湾岸戦争
現代の多くの日本人が「戦争」を見た最初の戦争がこの湾岸戦争ではないだろうか。もちろんそれ以前から戦争は起きていたし、それこそイラン・イラク戦争は今の50代以上であればテレビニュース報道で見てきている。ただ、リアルな映像は流れていない。
そのリアルでいて、全く現実味が無かった映像を見る事となったのはこれが最初だと思われる。
イラン・イラク戦争で多大な負債を背負ってしまい、イラクの事情はみんなわかってるはずなのに容赦なく支払い要求が行われる。
困窮するイラクに容赦なく請求するクウェート。だというのにクウェートは取り決めを無視して原油を増産。市場に余れば価格は下がる。当然、イラクも石油輸出による収入が激減する。
元々、クウェートはイラクの一部という認識でいた事もあり怒りぷんぷんのサダムはクウェートに支払う負債なんてねぇ!と突っぱねるがクウェートはそれを許さない。
イラクとクウェートの国境には巨大な油田があり、イラクはクウェートがイラク側の油田で盗掘をしたなと、それを理由としてクウェートへと侵攻、わずか2人で陥落させクウェートをイラクへと併合。
が、イラン・イラク戦争ではイラクを支援してくれたアメリカはもちろんの事、アラブ諸国すらもイラクを非難。
イラン・クウェートという2国間のもつれからそのままイラク対(主に)西側諸国という流れとなる。アメリカはイラン・イラク戦争においてイラクを支持したのではなくイランに敵対していただけ。つまり、イラクとアメリカは盟友でも何でもない。
当然、ここでアメリカが動いたのも正義のためではなく自国の利益のため。国連を無視してアメリカがイラク叩きに走り出してしまったので国連は否応なしにアメリカを中心とした「多国籍軍」という形で対イラク戦争へと突入、湾岸戦争が始まる。
イラクとしてはアメリカが敵となる事ぐらい想定済み。ただアラブ諸国を代表してイランと戦ったはずなのに今回のクウェート侵攻ではそれすらも敵となってしまったのは想定外。
そこでイラクが採った戦略が対クウェートではなく、今回の戦争は対イスラエルの聖戦、これはジハドであるという態度。
ムスリムにとってジハド、それも対イスラエルとなるとやっぱりそれは無視出来ない。特に直接イスラエルから被害を受けていたパレスチナ人にとっては対イスラエルを掲げてもらえるだけでありがたい。
これによって、パレスチナがイラク側となる。
本来、無関係であったはずのイスラエルはこのイラクの戦略に巻き込まれ国内にミサイルをガンガン撃ち込まれてしまう。ただ、ここでイスラエルが対イラクに乗り出すと、それは本当に宗教戦争となってしまう、それこそがイラクの狙い。イスラエルが乗りだしたら今は対イラクに動いているアラブ諸国も対イスラエルに方針を切り替えてしまう。
アメリカだとかの説得を受けてイスラエルは報復を我慢。実際、もし湾岸戦争にイスラエルが参戦してしまっていたら、また中東戦争になっていた。そんな事になると石油危機となって世界中が困る。
幸いにして、この時はイスラエルは耐え、イラク1国ではどうしようもなく多国籍軍の圧勝で湾岸戦争は終結。
イラクを支持してしまったパレスチナ…パレスチナ解放機構が窮地に立たされる。クウェートへ避難していたパレスチナ人はクウェートから強制退去させられるという悲惨な事に。うん、まあ、クウェートはただの可哀想な被害者じゃないよ。今回のウクライナもそうだけど、侵攻を受けるには受けるだけの理由はあり、それは侵攻した側の一方的な暴力とは決して言いきれない部分はある。
面白いのはウクライナもクウェートも日本には全く感謝していないという事だろう。とんでもない額の金を出したあげく、どちらの国の感謝国リストからも外されてるからね。ウクライナは言い訳はしたけど、実際日本に感謝なんてしてないよ。
イラクは敗れたわけだけど、これで支配者層が一掃されたわけでもなく、依然としてサダム・フセインが大統領として存在し続けていて、国としては何も変わっていない。ただ国力が衰えただけ。
その後、イラクは(イラクとは無関係である)911の同時多発テロが何故かきっかけとなりアメリカに無法な侵略を受ける事となる。が、この辺りは解説する必要も無い気がする。イラク戦争は実質「侵略戦争」ですよ、えぇ。これによりサダムが打倒されイラクはシーア派国家となり、同じシーア派国家であるイランとお友達関係となる。
応仁の乱のごとく、中東は敵味方がコロコロ入れ替わるので、何故そんな関係になってるのかをしっかり把握しないといけない点に注意。
イラン・イラク戦争ではイラクとアメリカ、イランとイスラエルが組んでいた。けど、イラク戦争後にはイランはイラクと仲が良くてイスラエルとは犬猿の仲。アメリカはイスラエルを支持している。けれど、流れを追っていけばそれらの関係はどこもおかしくない。イラン帝国とイラン共和国が別の国であるように、今のイラクはサダム体制の頃のイラクとは別の国なので。アメリカにしたところで基本的にはイスラエル支持ではあるけれど、大統領次第で立ち位置がコロコロ変わるので。
ただ、共通の敵が現れたからといってこれらの国々が仲良くなるかといえば、そんな事は無いというのはISILが証明している。イラクの元支配者層にも現在のイラクにもイランにもアメリカにも…まあほぼあらゆる勢力に敵とされたわけだけど、別にだからといって「敵の敵は味方」とはならなかった。協力したんじゃなくて互いに勝手に対ISILで動いただけっていう。
次に語るべきは、イランとイスラムの西側に過激派組織とされてる組織との関係だろうか?イランは今まで説明してきた通り、シーア派。イランと関係が強いとされているのはヒズボラとハマス。ただハマスはスンナ派。なのに何故そうなるのかという。まあ、互いに味方が少ないからで終わる話な気もするけど。ただ、上述の通り、イランというのは中東において孤立無援というわけではなく、少なくとも隣国イラクとの関係は良好なのである。
現在のあの地域の動きを知るにあたって、実のところ西側に過激派とされる組織についてはほぼほぼ知る必要はない。今回ちらっと名前出したISILも今後説明する気はない。ただの異物で何というか物語でいうなら「外伝」の立ち位置。