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2-2:オルデン・リソーシズの急成長と専門家集結


 2025年5月10日、午前6時。


 静岡県伊豆半島の深い山間部。朝霧が立ち込める人里離れた森の中で、かけるは第二鉱脈の「発見」に向けた最終準備を進めていた。


 コンプレッサーのアプリが示す座標は、北緯34度58分22秒、東経138度55分17秒。推定価値5億円相当の金鉱脈が、地下73メートルに眠っている。


 「今度も完璧にやらなければ...」


 かけるは慎重にコンプレッサーを起動し、地下深部への探査を開始した。温泉開発のための基礎調査という表向きの許可は既に取得済み。すべては演出通りに進む必要がある。


 圧縮採取したサンプルを元のサイズに復元すると、美しい金色に輝く鉱石が現れた。純度は99.2%。山梨県の発見を上回る品質だった。


 3日後、2025年5月12日。


挿絵(By みてみん)


 東京の高級ホテルのスイートルームで開催された特別会見は、オルデン・リソーシズにとって運命の分岐点となった。


 「信じられません!この純度の金鉱脈は、世界的にも稀少です」


 東京大学の鉱物分析権威である教授が興奮して声を上げた。会見場に詰めかけた投資家たちの表情は、もはや疑念から純粋な期待と興奮に変わっていた。


 「神崎社長、この探査技術の特許状況は?」


 シンガポールの投資ファンド代表が身を乗り出した。


 「基本特許は申請中です。ただし、技術の核心部分は企業秘密として厳重管理しております」


 かけるは慎重に答えた。コンプレッサーの存在を知られるわけにはいかない。


 「追加投資を検討したいのですが、どの程度まで受け入れ可能でしょうか?」


 香港の投資会社幹部が質問した。


 「現在、10億円規模での資金調達を計画しております。用途は大規模探査活動と、革新的な建設プロジェクトの開始です」


 10億円という金額に、会見場にざわめきが起こった。設立間もないベンチャー企業としては破格の規模だった。


 「建設プロジェクトとは?」


 「防災関連の地下施設建設を予定しております。詳細は投資契約を結んでいただいた方々にのみお伝えします」


 この発言で投資家たちの興味はさらに高まった。革新的な技術、確実な利益、そして秘密めいた建設プロジェクト。すべてが彼らの投資欲をかき立てていた。


 2025年5月15日、夜9時。


 新宿のオルデン・リソーシズ本社で、かけるは資金調達の成果を確認していた。10億円の目標は、予想を上回る速さで達成された。


 シンガポールから2億円、香港から3億円、国内ファンドから5億円。投資契約書の束が机の上に積まれている。


 しかし、真の変化はこれからだった。


 2025年5月16日、朝10時。


 本格的な地下都市建設計画のため、各分野の専門家たちがオルデン・リソーシズの新しい会議室に集まった。


 この日に至るまでの1週間、かけるは風見の協力を得て、日本でトップクラスの専門家たちにアプローチを続けていた。


 「防災関連の地下施設建設プロジェクト」という表向きの説明では、なかなか一流の専門家は振り向いてくれない。しかし、オルデン・リソーシズの相次ぐ鉱脈発見と10億円という潤沢な予算は、多くの研究者の関心を引いた。


 特に決め手となったのは、かけるの「3,000万人の命を救う」という強い信念だった。面接で語られる彼の熱意に、多くの専門家が心を動かされた。


 既に参加していたレナ、ハルカ、風見に加え、新たに5名の専門家が加わった。


 「皆様、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」


 かけるが挨拶を始めると、新メンバーたちは期待と好奇心の表情で注目した。


 最初に紹介されたのは佐藤ケンジ(42歳)だった。


 「東京メトロで20年間地下鉄建設に従事してきました。地下100メートルの岩盤層なら、震度8でも耐えられる構造が可能です」


 佐藤の重厚な声に、会議室の空気が引き締まった。地質工学博士として、これまで数々の困難な地下建設プロジェクトを成功させてきた実績がある。


 続いて山田ミユキ(38歳)が自己紹介した。


 「心理学博士として、国際宇宙ステーションの心理サポートチームに参加した経験があります。長期地下生活には、疑似自然環境と社会的交流空間が不可欠です」


 山田の穏やかだが確信に満ちた声が続いた。閉鎖環境での人間行動研究の第一人者として、彼女の知見は地下都市計画に必須だった。


 李明華(リ・メイカ、45歳)は、シミュレーション工学の専門家として参加した。


 「3,000万人の避難・居住シミュレーションは可能です。ただし、計算には膨大な時間が必要になります」


 李の冷静な分析に、皆が真剣な表情を見せた。大規模災害シミュレーションシステムの開発者として、複雑なデータ処理の現実を熟知している。


 高橋シンイチ(50歳)は、電力システムエンジニアとして豊富な経験を持っていた。


 「地熱と地下水流を利用すれば、永続的な電力供給が可能です。原子力発電所の設計経験と自然エネルギー活用の知識を組み合わせれば、理想的なシステムを構築できます」


 最後に紹介されたのは、ナタリー・ブラウン(33歳)だった。


 「NASA火星基地計画の食料システム設計に参加していました。垂直農法と培養肉技術を組み合わせれば、1人当たり10平米で完全自給可能です」


 ナタリーの明るい声に、未来への希望が込められていた。


 「以上の皆様と、既にチームメンバーである相原レナさん、田中ハルカさん、風見遼さんとで、人類史上最大の建設プロジェクトを成功させます」


 かけるの言葉に、10名の専門家たちが熱い視線を向けた。


 「ところで神崎社長」佐藤が真剣な表情で切り出した。「地下都市の建設深度はどの程度を想定していますか?」


 「隕石の衝撃から完全に守るには、地下5キロメートルが必要です」


 かけるの答えに、専門家たちの間に緊張が走った。


 「5キロ?」高橋が驚きを隠せない。「その深度では地温が150度を超えます。さらに岩盤圧力は想像を絶するレベルです」


 「その通りです」佐藤が技術的な説明を加えた。「地下5キロでは、1平方センチあたり1.3トンの圧力がかかります。通常の建設技術では不可能です」


 「温度管理も深刻な課題ですね」ハルカが環境工学の観点から指摘した。「地熱勾配を考えると、深度100メートルごとに約3度上昇します。5キロなら150度以上...人間が生存できる環境ではありません」


 李がシミュレーション結果を示した。


 「従来の掘削技術では、5キロの深度に達するだけで10年以上かかります。しかも、その環境で建設作業を行うのは...」


 「不可能に近い」佐藤が結論づけた。


 しかし、かけるは落ち着いていた。


 「実は、革新的な掘削技術を開発中です。詳細はまだお話しできませんが、掘削速度を100倍以上に高速化し、同時に温度と圧力の問題も解決する方法があります」


 「100倍?」ナタリーが目を丸くした。「それは理論的に可能なのですか?」


 「可能です。ただし、従来の機械掘削とは全く異なるアプローチです」


 かけるは内心で考えた。コンプレッサーの圧縮技術を使えば、岩盤を分子レベルで再配置し、掘削と同時に強固な外殻を形成できる。しかし、その真実をまだ明かすわけにはいかない。


 「興味深いですね」佐藤が前のめりになった。「もしそれが実現すれば、建設業界の常識が覆ります」


 「温度管理についても」高橋が技術的な提案をした。「地熱を逆に利用して発電し、その電力で冷却システムを動かす。エネルギーの完全循環が可能かもしれません」


 「圧力についても」ハルカが続けた。「生物の深海適応メカニズムを応用すれば、圧力差を段階的に調整する設計が可能です」


 専門家たちの議論が白熱する中、かけるは彼らの知識と情熱に確信を深めた。コンプレッサーの技術と、これらの専門知識を組み合わせれば、不可能を可能にできる。


 その瞬間、オフィスの照明が不自然にちらついた。


 皆が天井を見上げる中、かけるだけはコンプレッサーの異常反応に気づいていた。


 『警告:時空間の歪みが拡大中』


 『検知:未知のエネルギー反応』


 『注意:観測者効果により、タイムライン分岐の可能性』


 会議を続けながら、かけるの心の中に不安がよぎった。なぜ他にもコンプレッサー使用者がいるのか?ユキトは、なぜそのことを隠していたのか?


 『同位相デバイス検知:距離約150メートル』


 『行動パターン分析:監視・情報収集』


 『推定:敵対的意図なし、情報収集が目的』


 別のコンプレッサー使用者が、この建物の近くで活動している。しかし、その目的は不明だった。


 「神崎社長、最初のミーティングはいつ頃を予定していますか?」


 佐藤の質問で、かけるは現実に引き戻された。


 「明日の午後2時から、第一回の全体会議を開催します。地下都市の基本設計について、皆様の専門知識を結集して議論しましょう」


 「楽しみです。これまでの常識を超えた建設が始まりますね」


 レナが期待を込めて言った。


 「技術的には非常に挑戦的ですが、それだけにやりがいがあります」


 ハルカも興奮を隠せずにいた。


 会議が終了し、新メンバーたちが帰った後、かけるは一人で窓の外を見つめていた。新宿の夜景はいつも通りだが、どこかに謎の監視者がいる。


 『デバイス移動:南東方向に離脱』


 『警告表示終了』


 コンプレッサーの警告が消えた。謎の人物は去ったようだ。


 その夜、かけるはセキュリティシステムの記録を詳しく調べた。午後6時から7時の間、監視カメラが断続的にブラックアウトしていたことが判明した。


 しかし、侵入者の記録は一切ない。まるで、カメラの死角を正確に把握した人物が、巧妙に建物内を移動したかのようだった。


 デスクの上の資料の順番も、微妙に変わっている。誰かが確実に内容を確認した形跡があるのに、コピーされた様子はない。


 「情報収集...」


 コンプレッサーの分析通りだった。この謎の人物は、オルデン・リソーシズの活動を詳細に調査している。しかし、妨害や破壊ではなく、純粋に情報を収集することが目的のようだった。


 翌朝、レナから電話がかかってきた。


 「翔さん、おはようございます。昨日の新メンバーの皆さん、本当に素晴らしい専門家ばかりですね」


 「はい。これで本格的な計画が開始できます」


 「実は、ハルカさんと少しお話しする機会があったんです。環境システムの統合について、非常に興味深いアイデアをお持ちでした」


 レナの声には興奮が込められていた。


 「それは楽しみです。今日の会議で詳しく聞かせてもらいましょう」


 電話を切った後、かけるは複雑な心境だった。


 プロジェクトは順調に進んでいる。資金調達も成功し、優秀な人材も集まった。しかし、謎のコンプレッサー使用者の存在が、計画に不確定要素をもたらしている。


 コンプレッサーを見つめながら、かけるは決意を新たにした。どんな監視者が現れても、人類救済計画を成功させる。そのために、最高のチームを築き上げるのだ。


 人類救済計画は、いよいよ本格的な設計段階に入ろうとしていた。希望と不安、そして謎を抱えながら。


《続く》

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