鋭利な鉄の槍へと変形させる。その精密な制御と変形速度は、かけるの技術を完全に凌駕していた。


 「くそ...」


 かけるも応戦しようとするが、戦闘経験の差は歴然だった。咄嗟に近くのベンチを盾として圧縮・展開したが、ハンターの攻撃を完全に防ぐことはできない。


 「翔さん、このままでは...」


 レナが恐怖に震えながら、再び未来視を発動させた。


 「見えます...3秒後、街灯が倒れてきます!」


 レナの警告で、かけるとレナは街灯の直撃を回避する。しかし、街灯はハンターの方向に倒れ、一瞬彼の視界を遮った。


 「今です、翔さん!」


 その隙に、かけるは側溝の蓋を盾として展開し、レナと共に近くのビルの影に避難した。


 「逃げるのか?神崎翔」ハンターが嘲笑した。「お前のような弱者が人類を救えるとでも思っているのか?」


 「俺は弱者かもしれない。でも、一人じゃない」


 かけるがレナと目を合わせた。二人の間で、無言の意思疎通が行われる。


 「レナ、ハンターの攻撃パターンを予知してくれ」


 「わかりました」


 レナが目を閉じ、額に汗を浮かべながら集中する。予知能力の使いすぎで頭痛が襲うが、かけるを守るために必死に未来を見つめる。


 「5秒後、右側から回り込んできます。7秒後に街灯柱を武器にして振り下ろし、8秒後には地面の配水管を引き抜いて槍にします!」


 レナの詳細な予知情報により、かけるは的確に対応策を取る。ハンターが回り込む前に側溝の蓋を盾にして圧縮展開し、街灯の攻撃をガードした瞬間に反撃に転じる。


 「翔さん、今!彼の左肩が0.3秒間無防備になります!」


 レナの完璧なタイミング指示で、かけるは初めてハンターに有効打を与えることができた。


 しかし、長期戦になれば確実に不利だった。ハンターの技術レベルは明らかに上で、体力的にも限界が近づいている。


 「面白いコンビネーションだが、所詮その程度か」


 ハンターが最大出力での攻撃を準備した。街全体の金属製品—車のボンネット、標識、ガードレール、電線—が一斉に浮上し、かけるとレナに向けて完璧な包囲網を形成する。


 「レナ、見えるか?」かけるが必死に聞く。


 レナが予知を試みるが、頭を抱えて苦しみ出した。


 「ダメです...未来が真っ暗で何も見えません。これは...」


 「これで終わりだ。神崎翔、偽善者は消えろ」


 ハンターが攻撃を発動しようとした瞬間、空気が凍りついた。


 文字通り、時間が停止したかのように、浮遊していた金属片が空中で静止した。かけるとレナの呼吸も、ハンターの動きも、すべてが止まった。


 「時間です」


 中性的な声が響いた。年齢不詳の人物が、どこからともなく現れた。


 その人物は、かけるでもハンターでもない、第三のコンプレッサー使用者だった。


 「これ以上の戦闘は禁止されています。シーズン1の規則に従ってください」


 「規則?」かけるが困惑した。


 第三の人物がコンプレッサーを操作すると、ハンターの攻撃がすべて無効化された。金属片は元の位置に戻り、周囲の破壊された物も瞬時に修復される。


 「まだ時期ではありません」第三の人物がハンターに向かって言った。


 ハンターが苛立ちを見せたが、何かを諦めたような表情になる。


 「チッ...今回は見逃してやる。だが次は、規則に縛られない」


 ハンターは姿を消した。まるで最初からそこにいなかったかのように。


 第三の人物がかけるとレナに向き直った。


 「神崎翔、あなたの成長は予想を上回っています。しかし、真の試練はこれからです」


 「あなたは誰ですか?」かけるが聞いた。


 「私は『アジャスター』。コンプレッサーシステムの管理者の一人です。システムには段階的な制約があり、現在はまだシーズン1。本格的な能力使用や戦闘は制限されています」


 「制限?」レナが疑問を投げかけた。


 「はい。コンプレッサー技術は段階的に開放されます。使用者の成長に合わせて、新たな機能や能力が解除される仕組みです」


 アジャスターがコンプレッサーの情報を表示した。


 『現在段階:シーズン1』


 『使用可能機能:基本圧縮、時間感知、限定防御』


 『制限機能:高度戦闘、時間軸操作、記憶改竄』


 『次段階解放条件:プロジェクト目標達成』


 「つまり、今はまだ本格的な戦いは禁止されているということですか?」かけるが確認した。


 「その通りです。ただし、古代技術の覚醒により、スケジュールが前倒しされる可能性があります。準備を怠らないことです」


 アジャスターが警告を発する。


 「ハンターのような敵対者は他にもいます。彼らの目的は単純な破壊ではなく、古代技術の独占です」


 「古代技術の独占?」レナが聞いた。


 「人類救済ではなく、選ばれた少数のエリートのみを救済し、残りを支配する計画です。あなたたちの理念とは正反対の思想です」


 かけるが拳を握りしめた。


 「そんなことは絶対に許さない」


 アジャスターが微かに頷いた。


 「その決意があれば、次の段階でも戦えるでしょう。ただし、覚えておいてください。力だけでは解決できない問題が待っています」


 「どういう意味ですか?」


 「コンプレッサー使用者の中には、あなたと同じ血を引く者もいます。家族、親族、そして...」


 アジャスターの言葉が途切れた。


 「詳細は時が来れば明らかになります。今は、チームとの結束を深めることです」


 アジャスターの姿が薄れ始めた。


 「次にお会いする時は、あなたがより強くなっていることを期待しています」


 完全に姿が消えると、周囲は何事もなかったかのような静寂に戻った。


 かけるとレナは、しばらく立ち尽くしていた。


 「翔さん...」レナが震え声で言った。「私たちが戦わなければならない相手は、想像以上に複雑ですね」


 「ああ。でも、今日君がいてくれたおかげで、何とか乗り切れた」


 かけるがレナの肩に手を置いた。


 「君の予知能力がなければ、俺は確実に負けていた」


 「私だって、翔さんがいなければ何もできませんでした。これからも一緒に戦いましょう」


 二人は、新たな決意を込めて頷き合った。


 コンプレッサーが新しいメッセージを表示した。


 『段階2-8完了:初回戦闘経験』


 『敵データ登録:ハンター級敵対使用者』


 『連携確認:予知サポート有効性95%』


 『警告:高度脅威接近中』


 『推奨:チーム能力強化が必要』


 夜の東京に消えていく二人の影。彼らの戦いは、これまでとは全く異なる次元に突入しようとしていた。


 技術だけでなく、血族をめぐる複雑な対立、そして人類の未来をかけた思想の争いが待っている。


 しかし、かけるとレナの絆は、この困難に立ち向かう大きな力となっていた。


 古代技術、現代の知恵、そして仲間との信頼。すべてを結集して、彼らは真の試練に挑もうとしている。


《続く》

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