表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

1-10:最初の成功と不穏な兆候


 2025年4月25日、午前6時。


 かけるは山梨県西桂町にしかつらまちの森林地帯で、静寂に包まれた朝を迎えていた。昨日、鉱業探査権の正式許可が下りた。今日が「運命の発見」の日だ。


 森の中に設置した簡易テントの中で、かけるは最後の準備を整えていた。地質調査の機材、サンプル採取用の容器、そして何より重要なコンプレッサー。


 アプリの座標情報を再確認する。北緯35度28分14秒、東経139度01分03秒。地下47.3メートル地点。


 誰もいない森の中で、かけるはコンプレッサーを起動した。


 手首のデバイスが青白く光り、目に見えない力が地中深くに浸透していく。表層土壌、地下水脈、硬質岩盤層を通り抜け、目的の鉱脈に到達する感覚がはっきりとわかる。


 慎重に、米粒サイズに圧縮した鉱物サンプルを採取する。地表には一切の痕跡を残さない。まさに「奇跡の技術」だった。


 採取したサンプルを元のサイズに復元すると、確かにレアメタルを含む鉱石が現れた。リチウム、コバルト、ニッケルの含有量は、アプリの予測通り極めて高い。


 「完璧だ...」


 かけるは小さくつぶやいた。これで「偶然の発見」を完璧に演出できる。


 2025年4月26日、午後2時。


 東京の投資会社の会議室は、興奮に包まれていた。


 「信じられません。この含有量なら、世界トップクラスのレアメタル鉱脈です」


 鉱物分析の専門家が驚嘆の声を上げた。


 「推定埋蔵量3億円相当というのは、控えめな見積もりかもしれません。実際にはその倍以上の価値があるでしょう」


 投資家たちがざわめいた。


 「神崎さん、この探査技術の詳細を、もう少し教えていただけませんか?」


 主席投資家の杉山すぎやまが身を乗り出した。


 「申し訳ありませんが、技術の核心部分は企業秘密となっております」


 かけるは慎重に答えた。


 「ただし、従来のボーリング調査では到達困難な深度から、環境負荷ゼロでサンプル採取が可能という点は実証できました」


 「素晴らしい。オルデン・リソーシズへの投資を正式に決定します。3億円での出資契約を結ばせていただきたい」


 会議室に拍手が響いた。


 2025年4月27日、夕方。


 新宿のビジネスタワー20階に設けられたオルデン・リソーシズの本社オフィスで、かけるは相原レナと打ち合わせを行っていた。


 「翔さん、実証実験用地下都市の基本設計ができました」


 レナがデスクの上に設計図を広げた。


 「収容人数1,000人、居住期間2年間を想定しています。地下25メートルの深度に建設し、完全自己完結型の生命維持システムを搭載」


 設計図は驚くほど詳細で、美しいデザインだった。


 「素晴らしいです。レナさんの技術力には本当に驚かされます」


 「ありがとうございます。でも、実際の建設となると...」


 レナは少し不安そうな表情を見せた。


 「建設費だけで50億円、工期は2年間が必要です。本当に大丈夫でしょうか?」


 「資金については問題ありません。山梨県の鉱脈開発で十分な資金を確保できます」


 かけるは自信を持って答えた。未来のデータベースには、他にもいくつもの鉱脈情報が記録されている。


 「建設地は群馬県の山間部を予定しています。人里離れた場所で、秘密裏に建設を進めることができます」


 その時、レナが奇妙な表情を見せた。


 「翔さん、変な質問かもしれないんですけど...」


 「はい、何でしょう?」


 「最近、既視感を強く感じるんです。まるで、これから起きることを前もって知っているような...特に、翔さんと話している時」


 かけるの心臓が高鳴った。これは予想していなかった反応だ。


 「既視感、ですか?」


 「はい。例えば、今この瞬間も、以前に同じ会話をしたような気がするんです。でも、確実に初めて話す内容なのに...」


 レナは困惑した表情で首をかしげた。


 「もしかして、翔さんの持っている知識が、私にも何らかの影響を与えているのでしょうか?」


 かけるは慎重に答えた。


 「私の持っている知識が、あなたに何らかの共鳴を起こしているのかもしれませんね。運命的な出会いというものは、時として不思議な現象を引き起こすのかもしれません」


挿絵(By みてみん)


 2025年4月28日、深夜。


 オフィスで一人残って作業していたかけるは、奇妙な違和感を覚えた。


 まず、エレベーターの音がした。しかし、この時間帯にビルに入れるのは、セキュリティカードを持つ関係者だけだ。


 次に、廊下から足音が聞こえた。ゆっくりとした、規則正しい足音。オフィスの扉の前で止まった。


 かけるは息を殺して耳を澄ませた。しかし、それ以上何も起こらなかった。


 恐る恐るドアを開けて廊下を見回したが、誰もいない。


 「気のせいか...」


 かけるがオフィスに戻ろうとした時、コンプレッサーが異常な反応を示した。


 手首のデバイスが激しく点滅し、警告音が鳴り響く。


 『警告:時空間異常を検知』


 『同位相の量子シグネチャーを確認』


 『未知のデバイスが近接している可能性があります』


 かけるは愕然とした。別のコンプレッサーが存在するということか?


 しかし、画面の表示はすぐに消え、デバイスは通常の状態に戻った。


 「一体、何が起こっているんだ...」


 翌朝、オフィスに出勤したかけるは、さらに奇妙な事実を発見した。


 セキュリティシステムの記録を確認したところ、昨夜の時間帯に侵入者の記録はない。監視カメラにも、怪しい人影は一切映っていなかった。


 しかし、かけるのデスクの上に置いてあった書類の順番が、微妙に変わっている。誰かが確実に触れた形跡があるのに、何も盗まれていない。


 まるで、情報を「コピー」されただけのようだった。


 2025年4月30日、夜10時。


 自宅のマンションで、かけるは一人でコンプレッサーを見つめていた。


 デバイスが突然、かすかに光った。そして、今まで見たことのない表示が現れた。


 『Phase 1 Complete.』


 『Initializing Phase 2...』


 『新しい機能が解除されました』


 「フェーズ1が完了?フェーズ2?」


 かけるは困惑した。ユキトは、このような段階的な機能解除については何も説明していなかった。


 新しく解除された機能を確認してみる。


 『時空間監視モード』


 『他のコンプレッサー検知機能』


 『緊急時バックアップシステム』


 特に気になったのは、「他のコンプレッサー検知機能」だった。これを起動してみると、驚くべき情報が表示された。


 『検知結果:同型デバイス 2台確認』


 『デバイスA:現在位置不明(間欠的検知)』


 『デバイスB:現在位置不明(監視モード)』


 『注意:デバイスBは敵対的行動パターンを示しています』


 かけるの背筋に冷たいものが走った。


 自分以外にも、コンプレッサーを持つ人間がいる。しかも、そのうちの一人は「敵対的」だというのか。


 ユキトは、なぜこのことを教えてくれなかったのか?


 窓の外を見ると、新宿の夜景が美しく輝いている。平和で繁栄した2025年の東京。20年後、この景色は灰色の絶望的な世界に変わる。


 しかし今、希望への第一歩を踏み出した。オルデン・リソーシズは順調に成長し、レナという最高の協力者を得た。実証実験用地下都市の建設も始まろうとしている。


 だが同時に、新たな謎と脅威も現れた。


 「俺には20年ある。絶対に人類を救ってみせる」


 かけるは窓に向かって静かに誓った。


 「でも...この道のりは、想像以上に複雑になりそうだ」


 コンプレッサーが手首で微かに脈動している。Phase 2の開始を告げるように。


 人類救済計画は、新たな段階に入った。しかし、それは同時に、未知の敵との戦いの始まりでもあった。


 かけるは決意を新たに、明日への準備を始めた。どんな困難が待ち受けていようとも、人類の未来を守り抜く。それが、平凡だった自分に与えられた、最も重要な使命なのだから。


《第1章 完》


---


## 第2章への予告


地下都市建設が本格始動する一方で、謎のコンプレッサー保持者との暗闘が始まる。果たして彼らは敵なのか、それとも同志なのか?そして、ユキトが隠していた真実とは?


人類救済計画は、さらなる試練と謎に満ちた第2章「建設への道」へと続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ